最終話―救うための救部―
さ、最終話です。
「と、言うことでこの部は廃部になった」
いきなりに部長がそう言った。
救部の部室にいる部長以外の4人は固まっていた。
「えっと、言っている意味がわかんないんですけど」
こうやって実際に部室にいるのに廃部だなんて意味が分からない。
外の景色は白一面で、白銀世界だった。 まぁ、要するに冬になって雪が降ったってことだけなんだが。
もうすぐ冬休みが始まるんだなぁ………と思っていた矢先の出来事だった。
「いや、まぁ、そのまんまの意味なんだけどな?」
「俺が聞いているのはそういうことじゃなくってですね! 何故この部が廃部になるかってことなんですよ!」
「ほらほら、ハル。そんなに切れるなよ。抱きしめてやるから」
「いいですっ、というかそれはいつかに言ってました!」
そこで文庫本サイズの本を読んでいた水原が顔を上げてこういった。
「作者がネタを思いつかなくなったから打ち切るのではないのですか?」
室内の温度がいくらか下がったような気がする。
「な、なんて物騒なことを言うんだ水原! そんなはっちゃけた奴はこの世界には存在しないのに!」
「部長。もうなんか言ってる意味が分かりません…………」
わかったわかった、と部長は呼吸を整えてからみんなを見渡し言った。
「この部は廃部になります! なぜなら、この私が務める部長がいなくなりそして部活動として成り立たせられる人数が足りなくなるからです!」
部屋の空気がよくわからないことになった。
「部長。理由を問いたいのですが?」
「よし、許そう。なんだ須川」
「何故部長が消えるのですか?」
「そうか、それはな………留年するからだ!」
「姉貴、留学だから。留年違うから」
「はっ!愁兎に突っ込まれた………」
あまりにもぐだぐだになりそうだったので、部長の言いたかったことをまとめると。
1、部長が留学する
2、部長そして人数が足りなくなるので救部は廃部
3、とりあえず今日が最後
「いや!? あまりにも急すぎるでしょ!」
「どうしたハル。キャラ変更か?」
「誰もそんなことしてません! というか、どのくらいの期間どこに行くんですか?」
「一年間、おフランスの方へ」
一年間というと、俺たちが卒業するまで。来年の春には部長はもういないということになる。
しかし、授業のほうはいいのだろうか? 飛び級制なんてこの学校にあったかな?
「学習面は大丈夫。てんさいだから」
今日の部長はどうも力が入っていない気がするんだが。
「でも、俺は部活続けたいですよ」
「ハル………」
場が静まり返り、空気が重くなる。
部屋の温度がまた下がったかのように感じた。
「よし、じゃあハルが部長やってそれでもって勧誘して人数集めろ!」
「ちょ、ええっ。今、シリアスな場面じゃありませんでした!?」
「シリアスだかシリアルだか知らんけど決定だ! 文句はないな?みんな」
さんせー、と適当な返事が返ってくる。
マジこいつら適当だよ………。
今日から廃部です。と生徒会長速吹智衣に言われてあっけなく部室の鍵は没収された。
「よし、ハル。後は頼んだからな」
「え、部長は勧誘手伝ってくれないんですか?」
「おいおい、私はもう部長じゃないぞ? それに今度からはお前が部長だ。なんでもお前がやらないと、な?」
そう言って背を向ける部長、いや霧谷 小冬。その背中は何だか寂しそうで、つい呼び止めそうになってしまった。
「ありゃ、姉貴はいっちまうのか。まぁ、これからは俺たちでやっていかなければんらないからわかるんだけどもさ」
「うん、………。とりあえず勧誘用のチラシ作製して、張って回って配って回ろう。一年生を中心にね。それと校内放送での呼びかけもしよう」
俺が淡々と言いきったことに驚いたのか、みんなは目を丸くしていた」
「鳴川 春希………。そんなに仕事できるキャラだったのですか」
「なにその感想」
伊達に霧谷 小冬の行動を見ていてたわけではない。俺だって学び取るものはあった。
それに、前部長ならこうすると思ったから。
「よし、じゃあチラシ製作と貼る担当は僕がやるよ。パソコン使えば楽勝だからね」
