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■解決?


 鈴木に頼んだのは田中のスマホへ、とあるアプリをインストールすること。といっても、その前にOSを改変しなければならない。なにしろ非正規のアプリをインストールするのだからな。


 まあ、OSを改変といっても、凄腕のハッキング能力も、天才的なプログラミング能力もいらない。


 世界的な検索サイトで調べれば、そのやり方は簡単に出てくる。いわゆる『ジェイルブレイク』という奴だ。日本では『脱獄』と言った方が知ってる者も多いだろう。


 オタク系の集まりということもあって、一叶いちかの部活の仲間にはその手の非合法なものに詳しい者もいるらしい。


 俺はツールとアプリを用意するだけで、あとは鈴木とその仲間たちに任せることにした。


 法律的にはマズイとは思うが、そこは一叶いちかの物を盗んだのだから、交渉の余地はあるだろう。


 自分が警察に捕まってまで、俺たちを訴えようとは思わないはずだ。



 何日かして鈴木から、準備が整ったとの連絡が入る。


 その夜、本当に田中が心霊現象を怖がるかを確かめるために、彼女の友人を装ってメッセージを送ってみる。


『これおもしろいよ』


 文字の下には動画のURLだ。いわゆる心霊系の怖い映像だ。


 そしてその直後に通信機が捉えたであろう悲鳴が、俺のイヤホンで増幅される。


『いやぁぁああああああああ! やだやだやだやだ』


 ドタバタと部屋の中を走り回る音。


『なんでなんでなんでなんでなんでなんでぇえええ!!!』


 気が狂ったように声を上げる田中。


 しばらく経って、彼女は『たいして面白くなかったよ』と、何事もなかったかのように返信をしている。


 これで確定だな。


 田中は心霊現象がかなり苦手だ。



**



 鈴木たちに頼んでおいた準備のもう一つは、とある話のネタを仕込むことだ。


 噂話として最悪クラス内だけで知られればいい。というか、田中の耳に入れることが目的だ。


 そのネタというのは、一叶いちかには小学校の時に親友がいて、その子は病気で亡くなってしまったということ。


 親友の子は、最期まで一叶いちかのことを気にかけていたという美談。


 もちろん嘘ではある。


 話は単純であり、この段階では誰かを貶めようという意図は見えないので、誰も真実を探ろうとしないだろう。


 さて、ここで田中の件とリンクさせる。


 もし一叶いちかへのイジメに怒り狂った親友の亡霊が現れたらどうするか?


 心霊現象を信じていなかったり、普段から軽んじているならば「そんなの嘘だ」とか「誰かが騙そうとしている」と簡単に見破られるだろう。


 でも、田中なら冷静さを失う。


 何か怪奇現象が起きた場合、真実を調べるのではなく怖くて逃げるのだ。


「よし、作戦開始だ」


 俺はスマホを操作して、細工して仕込んだ通信器に、こちらから音声を流す。この作戦を想定して、盗聴機ではなく通信器を仕込んだのだ。


『……ナイデ……イジメナイデ……』

『なに? なんか声が聞こえたんだけど』


 部屋に一人でいるであろう田中が、その声に気付いたようだ。もう少しだけボリュームを上げてみるか。


『チャンヲイジメナイデ……イチカチャンヲイジメナイデ』

『ちょっと待って、嘘でしょ。なんで? どっから聞こえるの』


 がさごそと部屋の中のものを漁る音が聞こえてくる。


 音声出力は一旦止めよう。次は彼女のスマホの操作だ。


「さてと、写真のフォルダはここかな?』


 現在、彼女のスマホのデータは共有フォルダに変更された箇所に収められている。だから外部のものでも閲覧は可能だし、ファイルの変更も可能。


 というわけで、彼女の写真に加工をして、心霊写真っぽく、幽霊らしき物を映り込ませる。そして上書き。


 作業が終わると再び音声を流す。


『イチカチャンヲ イジメルナラ アナタニ トリツイテヤル』

『なに? なんなのよ。もう!」


 その後で、友人を装いメッセージを飛ばす。


――『なんか写真に変なもん映ってるんだけど』


 これで彼女も気付くだろう。異質なその写真に。


 田中恵理が幽霊に取り憑かれてしまったという映像的な証拠が突きつけられる。


『なにこれ?』


 彼女は驚きすぎて感情が消え失せてしまったような声をこぼす。


 しばらく呆然としていたが、その後狂ったような笑いが聞こえてくる。


『あはは、こんなの削除しちゃえばいいじゃん』


 泣きそうな、それでいて笑っているような、感情を制御出来なくなったような独り言。


 PCのモニターに映し出されている彼女のスマホのシミュレーターには、ファイルを削除していく様子が見えていた。


「そう簡単には行かないんだよね」


 削除したファイルをどんどん復活させていく。嫌がらせとしてはこれ以上にないものだ。


『なんで? ……なんで消えないの』


 絶望に満ちた声が聞こえる。もう、彼女にはスマホを操作する気力はないようだ。


 さらに駄目押しの意味も込めて、もう一度、あの声を流すことにする。


『アナタハゼッタイニユルサナイ!!』

『あ、あぁあああああああぁぁぁっ……』


 悲鳴というのではなく、失意のあまり脱力してしまったかのような声。まるで失禁でもしているかのように。


「さて、こんなものかな」


 これで明日、田中が学校を休めば大成功だろう。一叶いちかをいじめるリーダーがいなければ、彼女への嫌がらせも止まるだろう。


 いじめる側も、リスクのある相手をいじめたいとは思わないからな。



**



 その後、一叶いちかへの嫌がらせは止まったようだ。


 田中恵理は学校を休んで引きこもっているそうである。相当怖かったのだろう。


 もちろん証拠隠滅も行った。彼女のスマホを遠隔操作で初期状態に戻す。


 そうなればこちらの操作も受け付けなくなるのだが、改変されたOSや非正規のアプリ、加工した写真でさえ消えてしまうのだから問題はないだろう。


 ただ、一つだけ気になる事があった。


「先輩。わたしの問題、解決してくれてありがとうございました」


 彼女らしからぬ口調で深々と頭を下げ、丁寧にお礼を言う一叶いちか。だが、いじめ問題は解決したというのに、彼女の表情は晴れ晴れしいものではなかった。


 彼女の顔はまだ、何か深い悩みを抱えているようにも感じる。


 岩神一叶(いちか)という少女が抱える問題はどこにあるのだろうか?



◇次回「どうせお祭りなんですから」にご期待下さい!


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