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106ーちびっ子だから

「うわ……めちゃ広いじょ」

「ハルちゃん、アンスティノスの宿より豪華やな」

「ん、風呂もでけー」

「寝室が4部屋あるで。リビングも広いなぁ」


 ハルとカエデが部屋に入ると見て回っている。


「カエデ、お茶を用意しますよ」

「はいにゃ、ルシカ兄さん」


 部屋に小さいがキッチンもついている。


「みーりぇ、ソファーがフカフカら」

「ハル、ハーフケットよ。そろそろ眠いでしょう?」

「ん、まら平気ら」

「皆様、お疲れ様でした。私は駐在大使を拝命しております、ロマーティと申します。こちらに滞在中はお世話させて頂きます。一緒におりましたダークエルフは補佐のシオーレです。ドワーフの2人を工房迄付き添っております」

「2人の親方は今回の件を把握しておるのだな?」

「はい、長老。先に全て報告済みです。で、長老。そのちびっ子が?」

「ワシの曽孫のハルだ。そっちがハル付きのカエデだ」

「はりゅれしゅ」

「カエデです!」

「おぉ……! ハァ……2人共、なんて可愛い!」

 

 それまで淡々とクールに話していたロマーティの印象が一気に変わった。熱っぽい眼でハルとカエデを見つめている。しかも手は胸の前でお祈りポーズだ。


「長老、抱っこさせてもらっても? 抱っこが駄目ならせめてナデナデだけでも……」

「ロマーティ、少しは大人になったかと思っていたが、変わらんな! アハハハ」

「長老、だってちびっ子は至宝です!」

「ハル、カエデ、抱っこしたいとよ」

「え、えぇ……」

「マジか……」


 2人共、ちょっと引いている。


「ああ、なんて可愛い!」

「アハハハ! ロマーティ、お前ホント変わってないな! ハル、ロマーティはアヴィー先生の講義を一緒に受けていた時期があるんだ」

「しょっか、ばーちゃんの」

「リヒト様! 変わる訳ありませんよ」

「ハルは無理矢理抱っこしたらパンチされるぞ」

「おぉ! パンチですか!? されてみたいですね!」


 意味不明……だが、決して危ない趣味がある訳ではない。至って普通だ。駐在大使をしている位だからリョースエルフの中でも優秀だ。ただ、ちびっ子が可愛くて仕方ないらしい。さすが、エルフ族。


「ろまーてしゃん、よりょしく」


 ハル、名前が言えてない。だが、ロマーティに向かって両手を出す。


「あぁ! ありがとうございます!」


 ハルをそっと抱き上げ、頬にスリスリしている。至福の表情だ。


「可愛い! 可愛いですね! ああ、このちびっ子の体温! 守らなければと思いますね! こちらにいる間はお世話させて頂きます! 宜しくお願いしますね!」

「ん、よりょしく」

「ロマーティ、予定はどうなっておる?」


 長老がロマーティの腕の中からハルを奪還する。


「あ、はい。今日はこれからドワーフの2人が聴取されます。明日の午前中になりますが、長老とリヒト様はドワーフ王に謁見して頂きます」

「そうか。では、この後は自由にしていいのか?」

「はい、リヒト様。明日お迎えに上がります。それまでご自由にお過ごし下さい。なんなら、私がご案内しますよ」

「ありがとう。だが長旅だったからな。これから少しハルはお昼寝だな」

「リヒト様、お昼寝ですか!? 是非とも添い寝したい……! いや、寝顔を見ていたい!」

「ロマーティ……ちょっと引くぞ」

「あ……リヒト様、失礼しました。夕食はこちらのお部屋にご用意させて頂きます。皆様もお疲れでしょうから、ごゆっくりなさって下さい。では、何か御用がございましたらいつでもお呼び下さい」


 深く一礼し、忘れずにカエデの頭を一撫でしてロマーティは部屋を出て行った。


「エルフ族、恐るべしやな」

「カエデ、言ったでしょう? ちびっ子は無条件で好かれるのよ」

「けど、ちょっと引いてしもたわ。ハルちゃんよう抱っこしてもらったな」

「ん、わりゅいやちゅじゃない」


 ま、そうなんだが。あの警戒心の強かったハルが、初対面で抱っこを許すなんて。変われば変わるもんだ。


「ハル、お昼寝しましょう。いらっしゃい」

「ん、みーりぇ」

「カエデもよ」

「ミーレ姉さん、自分は平気や」

「駄目よ。何日も野営だったんだから疲れているでしょう? 寝なくても、ソファーでゆっくりしなさい」


 ハルはミーレに抱っこされ、もう寝る体勢になっている。カエデも隣でソファーにもたれてウトウトしかけている。


「ミーレ、マジで子育てできるぞ」

「あら、リヒト様。最近よくそう言われるんですよ」

「ハルなんてミーレが抱っこしたら直ぐ寝るし」

「ハルは変わったな。どんどん可愛くなる」

「長老はハルが何をしていても可愛いでしょう?」

「ルシカ、当たり前だろう。可愛い可愛い曽孫だぞ」


 イオスが戻ってきた。


「預けてきました。この宿は厩番や馬車番もいるんスね」

「イオス、ありがとう。アンスティノス大公国とは違うな」

「はい、リヒト様。24時間、交代で番をしてくれるそうですよ。安心ですね」

「イオス、アンスティノスよりツヴェルカーンの方が治安はいいんだろ?」

「リヒト様、そうですよ。スラムもありませんし、道で行き倒れている者もいません。奴隷だっていません。ただ、職人の国なので、少し荒っぽいですが」

「それは仕方ないだろう」

「はい、長老。職人気質ってやつですかね」

「いやいや、ドワーフ気質だろう」

「ドワーフってホントに小さいんですね。びっくりしちゃいました」

「ミーレはこの国に来るのは初めてか?」

「はい、長老。初めてです。ドラゴシオン王国も行った事ないですよ」

「ま、普通は行かないな」

「長老はあるんですか?」

「おう、ルシカ。あるぞ。さすがにセイレメールはないがな」

「あー、だって海の中ですから」

「リヒト、海の中でも呼吸のできるアイテムがあるんだ」

「マジッスか?」

「ああ。一時的にだが、セイレメールにも大使を派遣した事があるんだ。その時にセイレメールから貸与されたそうだ。それに身体を覆う膜の様な防水シールドを掛けてくれるらしい」

「不思議ですね。海の中の国なんて想像もつかない」

「だな。ワシも分からん」


 取り留めのない話をしながら、その日は皆ゆっくりと身体を休めた。


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