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34話―決着―

見事にゲリラシアターは成功し、大混乱する体育館から救部のメンバーは逃げ出してグラウンドに集まっていた。

「まさか成功するとは思いませんでしたよ………」

「まぁ、私が計画すればこんなもんだろ。みんなもうまくやってくれたしな」

「ハ、ハルくん………痛かったよ。神坂とかいう奴に吹き飛ばされたときにパイプイスの角に………」

ああ、そういえばあの時何か叫んでいたな。

「さて、神坂の行方だが………水原、分かるか?」

横でノートパソコンをいじっている水原はこちらを振り向き頷いた。

「多分、校舎裏だと思います。監視カメラにバッチリクッキリです」

「水原、それってお前が仕掛けた監視カメラに映っていたのか?」

「いいえ、学校側のパソコンをハックしました。それで監視カメラの映像を引き出しました。あの堕落神といじめられ娘のやり取りも学校側の監視カメラに映っていたものを使わせていただきました」

「み、水原ってそんなパソコンに強いキャラだっけ………?」

というかもう、強いとか言うレベルじゃないだろ。

「はい。というか覚えました」

バックが黒すぎるのでこれ以上は突っ込まないことにする。

「校舎裏か………まぁ、最後の仕事は愁兎がやるべきだよな」

そう言って部長は愁兎を見据える。

「ああ、これは俺がやるべきだな」

真剣な顔つきで頷き、校舎裏の方へと歩いていった。

「大丈夫なんですか部長? 愁兎一人で行かせておいて」

部長は愁兎の背中を眺めたまま言う。

「大丈夫だろ………だってあいつは私の弟だぞ?」

振り返ったその顔は笑顔と自信に満ち溢れていた。

理想の姉弟像であり、とてもうらやましかった。






無造作に植え付けられてろくに整備もされていない桜の木の大集団の中を歩きつつ、校舎裏へと向かう。

普段はこんなところには立ち寄らない。ここは俗に言う不良の溜まり場であるからだ。

木に覆われていて、何をしていても見つからない。絶好の溜まり場だからだ。

よくここで被害に遭うという生徒もいる。まさに『裏』だ。

日常生活の中で、誰かが楽しくすごしている反面悲しんでいる奴がいる。

学校にくるのが楽しいという奴がいる反面行きたくないと思う奴がいる。

表と裏。それはどんなところにも存在しているということだ。

ゴミ置き小屋に差し掛かったとき、男子生徒の姿が見えた。

神坂、奴だ。

「ん………だよ。こんなところにまで来て感想を要求するきかぁ?ったく………なんなんだよ」

自嘲気味に笑い空を見上げる神坂。

「ほんとによぉ………やっと俺の時代がくる時だってのによ。なーんで邪魔するかねぇ」

「…………」

「お前らのせいで全部めちゃくちゃだよ。俺の知名度、地位、その他も」

「…………」

「お前ら姉弟さえいなければ俺の人生なんて勝ち組だったってのによ………」

「…………」

「てめぇ、何とか言えよ。ふざけてんのかぁ!」

怒りの咆哮を上げる神坂。あいつは多分追い詰められている。

「……ゃ、まれ」

「ああ?」

「大槻みろるに、謝れって言ってんだよ!」

「………っっく、はははははっ! 馬鹿かお前。あんな奴のこと気にしてんのか? 振ったくせに? はははははっ!大爆笑だよ。お前にはもう関係ないだろ? それにあいつは用済みだろ? 俺の踏み台として起用されて、もうそれだけでいいだろ? 必要なんてないだろ? なに正義感振りかざしてんのかって。お前はただの偽善者だろ。お前が振っていなければこんなことにはならなかったのかもしれないのになぁ?」

昔の記憶が────断片的に。

「っく、………自分のしたことを棚に上げておいてそれかよ」

「はぁ?」

「くだらねぇっての。知名度? 地位? 馬鹿かお前は、そっくりそのまま返してやるよ。お前は何にすがり付いてんだよ」

「ふざけたこといってくれるじゃねーか」

「そんなものどうでもいいだろうが、そんなくだらないもののために人を平気で傷つけていたのかよ」

「くだらない、だぁ? この世はさぁ、知名度とか好感度とか地位で成り立ってんだよ。いつまでお子様の考え方してんのかしらねーけどよ、知名度や好感度さえあれば推薦入学だって余裕だ。無駄に勉強しなくて済む。社会の中ではどうだ? 地位さえあれば約束されるようなものだろ? そこまでに至る経緯なんてどうでもいいんだよ、すべては結果。どんなことに手を染めても結果さえ出ればそれで周りは納得するんだよ。用は結果しか見ねぇ奴らがこの世界回してんだからしょうがないことなんだよ」

