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違和感の正体

この世界に来てから5日がたった。

住めば都というように、私はすっかりこの世界に馴染んだ。近所の人とはおしゃべりする仲になった。

自然豊かで空気が綺麗で、すっかりこの島が気に入っていた。

しっかり寝れて、3食ご飯が食べれて最高だわ!

今日は私の服を買いに栄仁と出かけることになっていた。


「ほんとこの街って素敵〜!」

ウキウキしながら、街に出ている出店をキョロキョロ見ていた。

島のことを褒められて嬉しいのか、栄仁のいつもの小言がなかった。

しばらく歩いていると美味しそうな匂いがして来た。

「ねえ、あれお団子じゃない?私大好きなの!食べたーい!」

すっかり遠慮がなくなった私は栄仁の腕を掴んだ。

「くっつくな、熱い」

なんていいながら本気で離そうとしないところに私は嬉しくなって前をよく見ていなかった。

ドンと足元で何かとぶつかってしまった。

「わ! ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「おねえちゃん!!!」

「リリーちゃん!」

同時で叫び思わず抱きしめあってしまった。

ぶつかったのは私の命の恩人のリリーちゃんだった。その横には友達らしき小さな男の子と中学生くらいの女の子がいた。


「この人が噂のおねえちゃんか!」

「魔法が使えるってほんとなの!?」

キラキラした目で見つめられた。

リリーちゃんや、お友達に話盛りすぎじゃない?



道の真ん中で止まって話す私たちを見かねて栄仁は喫茶店へ連れていってくれた。

私たちは喫茶店に入ってプリンを食べている。

お客さんは私たち以外おらず、ほぼ貸切状態だった。

「そういえば、駅のそばでやってる大道芸見たー!?」

リリーちゃんが目を輝やかせていった。

この世界にも大道芸とかあるのね。

「みたみた! オレ、昨日かーちゃんと初めて見たんだ!」

ちょっと太ってて顔が丸いリュンくんが興奮気味に言う。

「大道芸って手品とかやるの?」

「うん。あとは日によって違うの。アコーディオン引きも来たわ。」

リンユウちゃんがうっとりと言う。

「ねえ、お巡りさんはどれが好き〜? リリは紙芝居が好き〜!」

「興味ないな」

ワイワイ盛り上がってる中冷たい声だったのに、子供たちは慣れているのか、全然気にせずむしろやっぱり〜〜! なんて言って盛り上がってた。

へえ。意外と愛されてるのね。

しみじみと栄仁を見つめていたら、

なんだよと睨まれてしまった。

心無しか耳が少し赤い?

「「「あー! お巡りさん照れてるー!」」」

より眉間にシワを寄せちゃった。


「なあ、おねえちゃんも不思議の国から来たなら、なんか大道芸出来るだろ!? 見せてくれよ!」

リュンくん、不思議の国じゃないよ...

「みたーい!」「みたい...!」

ヤバっと思ったのももう遅く、

みたい! みたい! というコールが始まってしまった。

前の世界で社畜だった私は、飲み会でのフリもしっかり受けるべきだと学んでおり、受け流すことなんてできなかった。

なんかやらないと! えーと……

「よーし! じゃあ朱里、やらせていただきまーす!!」

勢いよく立ち上がる。

いえーいという声が聞こえる。

なんか子供向けの……そうだ!


『♪』


私は手話をつけながら前の世界の童謡を歌った。

この曲なら皆知ってるだろうし

大道芸にはならないかもしれないけれど、

一緒に歌ってくれないかなーなんて思いながら気持ちよく歌った。

よく児童館の子供たちと歌ったなーなんて思いながら。


最後まで歌い終わり、ふぅと一息ついたがあれ? 皆の顔を見たらなんだか驚いた顔をしていた。

栄仁でさえ呆然としているようだった。

あれ? この歌嫌いだった?

それともさすがにつまらなかったかしら...

最初に口を開いたのは栄仁だった。

「な、なんだいまの?」

彼にしては珍しく慌てている様子だった。

「すごい! すごい!」

「音楽に言葉がついていたわ」

「なんかオレ感動したんだけどっ!」

いまのなんなの!? といいながら、子供たちが私の周りに集まった。

その時、この世界に来てからずっと感じていた違和感の正体がやっと分かったのだ。


ーーーこの世界には「歌」がなかったのだ。

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