27話―とある生徒会の―
「さて、この間は流石に遊びすぎたからな。久々に依頼箱の方を見てきた」
部長が長い髪を肩から払いながらそういった。
その手には何も持っていないような気がするのだが、依頼が無かったという結果が見えているのは俺だけか?
「そういえば鳴川 春希。最近一人称が『俺』になってますよ。昔は『僕』でしたよね? いつの間に色気づいたと言うのですか………」
何故か水原は今更にもなってそんなことを言い出した。………いや、生活に慣れてきたからってのは駄目かな?
「………とりあえず、だ」
部長が仕切り直そうとしたその時だった。愁兎が割って入ってくる。
「そ、そうそう! 野球部復活したらしいぜ! 大智から聞いたぜ」
「そうなの? そういえば朝から野球部が練習していたような………」
「えーっと、それで、だな」
部長がわざとらしく咳払いする。そんなところに竜児が割り込む。
「そーいえばね! あのアニメの二期が4月にはいるんだよー!」
(馬鹿か、もっと話せるようなネタを出せ!)
(この竜野郎! 俺はメイドに限ってんだよ!)
(だ、だって~。俺はこんなネタしか………)
(その前に愁兎! そこじゃないよ!)
(なにっ、そうなのか?)
いつの間にかアイコンタクトだけで会話できるようになっていた俺たちだった。
「あー、ゴホン。えー? いいかな?」
部長が正す。も、もういいじゃないですか………。
「あ、姉貴。発表はしなくていい………来て、なかったんだろ?」
「うっ………」
マジ図星。こういうときは、依頼きてないから○○するぞー、とか言い出しそうだから嫌なんだ。
だからみんな(?)で微妙に避けてたのに。(しかも意味が無い)
「そう、だからー!」
「さて、今日は部室で過ごそうか」
愁兎の提案。よし乗った。
「待てお前ら。別に何かをしようってわけじゃないんだ。最後まで聞こうか」
やけに冷静に部長が諭す。もちろんよくないことの前触れの気がしてならないが。
「姉貴、なんかいい案でもあるのか?」
「生徒会と全面戦争」
「よっしゃ、みんな各自自由行動とっていいぞー」
愁兎の名提案。よし、乗ろうか。戦争なんてよくないよな。
「だから最後まで聞けって。戦争と言っても別に血で血を拭うような戦いじゃないんだ」
というか当たり前でしょ。そんなこと学校内で起きてたまるかよ。
「じゃあ何しに行くんだよ」
「ただの話し合いだよ」
「なんで傍点が振ってあるのでしょうか」
水原がハードカバーの本の一ページをめくりながら言う。
「そこまで読み取れる水原はどうなんだ………?」
「なんですか。鳴川 春希、文句でも?」
「いや、………なんでもないです」
たまに水原はおかしなことを言い出す。
「さて、またまた話がずれたが、戦争………じゃない。話し合いに行こう」
「今言いかけたよねぇ、姉貴!?」
「大体一人で行けばいいじゃないですかなんで俺たちを誘うんですか?」
「そう冷たいこと言うなよハルぅー。面白いからいいだろ?」
「何で現在形なんですか。そこは未来系でしょ」
「そんなことは問題じゃないんだ」
「というか話の内容って一体なんなんですか」
「えーとな、………部費についての話」
ものすごくよくないことが起こりそうだ!
「姉貴………俺は久々に不安と言うものを抱くぞ」
「それについては俺も同感だ」
「そうですか部長! その部費で救部をアニメ系列で埋め尽くすんですねっ!」
「まったくもって見込み違いだ。残念だったな、須川」
「そうですよ。使い道なんてなくないですか? クーラーはこの間の大会で取ったとして、ほかに必要なものなんてあるんですか?」
「いいんだよ! たくさんあったら娯楽代に使えるだろ!」
色々と駄目な部長だった!
「そんな確固たる利用法がないのに………」
「ついてこないのか? 須川?」
「うぇえ!? 僕ですか」
いきなり呼ばれた須川は何事かと目を見張っている。
「東界 逢香もいるぞ、生徒会には」
東界 逢香、確かこの間の大会で竜児に天使とまで呼ばれた人だったよね。
生徒会役員だったのか………。
「はっはっは………何言ってるんですか部長。行くに決まってるじゃないですか!」
竜児が買収されたぁ! これ崩壊のパターンでは………?
「さぁ、愁兎。生徒会にはメイドがいるぞ?」
「姉貴………流石にそれは嘘だと分かるぞ。それにな………俺は姉貴が好きなんだって!」
「死ねシスコンが」
バッサリ。
「さぁ、ハル。ついてきてくれたら一緒にお風呂に入ってやろう」
「俺はそんなに欲望にまみれていませんよ………」
こ、これは本当のことだからな………? 確かに部長なんかとそんなことになったら俺はもうどうなるか……。
竜児化しそうだ。
「ふうむ、ハルはなかなか崩せないな………」
愁兎はアレで終わりなのか。
「よし、ならばべんきょーを教えてやろう。これは良くないか?」
なにっ………そんな微妙な部分を突いてきて………確かにもうすぐテストが控えているけどっ。
「…………」
「さて、これでハルは落ちたな。あとは水原か………どうも難しそうだが、な」
「仕方ないですね。面白そうだし私も行きますか」
「流石水原っ! 好きだぞ!」
「それは俺に言ってくれぇ!」
「お前はクズだ!」
「も、もっと優しい言葉をください……」
グダグダな中で流されつつある救部部員達………。
やってきたのは生徒会室前。思えば生徒会に関することなんてまったく無かったからここに来ること事体初めてかもしれない。
「さぁ──────て、開戦だ」
思いっきり戦うつもりだった。
「たのもー!」
「何ですか騒がしい」
開け放った瞬間。いや、部長がそう言い終わった次の瞬間にもう彼女は声を発していた。
「霧谷 小冬ね」
「ああ、そうだ。霧谷 小冬だ!」
「あなたがここにいる理由なんてないから早く立ち去ってもらいたいのだけれどもそう考える私の意見はあなたには伝わっているのかしら」
早次に言葉が繰り出される。確か彼女は生徒会長速吹 智衣。
きっちりとした身だしなみに、真っ黒の髪を後ろでまとめて縛っているいわゆるポニーテール。
どうやら会議中だったらしく、一番前の真ん中の席に堂々と座っていた。
「相変わらず句点のないしゃべりかただな。むかつくな」
「句点なんてつける必要はありませんなぜなら時間の無駄となるから。つけているのは時間の重さを知らない俗に馬鹿と呼ばれる存在の人たちよ」
酷い言いようだ………このひと絶対ドSだ。
というか部長は喧嘩売りに来たのか!?
「おっと、話がズレてきていたな。まぁ、お前との話し合いはまた今度にするとして、部費について交渉しに来た」
部長は屈託の無い笑みを浮かべて、
「引き上げろ」
そう言った。
その瞬間、速吹生徒会長の眉がピクっとつり上がった。