8話―山葵―
部室でのんびりと退屈な時間を過ごしていた時。
部員の1人がいないことに気がつく。
「あれ………?竜児がいなくない?」
そう問いかけてみるが、誰も答えるものはいない。
部長はだらしなく窓のさんに腰をかけ、ボーっと外を眺めている。
それだけで見栄えのある絵のように見える。
っていうかそこ危ないんですけど……ここ3階なんですけど。
でも部長なら落ちても普通に生きてそうだ。骨も折らずに。
愁兎は机に突っ伏している。寝ているのだろうか、微動だにしない。
自慢の茶髪がボッサボサになっている。
たぶん、授業中も寝ていたのだろう。
水原は本を読んでいる。ブックカバーがついているから何を読んでいるのか分からないが、
間違いなく危険な香りがする。
ところどころ黒い笑みが見える。
っていうか全員がシカト。それほどどうでもいいのだろうか。
確かにあの放送室男大好き事件(誰かが命名)から扱いがさらにひどくなっている。
水原なんかBL扱いしているからな……
「空気が変わった。」
そう水原が小さくつぶやいた瞬間。勢いよく部室のドアが開かれる。
「みんな聞いてくれっ!」
入ってきたのは、竜児だった。
「どうしましたか?男について話し合うんですか?」
そう水原が返す。
「違うわっ!いいか、よーく聞け!俺が依頼を授かってきた!」
「本当か!」
部長が生き返る。目がキラッキラ光り始める。
ああ、もうこの人は……
「部長!可愛い!マジで俺萌え死ぬわぁーーー!」
「その目は潰した方がいいですね。」
緑色の液体aが竜児の目の中に吸い込まれていく。
ツン、と匂いがするこれは……
「わさビームです。どうですか?ネーミングセンスとあわせて。」
水原がこちらを見ている。
え?これは、俺に対して何を求めているんだ?
「う、うん……いいじゃないのか?」
「チッ!」
鋭い舌打ちをされた。超怖いんですけど……
そんな中、竜児は地面をのた打ち回っている。
「ワサビィーーー!今までに無い痛み方!」
「そんなこといいから早く依頼を教えろ!」
ゆっさゆっさ、と胸倉をつかまれ振られている。
「ああ、部長が俺に触れるときが……」
そんなことを虚ろな目をしながらつぶやいている。
「気色悪い!」
「気持ち悪いです。」
女子2人に毒づかれ、がくっ、と倒れた。
愁兎は、この喧騒の中まだ眠っていた。
「うぅん……依頼……」
「で?何の依頼なんだ?」
救部全員が席についている。会議スタイルだ。
「そ、そうだった………とりあえずこれ……」
制服のポケットから折りたたまれた紙を取り出す。
その中に書かれていたものは………
「………」
「………」
「………」
「ぐー……」
「どう?よくねぇこれ!?」
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メイDO部より
このたびは竜児様に依頼を承っていただきました。
内容は竜児様に伝えてありますのでよろしくお願いします。
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「ふざけているな。とりあえずその部活を潰しに行こう。」
「了解です部長。私のわさビームガンをお一つ渡しましょう。」
そうやって武器の流出が始まる。
お、これもいいな。 いやいや、これは下手したら死にますよ。
などといった聞きたくない内容が聞こえる。
「ちょっと待てよみんな!困ってる部活を助けるのが救部の役目じゃないのか!」
いつにもまして真剣な竜児。これ関連だからか。
「確かに正しいことを言っているが………腹が立つ。」
「なにその理不尽な理由!?」
「竜児………」
愁兎が復活した。なにやら変なオーラが漂っている。
「どうした?愁兎?」
「め………ど」
小さくつぶやいている。
「メイド………!いいだろ!」
愁兎が壊れた。
「やっぱりそう思うだろ!流石は愁兎!」
2人が意気投合している。これは……
「マジか愁兎!我が弟ながら気色悪い!」
部長は本当にいやそうだった。
「ついに本性を現しましたか。クズが。」
物凄く容赦の無い一言だった。
「って言うかマジで愁兎どうしたんだよ……」
洗脳されたとしか思えない愁兎のテンションの上がりぶりに
正直引くしかなかった。
「これぞ男のロマンだぁ!」
竜児も覚醒。目が血走っている。
愁兎も同様、髪の毛が先ほどより逆立っている。
「ついにこの部活も終ったか……」
部長が机に額をぶつけて、嘆いている。
そしてメイDO部の部室へ向かう一行であった。