誘拐されました
その後の合唱練習の後、私は河原にいた。
栄仁に会うのが恥ずかしくて、家に帰りたくなかった。
「こっちの世界でも河原で1人って、私何にも変わってないな」
『♪』
私は前世で流行った失恋ソングを歌った。
この曲は片想いの相手に届かぬ思いを歌った曲だった。歌っているとより思いが高まり、思わず泣いてしまった。
歌い終わってようやく落ち着いた。
まだ失恋したわけでもないし、シャンオンさんとの関係もまだ確認出来てない。落ち込むのはまだ早い、ちゃんと栄仁さんと話そう。
よし帰ろうと立ち上がった途端目の前にキラリと何かが光った。
「動くな!」
突然誰かが私を抑えつけ、首元には刀が見えた。
口元になにか当てられ、私は意識を失った。
誰かの話し声が聞こえる。河原には誰もいなかったはずなのに。そうだ私河原でーー
はっと目が冷めると、倉庫のような所にいた。手足は紐で縛られており、眠らされた薬のせいなのか、身体が痺れて動かなかった。
「お目覚めかな、歌姫さん」
ガタイのいい男2人がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「誰なの!?なんで、こんなこと」
男2人を睨めつける。今の私の精一杯の抵抗だった。
「いやあ、珍しい黒い瞳で不思議な歌を歌う女がいるって聞いたが、本当だったな」
「こりゃあ高値で売れるぞ」
高値で、売る?人身売買......!?
「まさかこんなに簡単に島に入り込めるとはなあ。 船まで用意してもらえて、最高だな」
船を用意って、この男たちの他にも仲間がいるの?
「明日の朝には船が来るから、そうしたらこの島ともおさらばだな」
まずい。船に乗せられたらもう助からないかもしれない。
それまでに何とか、抜け出さないと。
「大声出すと殺すぞ。痛い目あいたくないなら大人しくしてるんだな」
怖いし、縛られた手足が痛かった。
私、このまま売り飛ばされちゃうの?そうしたらもう栄仁さんに会えない......!
まだ伝えたいことも、あのキスのこととか......聞きたいことも沢山ある......!まだ諦めちゃいけない。
この部屋の見張りの人は2人。
そのうち1人は定期的に外の様子を見に出かけている様だった。
会話から部屋の外にも見張りがいると思われた。
私はぐったりと座り込んで諦めている振りをしながら、壁に頭を擦り付け髪飾りを落とした。スカートに隠しながら髪飾りで脚の縄を削り続けた。
あれからどれくらいたっただろう。脚の縄は切れはしなかったが、削ったおかげで少し隙間ができた。
これならいける......!見張りが1人になったタイミングを狙えば......!
私がぐったりとしている振りをしているため、見張りの人は油断しているようだった。私は靴と靴下を脱ぎ、縄から抜け出した。
そして見張りの1人がまた出ていったタイミングで私は素早く立ち上がり見張りに向かって靴を蹴り飛ばした。
「うわっ!なんだ!?」
動揺しているうちに部屋を飛び出し走る。見張りは何人かいたが、構わず走った。
ここは何処かの工場のようで入り組んでおり、出口が分からなかった。目の前に窓が見えたため、そこから飛び出した。
後ろから追いかけてきている人達は小さな窓からは出られないようだった。
建物の外は森だったが構わず走り続けた。
視界が開けてきて、街に出れたのかもしれないと期待したが、開けた先は崖だった。
「嘘でしょ......」
振り向くと既に追いつかれていた。
「ちょこまか逃げやがって。だが残念だったな。鬼ごっこはもう終わりだ」
ぞろぞろと男たちが近づいてくる。
後ずさることもできない崖ぎりぎりまで来てしまった。




