145ー潜入と確認
「じゃあ、打ち合わせをしよう」
「あー、ハルちゃんおネムや」
「ハル、いらっしゃい」
「ん、みーりぇ」
ハルはミーレに抱っこされて夢の中へ……
大人達は今後の段取り等を話し合う。アヴィー先生、どうか大人しくしていてくれよ。
「じゃ、明日の朝決行で」
「分かったわ、リヒト」
「俺とルシカはニークを保護しに行ってくる。長老はハル達とここで待機していてくれ」
「ああ。リヒト、頼んだぞ。出来るだけ目立たん様にな」
長老、それは無理だろう。なんせ、エルフだ。超見目麗しいエルフ族だ。
「ルシカと転移して行くさ」
「ああ、それがいい。それが1番人目につかん」
なるほど。長老が飛び抜けているので忘れがちだが、リヒトもできる奴だ。なんせ、最強の5戦士の1人だ。ハイエルフだ。
「じゃあ、そう言う事でアヴィーにもパーピを飛ばしておくぞ」
「長老、俺たちが行くまで待つようにも伝えてくれ」
「ああ、もちろんだ」
「ねえ、そのパーピってなあに?」
そうか、シュシュは知らなかったか。パーピとはエルフだけが使える連絡手段だ。エルフにしか見る事のできない蝶が一瞬の内に伝えてくれる。
ミーレは使えない。何故なら、訓練するのが嫌いだから。決して、ハイエルフしか使えない訳ではない。実際にエルフでも使っている。
「パーピだ。シュシュには見えるか?」
「あら、長老。すっごく綺麗な蝶なのね。七色の羽の蝶なんて見た事ないわ」
「やはり聖獣には見えるのか?」
「ふふん。あたし、才能溢れる聖獣だからね」
コハルがいれば突っ込まれているところだが、コハルもハルと一緒にお昼寝だ。ちびっ子コンビだからな。
さて、翌日。イオスとシュシュの潜入チームは前大公邸へ。リヒトとルシカはアヴィー先生の自宅にいるニークを念のため保護する事に。
「え、おりぇも行きたいじょ」
「ハルはじーちゃんとここで待機だ」
「じーちゃん、おりぇもばーちゃん助けりゅじょ!」
「ハル、それは駄目だ」
「え、おもんくない」
ハルさん、面白い面白くないではない。
「駄目だ。ハルはじーちゃんと待機だ」
「ん、しゃーねーな」
「ハル、大人しくしていろよ?」
「りひと、おりぇはいちゅも大人しい」
「そうかよ、大人しいかよ」
「ん」
ハルさん、自分をもっとちゃんと知ろう。
「じゃあ、長老。行ってくる」
「ああ、リヒト。ニークを頼んだ」
「分かった。ルシカ、行くぞ」
「はい、リヒト様。じゃあ、ミーレ、カエデ。頼みましたよ」
「ルシカ兄さん、任せてや」
「気をつけてね」
リヒトとルシカが転移して行った。アヴィー先生の自宅は4層目にある。長老の様に1度では転移できないので、数回に分けて転移して行く。それでも、数分で着けるだろう。
「シュシュ、行くか」
「ええ、イオス」
「シュシュ、念話で逐一報告してくれ」
「長老、分かったわ」
「イオス、頼んだ」
「はい、長老。シュシュを送ったら周辺を見てきますよ」
「ああ、目立たない様にな」
「はい、分かってます」
イオスに抱っこされてシュシュも出掛けて行った。
「おりぇも行きたかった」
「ハル、駄目よ」
「みーりぇ、分かってりゅ」
「ハルちゃん、自分とお留守番しとこなぁ」
「ん」
シュシュと前大公邸へ向かうイオス。宿を出て直ぐ近くにある2層目へ入る門でチェックを受ける。
エルフだからと言って止められる事もなく、すんなりと2層目に入る。
「イオス、何も言われなかったわね」
「ああ、もしかしたら止められるかと思っていたんだけどな」
「と、言う事は前大公が1人暴走している感じなのかしら?」
「さあ、どうだろう? 多分、アヴィー先生は関係者全員まとめて捕まえるつもりなんだと思う」
「一網打尽てやつね」
「ああ、トカゲの尻尾切りにならない様にな。ただ、無茶をする人だから」
「あたしが止めるのね。でも、協力してもいいんでしょ?」
「シュシュ、程々にな。長老から魔道具を預かってるだろう?」
「ええ、持っているわよ」
イオスとシュシュの潜入チームは順調な様だ。シュシュは何か持たされているらしい。そう言えば今日のシュシュは、チェーンのネックレスに小さな石の付いた物を首輪の様に着けている。
さて、リヒトとルシカはどうだろう。
「ルシカ、あと1回だ。転移できるか?」
「はい、リヒト様。すみません、私が短距離しか転移できないので」
「気にすんな、大丈夫だ。行くぞ」
リヒトとルシカが転移して行った。あと1回の転移でアヴィー先生の自宅に到着できるらしい。
「シュシュ、あの邸だ。2階の1番奥って言ってたな」
シュシュを抱っこしたイオスが建物の陰から前大公邸を見ている。
2階の1番奥の部屋……全部の窓のカーテンが閉まっている。よく見ると、1つだけほんの少し開いている窓があった。
「シュシュ、分かるか? あそこの部屋じゃないか?」
「本当ね、少しだけ窓が開いているわね。うん、行ってみるわ」
「待て、念話できるか試してみるよ」
『アヴィー先生、聞こえますか? イオスです』
『イオス、聞こえるわよ。来てくれたの?』
『はい、無事ですか? 今からシュシュが行きます。窓の開いている部屋でいいですね?』
『ええ。長老から聞いて開けておいたの。シュシュって白い虎よね?』
『はい、白い虎の聖獣です。今は小さくなってます。見た目は仔猫ですよ』
『分かったわ』
よし、アヴィー先生の確認がとれた。
「シュシュ、俺はこの邸の周りを少し見てくる」
「分かったわ。長老に大丈夫よ、て言っておいて」
「ああ、頼んだぞ」
仔猫の様なシュシュが、シュタッとイオスの腕の中から身軽に塀を乗り越え邸の壁もトントンと登り少しだけ開いていた窓から中に入った。
部屋のカーテンが少し開き、シュシュを抱っこしたアヴィー先生の姿が確認できた。
『アヴィー先生、確認しました。俺は邸の周りを見てから戻ります』
『ええ、分かったわ。ありがとう』
『先生、無茶しないでくださいよ』
『やだわ、イオス。私が無茶なんてする訳ないじゃない』
どうやら、アヴィー先生も自分の事がちゃんと分かっていないらしいぞ。ハルそっくりだ。
イオスが動きだした。潜入チーム、まずは成功だ。