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2 目標

 攻略も、早すぎる。


 そもそも本来なら、攻略しながら複数ステータスを上げること自体が不可能だ。


(ゲームの期間は、学園編入から終業式までの半年間しかない……全ステータスを上げながら、複数キャラを同時攻略するなんて、不可能なはず)


 各キャラとの出会いイベントを起こすまでなら、可能だ。攻略を捨てて、ステータス上げに全振りすればいい。ただし、全ての行動をステータスに費やしても、満足に上がらないことも多い。


『知力』『体力』『魅力』は三つ巴になっていて、どれか1つを上げようとすると優劣の劣にあたる1つが、上げた数値の0~70%下がるからだ。


『知力』を3上げたら『体力』が1下がり、『体力』を5上げたら『魅力』が3下がるといった具合で、一進一退を繰り返す。


(あ、でも、システムが内部的に持っている『幸運』が高いと相対的に上がりやすいんだっけ。そうだ、だけど同時攻略しようとすると『幸運』が下がるから、逆ハーレムルートは実現不可能という話だった)


『幸運』はフランツ攻略の時に必須の内部パラメーターだ。良い行いをすると少しずつ上がり、悪い行いで下がる。けれど目に見えないからよくわからなかった。


 そしてイザベルの中に突如溢(とつじょあふ)れだした記憶──それを前世とするのなら、前世の自分は、そのゲームの愛好家の大多数と同じく、フランツだけは攻略することができなかったのだ。


 そもそもスタートラインにすら立てなかった。


 他のキャラ達の場合は、必須ステータスを上げる過程で出会い、ステータスの段階が上がるタイミングで恋愛イベントが起きるのに対して……フランツの場合は、全ステータスが9割を超えるまで、挨拶をすることさえままならない。


『フランツだけ難易度が限界突破している』とか『乙女ゲームの攻略キャラに婚約者がいるところからしてそもそもおかしい』とか『倫理観強いキャラに横恋慕は無理ゲー』とか『うああ、肝心なところでまたイザベルが来た!』とか散々ツイートされていたけれど、なんやかんやと多くの乙女ゲーマーの心に火を着けた。困難なほど愛は燃え上がるのだ。


 結果、難易度がおかしい乙女ゲームとして有名になり、阿鼻叫喚のプレイ動画や、攻略分析・検証サイトが連日賑わいをみせて、人気を博した。


 そして、奇跡的にフランツ攻略した人が上げた攻略成功動画で、イザベルは断罪されていた。


 醜い嫉妬で、主人公の足を引っ張り続けていたことが明るみに出るのだ。


 王位継承権を持つフランツの婚約者としては不適当とされ、婚約者の立場を剥奪される。


(『愛なんて、無駄な感情』……フランツ様は、そもそも、誰も愛していない)


 知りたくなかったことまで、色々と思い出してしまった。


 主人公がフランツを攻略できない場合、イザベルはフランツの婚約者に収まったままだ。だが、愛されたわけではないのだろう。主人公が未攻略のフランツは……『愛』を無駄だと思っている。


 愛がなくてもたぶんフランツは、最低限の責任を果たしてくれる。今、接してくれている程度には会話をして、子も1人くらいは産ませてくれるはずだ。


 愛のない結婚は、そう珍しいものでもない。


 一方通行な想いでも、好きな人と結婚ができ、相手が最低限の礼儀を果たしてくれるのなら、幸運なほうだ。


(攻略成功動画を……観なければよかったな)


 あのクールな人が、照れた様子で甘く微笑み、愛を示すのだ。これまでの艱難辛苦(かんなんしんく)を帳消しにするほどのギャップに、その動画は歓喜と羨望のコメントで埋め尽くされ、公開からたった3日で驚異の100万再生を記録した。二次創作も多いに賑わった。


 フランツの愛は困難を乗り越えた主人公だけが手に入れる。実際、長年婚約者として側にいたのに、イザベルはあのような微笑みをフランツから向けられたことがなかった。


 かといって、今から主人公の真似をしたところで、成り代われはしないだろう。同じ言葉でも、それを発した人によって印象は変わる。


 イザベルが急に、男性に好かれそうな言動をしても、不審がられるか、面倒臭い女にカテゴライズされるだけだ。


(ああ、せめて主人公が、たった1人、フランツ様だけを求めていたのなら……それなら私も、諦めがついたのに……)


 どの攻略対象もそれなりに好きだった。


 彼らが心の中の弱さを打ち明けて、心が通じ合う過程が好きだった。


 だから、システム的に可能だとしても、少なくともイザベルには、同時攻略は到底できない。


 彼らの心は、簡単に踏み込んでいいようなものじゃなかったから。


(主人公と出逢う前の彼らは……不器用ながらも、それぞれのやり方で、どうにか日々を送れていた)


 そんな彼らは愛を知って変わるのだ。愛されなければ傷つき苦しむだろう。


 それなら……たった1人を選び愛することができないのなら……へたに関わらず、傷口に触れず、彼らをそっとしておいて欲しかった。


(でも、シーナ・リーファースは、逆ハーレムを狙っている)


 トゥルーエンド、なのかもしれない。

 イザベルにはそれを幸せとは思えないだけで。


 彼らにとっては、逆ハーレムは……攻略キャラ達で、シーナをわけあい過ごすことは、幸せなのかもしれない。


 それを部外者のイザベルが、嫌悪しているだけなのかもしれない。でも、イザベルは嫌だった。



 少しずつ、イザベルの中で進む方向が明確になっていく。


 他の3人と同様に、フランツにも人に言えない心の闇があるのかもしれない。


 それを、逆ハーレム狙いの子に暴かれたくなかった。彼は強い人だけど、守りたいと思う。


 そうなると、やっぱりイザベルにできるのは、シナリオ通りの行動だけだ。主人公がフランツの攻略可能条件を満たさないように、妨害するしかない。


(全ステータス9割は、絶対に阻止する!)


 失敗したら破滅。それでも。

 2年の終業式まで持ちこたえればいいはずだ。

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