竜児が自ら役を買って出くれた。それに続いて水原も言う。
「では、私が校内放送を担当しましょう。台本を作るのには自信があります。私の残した成績を忘れたわけではないでしょう?」
そう言えば水原は演劇部がインフルエンザ状態のときに頑張ってくれていた。
「じゃ、残った俺はビラ配りアンド勧誘だな」
愁兎はニカッと笑って見せた。
俺には支えてくれる仲間がいた。一人ではなかった。
なんだか心が満たされた気分だった。
突然の霧谷 小冬の留学は明後日に迫った。俺はそれまでにどうにか部を再活動させて安心させて送り出したいと考えていた。
しかし、現実にはそううまくいかず入部する人は一人もいなかった。
部室が閉鎖されたので、霧谷 小冬を除く救部のメンバーは中庭に集まっていた。
「やれることはやったんだけどな………なかなか来ないな」
みんなの本心を愁兎が代弁した。
そう、みんなそう思っているのだ。
「僕のポスターは何かいけなかったかなぁ」
竜児も珍しく、まともにポスターを作成しチラシも作った。それほど真剣だったのだ。
「校内放送は、昼休みだけではだめなのでしょうか?」
水原も毎日の昼休みに放送をしてくれている。
ちなみに、霧谷 小冬は学校にはきていない。留学のための準備をしているのだ。
なんとか、明後日までには間に合わせたかった。
次の日、一向に朗報はなく、時間だけが過ぎて行っていた。
一同は不安を見せる。それでも毎日呼びかける。
正直言って、部活動はいくらでも作れるのでわざわざある部活に入る必要はないのだ。
部活をしたいのなら作ればいい、とそういう学校なのだ。
不安は増していくばかりであった。
霧谷小冬の旅立つ日、当日がついにやってきてしまっていた。
出発は午後6時。空港まで行くのに1時間はかかるので、5時までには人を一人でも集めなければいけない。
つらい作業だ。
朝からの呼びかけ。昼の放送。ことごとく時間は過ぎてゆく。
その姿を眺める一人の男がいた。
「あーっ! もう、なんであつまんねぇんだよっ!」
愁兎が荒れていた。みんな気持ちは同じだった。
「今は………4時ですね。続けれられたとしてもぎりぎりあと1時間ですね」
焦りを隠しきれないように水原は言う。
気温も下がってきている。
寒い、なにせ雪が降って来ているのだから。
残り一時間、ついに最終手段へと投じる。
「なんとかお願いします。部活を続けさせてください!」
無機質な床が目に入る。頭を下げているのだ。
「そんなこといわれでもですね規則は規則ですし」
歯切れ悪そうに生徒会長速吹智衣は言う。仕方ない、と。
「そこをんとか頼むよ! 生徒会長さんよ、姉貴のためだと思ってさ!」
愁兎も交渉に加わる。
しかしうまくいきそうにはなかった。
規則である、と言われてしまえばそこまでなのだ。
時計を見やると、5時であった。
「鳴川 春希、時間です。前部長さんを見送りに行きましょう。仕方ないです」
水原は声を絞り出して言った。
だめか、とそうあきらめかけたとき。勢いよく生徒会室のドアが開かれた。
「おれが、救部に入ろう」
そのゆっくりとした動作。タイムスリップしたかのように思わせるその雰囲気。
長武 士幸。かの剣道部の部長であった。
「あなたは剣道部のはずでは」
「ふん、この学校に兼部はしてはいけないという校則はなかったはずだ。俺は救部と剣道部を兼部する。」
「それは………。それなら」
生徒会長は部室の鍵と、部活動開始許可証を渡してきた。
「はやくいきなさい」
その目はいつもより温かかった気がする。
「ふん………」
「ありがとう長武さん! お礼はいつかにでも!」
受け取った大事なものを握りしめて走り出す。
「今ならまだ間に合います。車を手配してあります」
水原は走りながら言う。
「ナイスだ! 流石としかいいようがないな!」
4人は走る。大事なものを持って大事な人を見送りに。
去って行った背中を眺め、長武 士幸は呟く。
「お礼か………。そんなものはいらんよ、助けてもらったのはこちらなのだからな」
その様子を見て、速吹智衣は少し微笑むのであった。
