新たな出会い
「やっぱり、ない。どこにも使われてないのね。」
翌日朝私はさっそく新しく買ってもらった服を着て、本当に歌がないのか確かめるために街を歩いていた。街には音楽が流れているが、歌詞のないいわゆるクラシックだった。
CMに使われているのも同じで、歌ではなかった。
歌がないって不思議ーー。
島をぐるぐる歩いていると、お城みたいな素敵な建物にたどり着いた。看板を読むと桜島博物館と書いてあった。
もしかしたら何か元の世界に帰るヒントがあるかもしれないと思い入ってみる。
先程質屋で前の世界から持ってきたネックレスやポーチを売って少しだけお金を持ってきていたのだ。入場料くらいは払えるはずだ。
「ごめんくださーい...」
中に居たのは同い年くらいの爽やかな青年だった。
「いらっしゃい。この辺じゃ見ない顔だね。
南の方から来たの?」
人が良さそうな笑顔で、見るからに優しそうなイケメンだった。
この世界顔面偏差値高すぎ.........。
そしてこの世界に来て初めて同じぐらいの年齢の人に会い私はほっとした。
つい気を許した私は、ここまで来た経緯を簡単に話した。
彼は驚いていたけれど、疑うことなく頷きながら聞いていた。
栄仁のことも知っているみたいで、一緒に暮らしてると言ったらとても驚いていた。
彼の名前はイーリンといい、25歳の同い年だと言う。
父親が病気のため、高校卒業後家をついで博物館の館長をやっているらしい。
この桜島はおよそ100人くらいが住んでおり、人数が少ないからこそ皆が家族のような雰囲気だと教えてくれた。
異国の人の来島可能日が月に何回かあって、その日だけは異国の人が入ってこれるらしい。
「あたたかい島よね。やさしい人ばかりだし」
「ここはいいところだよ。皆滅多に外には行かず、ここで大人になるまで過ごすんだ」
歌はやっぱり知らないみたいで、ぜひ聞かせて欲しいと言われた。
私たちは話しているうちにすっかり打ち解け、名前で呼ぶ仲になった。
「じゃあ前の世界では、黒い瞳の人が沢山いたんだね」
「そうなの! お洒落な人はカラーコンタクトっていうのを使って色を変えたりもしてたけど...。私はそういうのに疎かったし、地味で平凡だけど。」
ここでは目立ってるけど、元の世界では完全にモブだもんな。
「地味じゃないよ、アカリはその、、とっても綺麗だよ.........!」
「えー! お世辞でも嬉しい! ありがとう!」
イーリンは優しい人だな。でもなんで顔が赤くなってるんだろ。
「そ、そういえばさ、前の世界にはピアノってあった?」
「ピアノ?もちろんあったよ。私結構上手いのよ〜〜!」
ついドヤ顔しちゃったわ。
「ーー!! あれを弾けるの!? ーーこっちへ来て!!」
イーリンは私をぐいぐい引っ張り、博物館のガーデンルームに連れていってくれた。
綺麗な庭が見えるガラス張りの部屋の真ん中に、電子ピアノが置いてあった。
あまりの懐かしさに思わず頬を緩める。
「これは親父が他の島から貰ってきたものなんだ。だけど島の人は誰も弾けなくて。よかったらアカリ、使って見せてくれないか?」
「私で良ければ!」
久しぶりに触れるの嬉しいな。
私は椅子に座り、演奏をはじめた。
この場所、お城みたいで素敵だからロマンチックな曲にしよう。
『♪』
おとぎ話のお姫様が歌う曲にした。
歌も聞きたいって言ってくれてたし弾き語りにした。この島の空気と景色に調和してるみたいな久しぶりの感覚。やっぱり音楽って素敵だわ。
歌い終わってふぅと一息。気がつくと私の周りにはイーリンだけではなく多くの島の人が集まっていた。そこには驚いた顔をした栄仁さんもいた。
「すごい! なんて綺麗なの!」
「なんだか涙が出てきたわ」
「悩んでたことが嘘みたいになくなったぞ」
「魔法だ!」「歌姫だわ!」
どうやら音が漏れていたを聞きつけて来たらしい。小さい島、おそるべし。
私は島の人達の方に向いた。
「今のは歌といいます。音に言葉をのせているんです。魔法ではありませんがーー、
歌は歌っている方も元気になりますし、聞いている人も幸せにします。あと、言葉で伝えられない、言いづらい思いとかも届けられるんですよ」
わあーーと盛り上がった。
その後もリクエストに答え、何曲か弾いてその日はお開きになった。弾くたびに人が増えていた。
そして歌ってみたいと言う人が多く、明日から歌の教室を開くことになった。
思いがけず仕事ゲット!
前の世界で出来なかった大好きな音楽を仕事にできて、すごく嬉しかった。