お祭りで歌を歌いましょう
次の日すっかり治った栄仁に、来儀さんから聞いたお祭りのことを話した。
「それでね、出し物なんだけど、皆で合唱をするのはどうかなと思って! 合唱っていうのは、みんなで歌を歌うことなんだけども」
島の人達は皆私の歌の教室に来てくれており、かなり上達してきているのだ。パートを分けて歌うのももう出来ると思う。
栄仁は歌が恥ずかしいのか、1度も来てくれてないけど。もしかして音痴なのかもしれない。
「それはいいな。練習場所は役所のホールにしよう。曲は...」
栄仁も賛成してくれて、その日の夜は一晩中2人で作戦会議をした。
曲は私がいくつか候補を書き出して、弾き語りしたのを録音して島の皆に投票してもらうことにした。
「卒業の時によく歌うアレもいいし〜あの恋の曲もいいよね〜! 告白するのにぴったりなの! 私この曲大好きなんだよね〜!」
ふんふん歌いながら考えていたら、
「祭りで告白の歌を歌ってどうする」
つっこまれちゃった。
「この曲はどんな曲なんだ?」
私が書き出した候補を指さして聞く。
「これはすごくいい曲だよ。歌詞の解釈って人それぞれ違うけど......。私は......やること何にも上手くいかなくて、社会で上手に生きられなくても、恋人だったり家族だったり、好きな人がいれば笑顔でいてくれればいい、それだけで頑張れる、みたいな意味だと思ってる。」
「へえ......。素敵な曲だな。」
「私も前の世界で、貧乏だったし、仕事も毎日辛くて、音楽が好きって気持ちだけで頑張れてたの。でもそんな時に奇跡が起きて、こんなに素敵な世界に来れたんだ。」
「俺は......奇跡なんかじゃないと思ってる。きっと神様はお前が、頑張っている姿を見てたんじゃないのかな。......なんてな」
栄仁は恥ずかしくなったのか顔を逸らしてしまった。
「ありがと。私、栄仁のそういうとこ好きだよ」
「......っ! お前はまたそんなことを......!」
「へへ、照れてるー」
私まで恥ずかしくなってしまって誤魔化してしまった。
夜も遅くなり、そろそろお開きにして、お互いの部屋に戻る事にした。
「じゃあ栄仁、また明日。おやすみなさーい」
「ああ。しっかり布団をかけて寝ろ。」
また子供扱いされちゃった。
「アカリ、ありがとな。」
栄仁はポンと私の頭に手をのっけて部屋に入っていった。
その日、栄仁は名前を初めて読んでくれた。
私は1人廊下で真っ赤になって悶えていた。
それから島中でお祭りの準備がはじまった。
私は定期的に島の人を集めて合唱の練習をしたり、島の飾り付けを手伝ったりしていた。
お祭りの間の1週間は、外からも大勢の人が来るらしく、栄仁も警備の準備に忙しいようだった。




