100ー遺跡での出来事
リヒトとミエークがやっと食堂にやってきた。
「ルシカ、腹減った!」
「はい、リヒト様。すぐに用意しますね」
「ルシカ、俺も!」
「はい。分かりましたよ」
ルシカが厨房に消えた。
「りひと、おちゅかりぇ」
「ハル、どうした?」
「え……なんりぇ?」
「いや、お疲れなんて言うからさ」
「らって、りひとは昼飯食ってねーし、いっぱい動いたし」
「アハハハ、そうだったな」
「腹ペコはらめ」
「そうか?」
「ん、らめ。力がれない。思う通りに動けなくなりゅ。そりぇはらめ」
「アハハハ。大丈夫だ。ハルはオヤツ食べてたのか?」
「ん、りゅしかのおやちゅは美味い」
「アハハハ! このちびっ子は何だ? 可愛いな!」
「ミエーク、ハルはいつもこんな感じだ」
「ガンガン浄化しているかと思ったら、普段はポヤポヤしてんだな」
「ああ。差が激しい」
「え……おりぇはふちゅうら」
「アハハハ! リヒト! 普通だってよ!」
「ミエーク、流してくれ。本人分かってねーから」
「そうなのか?」
「ああ、全然分かってねー。天然だ」
ん? と、首を傾げるハル。お口の中はいっぱいでプクプクのほっぺが膨れていてタコさんのお口になっている。ミエークが話を続ける。
「あんなに浄化できる奴なんてそういねーよ」
「しょう?」
「ああ、そうだ」
「れも、じーちゃんはもっとしゅげー」
「長老は別格だよ」
「らな……じーちゃんはしゅげー」
「けどな、ハルもスゲーぞ。さすが長老の曾孫だ」
「しょう……?」
「ああ、そうだ」
「エヘヘへ」
「アハハハ! なんだこの可愛い生き物は!?」
「もう、ミエークうるせー……」
ちょっとリヒトはウザそうだ。
「お待たせしました。どうぞ、食べて下さい。ドワーフの2人は食べられそうですか?」
「また眠ったんだ。起きたらリゾットでも作ってやってくれ」
「分かりましたよ」
「りひと、じーちゃんは?」
「一旦、帰ったぞ。だが、ドワーフにまともに話を聞けなかったからな。陛下に報告したらまた来るそうだ」
「しょっか」
ミエークがもうがっついている。
「ルシカの飯はうめーな!」
「ん、りゅしかの飯は超美味い」
「だな! アハハハ!」
テンションはまったく違うが微妙に気が合っているのか? 2人で親指をたてている。
さて、リヒトがまた寝てしまったと話していたドワーフ。2人共、同じ工房の鍛治職人見習いだった。魔鉱石が不足していて採取に来たらしい。
ドワーフといえば、見た目は男女共に背丈が低いが力強く屈強で、特に男性は長い髭をたくわえているイメージがある。
1人は18歳の青年、ヴォルノと言う。ドワーフにしては線が細い。が、身長はヒューマンより低く、手足はドワーフらしくガッチリとしていて屈強だ。まだ若いせいか髭は長くなく、無精髭程度だ。灰茶色の肩下まである量の多い髪を後ろで緩く編んでいる。
もう1人は15歳の少女、ジャーノと言う。まだ成長過程なのだろう。ドワーフの平均的な身長より低い。ドワーフらしく、少女にしては骨太な体つきをしている。赤茶の腰まである長くて多い髪を緩くおさげに結んでいる。
ドワーフ族の王が治める国『ツヴェルカーン王国』
大陸の西側にある火山地帯の地形を利用している。まるで、天然の要塞だ。建物も鉱石で出来ていて、山肌を利用している。
山と山の間に国への入り口がある。入り口は厚さ約2m、聳え立つような高さの防御壁でできている。ドワーフ族の国らしく、彼方此方から鉄を打つ様な音がして煙や蒸気が上がっている。
中央付近は商店街や街の宿屋にギルド、民達の住居がある。それらを囲む様にドワーフの工房がある。
1番奥、山の中腹に地形を利用して建てられたドワーフ族の王城がある。城も鉱石で出来た古城だ。城壁は3つの城門によって結ばれている。背後は険しい火山地帯になっていて、防御面で天然の要塞となっている。
1番外側は鉱山だ。鉱脈がいたるところに走っていて、それは地下にも及びこの国で採れない鉱石はないとさえ言われている。
『この国で採れない鉱石はないと言われている』
なのに、魔鉱石が不足していた。ヘーネの大森林までわざわざ採取に来なければならない程。その理由を聞けないまま、2人はまた眠ってしまったらしい。
翌日になってやっとドワーフの2人は目を覚ました。ルシカが栄養たっぷりのリゾットを作り、それをたらふく食べて落ち着いた2人はようやく話し出した。
長老と、ミエークが立ち会っている中、リヒトが話を聞く。
「遺跡周辺の洞窟で魔鉱石を採掘していました。もうそろそろ戻らないと、と思っていた時に地面に埋もれた魔鉱石を発見したんです」
ドワーフの2人は何も考えず、それも採掘しようと先の尖ったロックハンマーを打ち込む。硬くてなかなか割れない。何度か試している内にピキピキッと、ひび割れが入った。そこを狙ってまたロックハンマーを打ち込むと鉱石が割れた。
割れた先に地下へ降りる階段が現れた。なんだ? 階段? と、2人で顔を見合わせる。もしかして、この先にはもっと魔鉱石があるかも……と、そこを下りて行く2人。そして階段が終わり下にたどり着く。
通路が伸びていた。好奇心に駆られて先へ進む。その通路の1番奥に閉ざされた扉があった。鍵もなにも無い様だ。その扉に手を伸ばす。
好奇心とほんの少しの恐怖心。好奇心が勝つのにそう時間は掛からなかった。そっと扉を開けてみると……
扉の隙間から黒い靄が床を這う様に溢れてきた。2人は驚いて後ろに飛びのく。背筋が凍りつき恐怖心が広がる。本能が逃げろと言っている。これはヤバイ。手を出してはいけない物だったんだ。
2人は逃げた。必死で足を動かし走った。階段を登り外へ出た。逃げ出せたと思ったら黒い靄が2人の足を捕らえた。2人は踏ん張る。逃げるんだと。
しかし、靄に体力を奪われて気を失ってしまった。そして、気が付いたらベースの医務室にあるベッドの中だった。
100話です! ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます!
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