26話―過去……?―
教室の角、トイレの個室、裏庭、校庭のバックネットの裏。
どこでもそれは同じことだった。殴りに殴られ。蹴っては蹴られ。
聞こえる言葉は中傷。
酷い………奴らだなぁ………こいつが何したってんだよ。、、ああ、存在が、か。
いつものようにボロ雑巾になるまでやられ、そこに横たわっていた。
「やぁ、少年。今日も面白い格好をしているな」
あの美人さんだった。
「僕はいつでも面白いですよ」
「ははっ、そうかもなぁ。………どうにかしようとは思わんのか?」
「なにがですか?」
「いじめを─────だよ」
「僕が? ですか? 僕は、いじめられてなんていませんよ」
「嘘をつくな。私はピノ○オの嘘だって見抜けるぞ」
「アレは誰だって見抜けるでしょう」
「話を逸らすな、少年、どうしようとも思わないのか?」
「話を逸らしたのはあなたですよ。それに何度も言いますがが僕は─────」
「じゃあ何故そんなにボロボロなんだ?」
「それは………殴られたからでしょう」
「それはいじめとは言わないのか?」
「僕が………そう望んでいるからいいんです。僕は………どうしようもない奴ですから」
「何があってもいじめはよくないと思うなぁ」
「それは………勝手な解釈です。世の中には、必要悪ってのもあるんです」
そう言って、背を向けようとした僕の肩に、手が置かれた。
「少年は………それでいいのか? 理由なんてあるのか!?」
「あなたにはもちろん………他の誰にも分かりませんよ、僕の気持ちなんて、ね。分かる、なんて言う奴はただの偽善者です。そんなことはもう分かっている。それに何度も言いますが僕はどうしようもない奴なんです。だから、あなたも、もう関わるのはやめにしてください。これ以上は─────」
一呼吸。そして、いつもの台詞を。
「迷惑なんです」
そう言って背を向けて歩き出す。
いつまでも、言い続けてきた台詞。いつまでも、言い続ける台詞。
それなのに、今更なんでこんなにも、重く、沈むような言い方をしたのだろうか。
あの人には絶対関わって欲しくなかったからか。………そんなこと、馬鹿みたいだな。
そう、自分に叱咤した。
いつも通りの朝、痛みがやってくる。
何でお前学校来てんの?
サンドバック、だからだよなぁ?
ああ、俺らのストレス発散に貢献してくれてんのかぁ?
いっそのこと殺しちまおうぜ!
ぎゃはははっ、そりゃやべーって。
でもこいつ家族いねーんだろ?
じゃあ、いいんじゃねぇ?
何でも自分で殺した、とかいってた覚えがあるぜ!
お前よく知ってるなぁ。
っつーかこいつ犯罪者じゃねぇか。
じゃあ殺しても問題ねーだろう!
だからそれじゃあ今度は俺らが殺人者じゃねーか!
ぎゃははははははっ。
本当のことだ、俺が殺したようなものだ。アレは、俺が。
しばらくして、暴力の嵐が止む。いつもの通り横になっているが、あの人は現れない。
それはそうだ。自分から関わるなっていったのだから。これでいい。
「よう、少年。今日も朝からやってるな」
美人さん、だった。
「なんで………」
「なにがだ?」
「関わるなって、言ったでしょう! 迷惑だって!」
そう言っても、彼女は特に顔色を変えずにいた。
「んー。迷惑、か。でも私は自己中心的な性格だからな。お前がなんと言おうと私が決めないとそうはいかん。私が迷惑だと感じていないから、別に迷惑じゃない。お前が迷惑と感じていようが、私には知ったこっちゃない。それでいいか?」
「なに………を言ってるんですか。まるで意味がわからないですよ」
「分からなくはないさ。少年が分かろうとしていないだけさ」
「おれは。人殺しなんですよ!? 母を父を、妹を! 殺したんですよ!」
「そんなことはないだろう。少年は手をかけていないだろう」
「それでも、俺が殺したようなもんなんですよ!」
ふぅ、と美人さんは息をついて。息をついて。いった。
「それがどうした」
「え?」
「そんなこと、関係がない。少なくとも、私にはな。私には殺人鬼の友達だっている」
「僕がよくないんです」
「私はいい」
なんなんだよ、この人は。
僕の、近くになんでいたがるんだよ。
辛いだけだよ。こんなところにいたって。
いいかげん。そういいかげんに。
そうしないと………。
「僕、あなたを殺してしまうかもしれません」
「少年に殺されるのならいいかもな」
「…………」
「…………」
「おやー?なんで駄目人間と完璧超人が一緒にいるんだよ?」
金髪ロングのいかにも不良バリバリの男がやってきた。
「それは、彼氏彼女同士だからだろう」
「はぁ? またまた、冗談が過ぎるよあんた。そんな奴放っておいて俺と付き合おうぜ、な?」
「私にはあっちの少年の方がお似合いだよ」
「そんなことねーって」
「お前のようなクズ野郎より、あっちの少年がいいって言ってんだよ」
「はぁ? 俺を怒らせたいわけ? 女だからって調子にのってさぁ。こいつ、人殺しなんだぜ?自分の妹殺してやがんの。ぎゃはははっ。なんだっけ?父親が家出して。そんで収入がなくなって母親が病気で死んで。………そこからが傑作だったぜ。ぎゃはははっ。妹が兄貴のために死んだんだよ。首吊ってさ。確かに人が生きるには食費だって被服費だってかかるだろうよ。その分を浮かせるために死んだんだってよ。ほんと面白すぎだよなぁ!」
「それ以上」
「はぁ?」
「それ以上喋るな」
「なんだよ、彼氏侮辱されて悔しいのか? だから俺と付き合えば─────」
瞬間。男の身体が崩れた。
ドサリ、とその場に崩れ落ちたのだ。
「あれ? ちょっと強く殴りすぎちゃったかも。………顎の骨割れてるっぽいし、一週間は起きないだろう」
「なにをやってるんですか」
「いやー。イラッとしてね。やっぱ侮辱されるのはよくないよね」
「僕はそんなこと言ってるんじゃなくて」
「私には、君が必要だ」
いきなり、だった。
「はい………?」
「だから、君が必要なんだって。だから、──────」
「一緒に来てくれないか? 宮越君」
「何の話しだぁぁぁっ!」
「なんですか部長。ふざけてるんですか」
「わはっ、すまん………つい面白くて9,99999割方嘘だ」
「ほとんど嘘で構成されてますね………」
「っつーわけで、この話は終わり。さて、もう下校時間だぞー」
そう言って部長は立ち上がり、背伸びをした。
「一体なんだったんだ………」
気づけばもう日が沈みかけていた。そして愁兎はまだ寝ている。
今回は嘘オチかよ………。
確かに代名詞ばかりで名前なんて出てこなかったけどよ。
そういえば…………残りの0,00001は、どの部分だったんだろう………。
無駄に思考力を使った一日だった。
ほんとに無駄。