11ー初めて笑った
「……ん……んん〜」
ハルが目を覚ましてベッドの中で伸びをしている。
「お、ハル。起きたか?」
「ん」
「夕飯、食うか?」
もうそんな時間なのか? どんだけ寝ていたんだ? と、きっとハルは思っている。そんな顔だ。どんな顔だ。
「ん、食べりゅ」
「起きられるか? 起きられるなら食堂で食べるか?」
「ん」
「よし、連れてってやろう」
リヒトがハルを抱き上げようと手を出す。
「りひと、おりぇ自分でありゅくからいい」
「え、抱っこ嫌か?」
「ありゅく。早く体力ちゅけたい」
「いやまだ無理すんな」
「ん……」
「な、抱っこするぞ」
「ん」
軽々と抱き上げられたハル。
だがハルはそっけない。リヒトには塩対応だ。
「俺がさぁ、国に行くと言ったのまだ怒ってんのか?」
「怒ってない」
ハルは首を横に振る。だが、目線は合わない。
「そうか……もっとさぁ、頼ってくれていいんだぞ。嫌か?」
「しょうじゃない」
「そうか」
「ん」
「……」
話が続かない。リヒトはちょっと寂しそうだ。ハルを抱っこして食堂のある2階へ降りていく。
「おや、起きて大丈夫ですか? 食事なら部屋に持って行きますよ?」
エプロンを着けたルシカが顔を出す。
「りゅしか、ありがちょ。こっちれ食べりゅ」
「大丈夫ですか? ふらついたりしませんか?」
「うん、へいきら」
「そうですか、良かった。ちょっと待って下さいね。直ぐに温めますからね」
「ありがちょ」
ルシカはいそいそと厨房へ入っていった。やっぱりおかんですか?
「ハル、マジで対応違いすぎ。俺ちょっとへこむぜ?」
「らってりひとは、おりぇが何喋ってんのか分かりゃないらろ?」
「いや、だいぶ慣れたぞ」
慣れかよ? そんな問題なのかよ。と、思っていそうなハルの表情。
「慣れだぞ? ちびっ子がそばにいないからな」
「ふう〜ん」
ま、なんでもいいか。みたいな感じ? のハル。そっけない。
食堂では数人のエルフが食事をしていた。よく見ると、肌の色が違ったり、耳の尖り方が違う。
「りひと、肌のいりょがちがう」
「ああ、ダークエルフだ。ダークと言っても悪者じゃないぞ」
「ん、みーりぇにおしょわった。りひとは、はいりょーしゅえりゅふ。りゅしかは、はいらーくえりゅふ。」
「そうだ。よく覚えたな!」
「歳もおしょわった。りひと、やっぱおっしゃん?」
「いや、なんでだよ! ルシカの方が年上だぞ?」
「るゅしかの飯はうまい」
「飯かよ! そうだなぁ、エルフの国では200歳代なんてまだまだ若造だよ」
「おりぇはまら、あかちゃんと一緒ていわりぇた」
「誰に? ミーレか?」
「ん。全身真っ裸にして拭かりぇた」
「アハハハ、ミーレならやりそうだ。気にすんな。今日より元気になっていたら、明日は風呂に連れてってやろうか?」
「ふりょ!?」
一瞬、嬉しそうだったが……
「ありぇ? べーしゅの中に風呂はなかったじょ?」
「ああ。裏に露天風呂があんだ」
「りょ、りょてんぶりょ! りひと、行きてー!」
「元気だったらな」
「うん、やくしょくらじょ! ぜってーな! みーりぇちょは入んねーじょ」
「アハハハ! わかったわかった」
ハルはよっぽど恥ずかしかったのか? 隅々まで拭かれた事が。本当に隅々まで。
「はい、お待たせしました。今日はリゾットですよ」
「ありがちょ。うおっ、ちーじゅら!」
「はい、今日の夕食は兎肉のトマト煮でしたからね。アレンジしてみました。兎肉も細かくして入ってますよ」
「しゅごい! りゅしかてんしゃい!」
「アハハハ! 天才ですか、それは嬉しいですね。ありがとう。また、フーフーして冷ましながらゆっくり食べてください」
「うん、いたらきましゅ。フューフュー……んまッ! トマト味にちーじゅがんまい! こはりゅ」
コハルがハルの服の中から出てきた。
「え、そこに居たのか?」
「ううん、亜空間。出る場所を考えたんら」
「そうか、よく考えたな」
「そうですね。そこならまさか亜空間から出てきたとは思わないですね」
「ピヨヨヨ」
「こはりゅ、うまいかりゃ食べりゅ?」
「ピヨヨ、ピヨヨ」
「アハハ、分かったって。今冷ましてやりゅかりゃ。フューフュー」
あ、ハルが初めて笑った……!! リヒトとルシカが気付いた。ルシカは胸を撫で下ろした。
リヒトは……ポカンと口を開けて固まっている。そんなにか? そんなになのか?
コハルがハルにリゾットをもらって無心で食べている。
食堂にいる皆が、温かい目で見ている。
「クククク」
「ん、だなー」
「ハル、コハルは何て?」
「りゅしかの作りゅものはみな美味しいって」
「おやおや、コハル。ありがとう」
ルシカはマジで嬉しそうだ。
「ハル、なんでさぁコハルが何を言ってるか分かるんだ?」
「え……なんれらろ? わかりゃん。ありぇじゃねー? くしょじじぃの粋な計りゃい」
そんな訳はない。またクソジジイと言っている。神が聞いていたら泣くよ? きっと泣いちゃうよ?
「俺達とも話せるようになんねーのかな?」
「ピヨヨヨ、ピヨヨ」
「おりぇがもっちょちゅよくなったら、らって」
うん、意味不明。コハルの事なのに何故ハルの強さが関係あるんだ?
「ハル、コハルが強くではなくて、ハルが強くですか?」
「うん、りゅしか。らってコハルが言ってりゅ」
「ピヨヨヨ」
「おりぇの魔力とちゅながってんらって」
「……?」
リヒトはまだ分かっていない。
「なるほど……」
「え、ルシカ。今ので分かんのか?」
「リヒト様、むしろ今ので分からないのですか?」
あ……リヒトがまた凹んでる。メンタル激弱だ。