二人暮らしのはじまり
「だから私はここじゃない、違う世界から来たの!スパイとか、そんなんじゃないの!」
あれから私は交番に連れていかれ、事情聴取されていた。
「リリーの話から今のところ悪さはしていないことは把握したが、我が島では異国のものの定住は禁止されている。今日は来島可能日でも無いはずだ。どうやって来たんだ。それに小さい。こんな小さい人間いるのか?」
「だから分からないのよ〜!突然ここにいたの!それに小さいは余計よ!最近145センチになったんだから。まだまだ私は成長期なんです!」
私たちは初めて会ったのだと思えないほどの言い合いっぷりだった。
前世は犬と猿だったんじゃないかと思ってしまうほど。
しかも私の話は信用しないくせにリリーちゃんの話はすぐ信じもるんかい!てゆうか警察官のくせに口悪すぎでしょ!
話を信じて貰えないのが悔しくて、涙が出てきた。
警察官は私が泣きだしたことにギョッとした顔をしていた。
「と、とりあえずお前は俺が引き取る。その異世界っていうのが本当か分からないしな。」
そういうと立ち上がり、出ていってしまった。
その後ろ姿をちらりと観察する。
気崩さずしっかりと着た制服、スラリと長い足、悔しいことにスタイルも抜群だ。
「黙ってればかっこいいのに」
ぼそりと呟いたのが聞こえていたのか
ギロリと睨まれ
「はやく着いてこい。140センチ。」
「145センチですっ!」
10分ほど歩いてたどり着いたところは、小さな倉のような屋敷だった。
「ねえここどこ?......まさか牢屋!?」
慌てて警察官さんの袖を掴みかかった。
突然私が近づいたことに驚いたのか目を見開いた後、不機嫌そうに眉をよせ、
「俺の家だ」と言った。
あーなんだ。家か、牢屋じゃなくて良かった、って家!?
「ちょっと待って家!?家って私ここに泊まるの!?2人でひとつ屋根の下♡ってことなのー!?」
処理仕入れなくてパンクしてる私を置いてスタスタ進んでいく。
「不審なものを島の宿に泊めるわけにはいかないからな。早く入れよ。」
「あー、そういうこと...。」
まだ私を疑ってたんかい!
家の中は綺麗で整理整頓されており、
必要最低限のものしか置いていないようだった。
そしてなんだかんだいいつつ、私に部屋を用意してくれて、服やタオルも置いてくれた。
しかも、水道のお湯が出始めは熱いから気をつけるようになんてまるで子供相手のような注意をしてくれた。
話を聞くと、彼は栄仁といい、この島の唯一の警察官らしい。
ここは桜島といって、春に島中の桜の花が咲くのが見所の島らしく、栄仁は島の話をする時はなんだか少し嬉しそうにしていた。
いつも不機嫌そうだけど、もしかして本当は不器用なだけかも知れない。
「ねえ、栄仁って言葉足らずって言われない?」
思わずニヤニヤして聞いてしまうと、
思い当たる節があるのか、ちょっとしてから
「……余計なお世話だ」
なんて言っていた。
その日から私と栄仁との二人暮らしが始まった。
初めはどうなることかと思ったけれど、案外上手くやれている。
私は何にもやることが無いため、家の家事をかってでた。長年の長時間勤務から、なにかしてないと落ち着かないのだ。
栄仁のこともだんだんと分かってきた。
相変わらず私たちは小言争いが耐えなかったけれど、私がたけのこご飯を作ったときには目がいつもより輝いていた気がするし、私がなれない下駄で走り転んで擦りむいたときは、いつも以上に眉を寄せて不機嫌に見えたが、あれは心配していたんだなって思う。
私が必要以上に近づくと、身体を固くして目を泳がせていることから、きっと女の子に慣れていないのだと思った。
それを面白がって私もくっつくから、栄仁はそのたびに眉を寄せていた。
ひとつ屋根の下甘〜い生活♡なんてものは始まらなかったけれど、野生の犬が少しずつ懐いているような感覚で、私は結構この生活を楽しんでいた。
また、自分で言うのもなんだが、私は結構明るくなった。酷いことを言う上司も、過剰労働もないからという理由もあるが、異世界にきて色々吹っ切れたことも関係している。
栄仁も私が害のない人だと分かったのか、島のことをよく教えてくれるようになった。相変わらず子供扱いは変わらないけれど。
だけどこの島にはなにか違和感があった。