161ー大森林の遺跡、再調査
長老とアヴィー先生はと言うと……
大森林の遺跡調査もしなければならなくなった事と、長い期間長老が留守をしていたので仕事が山積みらしい。
なのにだ……
「ハル! 待ってたぞ!」
「ハルちゃーん!」
「じーちゃん! ばーちゃん!」
リヒト達がカエデの訓練からベースに戻ると、長老とアヴィー先生2人仲良く来ていたりする。本当に忙しいのか?
「やだ、リヒト。またその変な髪型しているの?」
アヴィー先生に指摘された通り、リヒトは久しぶりに例のドレッド擬きの髪型をしている。ヘアバンドの様な紐も着けている。
「アヴィー先生、あれ面倒なんですよ」
「なぁに? ミーレがやってるの?」
「そうなんです。久しぶりにすると指が攣りそうになっちゃって」
「まあ! もう止めれば良いのに。せっかくの綺麗な髪が台無しだわ」
「そうよね。あたしもそう思うわ」
女性陣と虎1匹には不評らしい。
「てか、長老はベースに来ていても平気なのか?」
「リヒト、今日は仕事だ」
「なんだよ?」
「あれだ、大森林の遺跡調査だ」
「えぇ〜……」
ハルさん、嫌そうだ。
「どうした、ハル」
「もう遺跡は飽きたじょ」
「アハハハ! ハル、しかしあの壁画があるかも知れんからな。調査しない訳にはいかない」
「ん……分かっちゃ」
「取り敢えず、ここから1番近場の遺跡だ」
「長老。で、いつからだ?」
「明日にでもな」
「じーちゃんは一緒なのか?」
「ああ、ワシも同行するぞ」
「私も行くわよ。こんな興味深い事同行しない訳にはいかないわ」
と、言う事で。またまた遺跡調査に来ている一行。いつものメンバーに加えて、アヴィー先生も一緒だ。
「本当はね、リュミも来たがっていたのよ」
「母が?」
「そうよ、リヒト。リュミは研究者だから」
「なるほど」
「しかし、そんなにゾロゾロ行ってもな」
なるほど。研究者にとっては新しい発見があるかも知れないとなると、自分の目で見ておきたいのだろう。
「エルフって本当反則よね」
シュシュがまた全然関係のない事を言っている。シュシュはリヒト達の乗るユニコーンについて並走している。
「シュシュ、なんだよ?」
「まさか、ユニコーンまで出てくるなんて思わなかったのよ」
「なんだよ、まだ言ってんのか?」
「だって、リヒト。あなた達、分かってるの? ユニコーンよ! ふざけているわよ! しかも綺麗じゃない! 悔しいわ!」
ツヴェルカーン王国から大森林の北西にあるベースまで一旦戻り、そこからユニコーンに乗り換えてエルヒューレ皇国に向かっていた時にもシュシュは同じ事を言っていた。
「せやろ! 自分も同じ事思ったわ! 伝家の宝刀か! ちゅうねん。あれ? あってるかにゃ?」
カエデ、意味不明だぞ。シュシュだって、聖獣だ。珍しい白虎だ。自分だって伝説級なのに分かっていない様だ。
先頭を走るリヒトのユニコーンには、小さなハルがちょこんと乗っている。
「りひと、右から中型ら」
「おう」
ハルが言った方向から中型の魔物が出てきた。リヒトが一刀で倒す。直ぐ後ろを走るルシカがマジックバッグに収納する。もう、この連携は完璧だ。
ベースから半日もかからず目的の遺跡に到着した。
「やっぱヘーネの大森林は精霊が多いじょ」
「ハルちゃん、そうなの?」
「ん、ばーちゃん。もう、ここりゃ辺にいっぱいいりゅんら。ウハハ、分かっちゃって。くしゅぐったいじょ」
ハルが自分の周りに沢山の精霊がいると言っている。何か話しているのだろう。
「精霊で前が見えねー」
ハルさん、ちょっと大変らしい。
以前、ドワーフの職人見習いの2人が無理矢理割って開けた遺跡の入り口は綺麗に補修されていた。
あの時、長老が間に合わせで補修していたが、その後ちゃんとした蓋を付けたらしい。
「おう、綺麗になっとるな」
「じーちゃん、ろーやって入りゅんら?」
「ん? 普通に開けるんだ。よっと……」
長老は普通に遺跡の入り口の蓋に手をやり、よっこいしょとずらして開けた。
「エルフ族以外の種族は結界で触る事も出来ないがな」
なるほど、結界が張られているらしい。しかも、エルフ族だけが触れられるという結界だ。
下へと続く階段を一行は下りて行く。
「ワクワクするわね。本当に遺跡の地下にこんなものがあるなんて」
「ここが真っ黒な靄でいっぱいになってたんやんな?」
「意外と近場なのね」
アヴィー先生やカエデとシュシュはこの遺跡の地下へ入るのは初めてだ。アヴィー先生は、地上にある建物の遺跡の調査はした事があるらしい。
「リュミの若い頃にね、何度か調査したわ」
リュミとはリヒトの母の名だ。研究者であり学者でもある。ハルに初めて魔法を教えたのがリヒトの母だ。
以前、リヒト達がこの地下遺跡に入った時は瘴気の黒い靄が充満していたが、今は勿論瘴気の靄などない。両側に壁画のある通路を行く。通路の突き当りにある扉を開けて広間の様な部屋へと入って行く。
部屋の最奥には、祭壇の様な場所に浄化したばかりの透明なクリスタルが輝いている。
「ハル、何か分かるか?」
「ん……しょっか……分かっちゃじょ。じーちゃんここら」
ハルが壁の一角に手を添えた。すると、蜃気楼の様に壁の表面が揺らぎ壁画が現れた。ドラゴシオン王国にあった遺跡と同じだ。
「これは……原初のエルフよね?」
「アヴィー、よく見るんだ」
「長老?……あ、原初のエルフは皆ハイエルフなのね」
「そうだ、髪色と耳の形から推測するとそうなる。ここに描かれているのはハイエルフのみだな」
「じーちゃん、ここも順番がありゅんらって」
「ここは最初だな?」
「ん、じゅっと昔はヒューマンの国がなくて魔物がいっぱいらったんら。らから、ここが1番最初に作りゃりぇた」
「なるほど。だからこの遺跡が最初に瘴気が漏れ出したのだな」
「ん、しょうらって……ん、分かっちゃ」
ハルが精霊と話している。何か聞いたらしい。