なぜ怒ってるのでしょう
ある日の夜、ご飯の支度をしながら歌を歌っていると栄仁が帰ってきた。
「おかえりなさーい!」
「外まで声が聞こえてたぞ」
あちゃー近所迷惑だったかな。
「栄仁みたいな口下手な人ほど、歌を歌うといいと思うんだけどな〜」
「余計なお世話だ」
「あ、そうだ。私明日夜ご飯外で食べてくるね」
「......は?」
「イーリンに誘われたの。日頃のお礼だって。なんかあそこでピアノコンサートやってから、博物館行く人も増えたみたいで」
「だからって何でだよ」
「しかも私のこと綺麗って言ってくれたんだよ、うふふ、前世も含めてこんなの初めてだよ〜」
「はぁぁ!?」
食器を片付けようと席を立った私の腕を突然栄仁さんが掴んだ。
「おい、2人でか?」
「そうだけど.......?どうかした......?」
もしかして私が粗相すると心配してるのかな。
確かにお茶碗ひっくり返したり、転んだりすることもあるけど、栄仁ってほんと心配症だな。
「大丈夫よ!ちゃんと席を立つ時はお茶碗に気をつけるし、下駄も慣れたやつ履いていくから!」
栄仁はなぜか複雑そうな顔をしていた。
「そういうことじゃないが......はあ、もういい」
なにやらブツブツ言ってるようだけど、疲れてるのかな。
「遅くならないように、ちゃーんと大好きな栄仁さんのもとに帰ってくるからね!」
ふふんと自慢げに言ってやった。
私は栄仁への気持ちを自覚してから、隙あらば好きだと言葉にしていた。別に隠す必要もないしね。
栄仁には何にも効果はないみたいだけど。
「お、お前はまたそういうことを......恥ずかしくはないのか」
「全然!事実ですもの」
「ほんといつも不意打ちすぎるんだよ...」
私は歌を歌いながら夕飯の片付けに夢中になっており、真っ赤になっている栄仁の顔を見ていなかった。