小説から顔を上げ時間を確認する。自分はこれから外国へ行く。
別に変な緊張感もないし、違和感もない。
ただ頭に浮かぶのはどんな面白いことが待っているのか、だった。
しかし、今の自分には他の考え事もあった。それは日本に残していく救部のメンバーのことだ。
自分が引っ張ってきたといっても過言ではないくらいだった。
そんな自分がいなくなって大丈夫なのかと考えてしまう。部長をハルに任せたことも。
同じ高校生なのにそんな考えを抱くのはおかしいことだろうか。
いや、自分はいつの間にか愛していたのだ。それが、ただ心配になっただけ。
言い訳に自分が引っ張ってきただの自分がいなければ何も出来ないだのと言っているだけだ。
心の底では離れるのは嫌なのだ。
もうそろそろフライトの時間である。飛行機に乗り込もうと立ち上がり周りを見渡す。
あいつらは来ていない。
別れ際は会わないほうがいいのかもしれない。心が揺らいでしまうから。
顔を崩さないように、唇をかみしめて乗り場へと向かおうとする。その時。
「部長!」
とある少年の声が聞こえた。いつも的確に突っ込んでくれる少年だ。
「部長は、君だって言っただろ?」
振り向いた。そして驚いた。
部室の鍵と部活動開始許可証を持っていた。
1週間程度しか時間はなかったはずだ。それなのに、それなのに。
「ハル、それ……」
「やりました! やってやりましたよ! 部長」
「っ………」
苦笑するしかなかった。
いや、詰まった笑いしか出なかった。すごい。
それだけだ。
「帰ってくる場所、ちゃんとありますから。しっかり行ってきてください!」
最後はいつだったか、こんなにうれしい気分になったのは。
ほんとうにうれしくてうれしくて仕方なかった。
泣くことは、許されなかった。
「あっ、あ、姉貴ぃ………。いっでらっしゃいぃ」
うちの馬鹿な弟はもう泣いていた。たかが1年会えないというだけで。
自分が言えることではないのだが………。
「大槻を、大事にな」
「部長、いや。霧谷小冬さん。僕は………。あなたのおかげで─────」
須川竜児は口を閉ざし閉ざし言った。
「それはもう言わない約束、だ。須川、これからも頼む」
須川にはもっともっと馬鹿やってもらわないといけない。
ムードメーカーなのだから。
「前部長さん。私はあなたを尊敬してます。それからもですよ、だからくれぐれも海外で目立たないようにしてください」
これは水原なりの言葉なのだ。長年付き合っているとわかるものだ。
「ふ、帰ってきたときはまた可愛がってあげるからな」
「いってらっしゃい」
1年後。
「依頼が来ない」
「うぉ、ハル。姉貴みたいになってるからな! なんかこええよ」
変わり映えのしない部室でみんなはまったりと過ごしていた。
足りないのは部長のみ。いや、霧谷小冬というべきか。
「うぉーーーい! 依頼箱に1通だけ来てたぞ!」
騒がしく竜児が部室に転がりこんできた。
「よし、マジナイス」
その手紙を開いてみる。
『とりえず出迎えてくれると助かるかな』
「どういう意味だ?」
愁兎が真っ先に疑問を訴えた。
誰もが静まり返る。
「え、え? 俺なんか言ったか? 空気読めてなかった!?」
そんな愁兎の様子が面白く、少し吹き出してしまった。
それは、後の3人も同じことだった。
この部室にはやはり5人そろっていてこそなのだ。
5人そろって救部なのだ。
開いたドアから冬の寒さが舞い込んできた。しかしそれは室内の温かい温度によって中和されたのだった。
はい、ということできゅうぶ最終話となりました。
最後は無理やり詰め込んだ感がありましたが………そこは、はい。
まだまだ書きたい話はありましたが、ぐっと押えました。
これはまた案が煮詰まってからリメイクとして出そうと思っています。
きゅうぶが終わったことにより、新たな新作を出すかもしれません!
それでは、最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!
そして、次回作に期待してください!
また読んでくれることを願っています@