「………俺は馬鹿だからよくわかんねーよ。でも言えることだってあるんだよ。だから何度でも言ってやる。くだらねぇ・・・・・!」

「お前には言ってもわかんねぇよ! とりあえず俺はイライラしてんだよ。素直に殴られてくれよ!」

神坂は地を蹴って接近してくる。速い、が怒りに体を任せている状態ではあたるものも当たらない。

顔面目がけて放たれた拳を首を傾けるだけで避け、バックステップで距離をとる。

続けざまに大振りのアッパーやフックがくるが、腕を払って拳の軌道を変えて避ける。

避けることだけに集中し、相手の攻撃は一切受けない。

息を切らせた神坂が吼える。

「て、っめえ………なめてんのかよ……なんで反撃してこねぇんだよ!」

「殴って聞かせても、そこには善意がなくなってしまう。お前の意思で、大槻に謝らせるためにも俺は攻撃しない」

「糞、甘い奴だな………殺してやるよ!」

ゴミ置き小屋から木材を取り出し、ブンブン、と振り回す。ところどころに釘が打ち付けてあり、木材を貫通して先が突き出ている。

そう、釘バットのような形をしている。

「これで殴れば死ぬだろ」

木材片手に肉迫してくる神坂。ギリギリとどくかとどかないかのところで木材を振り下ろす。

ザシュ、と地面が抉れる。

受け止めることはほぼ不可能。だけど、釘がついているのは先の方に3本ほどだけ、そこに注意すれば大丈夫。

横に凪ぐ。振り下ろす。ただただ、振り回す。


避けるのにも体力が必要となる。もう9月上旬だというのに汗が出る。

神坂も同じく肩で息をしている。

「いいかげん、くたばれぇ!」

振り下ろした一撃を避けようと足に力を入れる。

そのとき、─────先ほど抉られた地面のわずかな隙間に足を引っ掛けてすべる。

スローモーションで、木材が振り下ろされてくる。

走馬灯。死の直前に、さまざまな過去が振り返られ、時間を体感時間を遅める。

死、ぬのか…………。


真っ黒になる。それは目を閉じたからだ。しかし衝撃は一向にやってこない。

おそるおそる目をあける。そこには…………見覚えのあるパンツがあった。

「………は?」

地面に倒れた俺の上を誰かがまたがっている。

木材はその人に受け止められたということになる。

「こらこら、こんな危ないものを振り回して…………しかも釘付き。殺傷能力高いなぁ」

聞き覚えのある声。いつも近くに在る、その声。

「は、はなせっ!」

「言われなくてもはなすけどさぁ、私の弟になんて危ねぇもの振り回してんだよっ!」

どごっ、という音の何秒か後にガシャアアアン! と大きな音が響く。

ああ、こんなことができるのはあの人しかいない、だろ。

「おーい、そこは絶景かい?」

上から姉貴の声が降ってきた。






「なぁなぁ、ブッキー。とりあえず依頼解決したんだから部費を上げてくれよぉ」

「あなたたちはあんな事件を起こしておいてよくそんなことが言えますねまったく本当の馬鹿ですね」

「約束したろぉ? それともブッキーは約束守らない最低の人間だたのかな?」

「く、…………。そんなことより大槻さんは登校してきているのですか?」

「だからしてるってー。解決したんだって。ほれほれ、部費を寄越しなさい」

今は、部長と生徒会会長の話し合い(?)中である。

場所は生徒会室で、ぐだぐだと2人だけで長引いている。

水原はハードカバーの本を読み、竜児は遠くから逢香さんを眺め、その他はてきとーに過ごしていた。

かれこれ1時間は話し込んでいる。

とはいっても内容がかなり薄いものなのだけれど。

「あれ? そういえば愁兎は?」

気づいたら愁兎がいなくなっていた。

まぁ、トイレにでも行ったのだろう。





「き、霧谷くん………あの、ありがとう」

「あー、まぁ、どうってこと無かったぞ」

「…………あと、ごめんなさい」

「………それは無しだっての。あとさぁ………」

屋上、気持ちのいい風が吹く中で言いよどむ。

アレからすべてが解決し、いつも通りの日常が戻ってきていた。

大槻も学校に登校するようになり、元に戻った。

ベンチには大槻が腰かけ、俺はフェンスに背中を預けていた。

「俺と………付き合うか?」

「ぇっ! ………それは、どういう意味で!?」

「だ、だから………そのまんまの意味だっての!」

自分で言ってて恥ずかしい。大槻も赤くなってもじもじとしている。

「はぅ………お、お願いします。………でいいのかな?」

「っ、………おう」


祝福するかのように、心地よい風がサァァァッと2人を撫でた。








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