24話―基本が―
2回戦はチームが5つになるので、くじ引きでシードを一つ決めた。
シードになったのはまぁ、部長のチームなんだけども。
そして次の俺たちの対戦相手は昨年準優勝だったといわれるチーム。
今回は水原も、
「私のサーブは通用しそうもありませんね。鳴川 春希、動ける準備をしていてください」
と言っていた。たかがビーチバレーでもそんな本気に……。
≪さて、ここで今回の優勝商品を紹介しましょう! まず優勝者には『ふぁなそにっく』さんの
クーラーです!≫
おっと、なんか仕組まれたかのような優勝商品だな。いや、部長はこれを狙ってここに………?
ちらり、と向こうのベンチに座っている部長を見ると、目が光っていたような気がした。
≪そして、準優勝の方には! 海の家限定の商品券です! ≫
一位と二位の差が激しいのはもうパターンだな、……だからこそ燃え上がるんだが。
≪準備が整ったようです! それでは2回戦を始めちゃいましょう!≫
「ふふふ………昨年準優勝したその強さ、とくと味あわせてもらおうか」
「おーい、受け身の文になってるからな。お前らが昨年準優勝したチームだぞ」
「おっと、間違ってしまったな。まぁいい。俺らは強いな?」
「なんで疑問系なんだ……」
もしかして頭の足りない奴なのかもしれない。無駄に筋肉ついてるし……。
「鳴川 春希、相手にしても無駄ですよ。ちょっとばかし痛い人らしいですから」
初対面の相手に酷い言い様だな……。まぁ、それでこそ水原だが。
「ふふん。俺を馬鹿にしたな……後悔させてやる!」
お、今度はちゃんと言えたようだ。
「いきます!」
水原がサーブを放つ。これもモーションが見えず、山形に落ちていく。
「そんな技、俺たちには通用しねぇ!」
男が喰らいつき、レシーブでボールを真上に上げる。
そして宙に浮いたボールを女がトスで支える。
「食らえ! 筋肉アタァック!」
ギュン! と空気を裂き、こちらのコート内に突き刺さる。
男はどや顔で筋肉を見せ付けてくる。暑苦しい………。
「流石は昨年準優勝チームですね。しかし、こちらには鳴川 春希がいます」
水原、ハッタリなんか通用しないって……現に俺動けてなかったじゃん。
「な、なんだと………そこのにーちゃんはそこまで強いのか………面白い!」
おい、まったくの逆効果だと思うが………。
水原はしまった、という顔をしていた。
「水原、お前が作戦をミスるなんてな」
「こ、これも作戦のうちですよ」
絶対動揺してた。
その後水原の特別サーブが放たれるも、相手にはまったくの効果なし。
相手のアタックもそこそこ取れるようにはなってきたが、まだキツイ。
俺はすでに砂だらけになっていた。
「はぁ、はぁ、………きついな」
「ふはははん! どうだ俺の筋肉は!」
もう相手チームの一人が暑苦しくてやってられない………。
筋肉やろうはものすごくスタミナあるし。
水原もかなり汗を流していた。
「そんなに見ないでください。冷静さが売りですから」
そういうことは言わないほうがいいと思うぞ、水原。
≪さぁ! マッチポイントです! 流石に昨年準優勝は伊達じゃないと思います!≫
スピーカーから大音量の声、確かに馬鹿ではあるが強いな……。
「はっは! 俺の最後の筋肉サーブだ!」
バァン! とビーチボールを叩き割りそうな勢いでサーブを打つ筋肉野郎。
空気抵抗でブレながらも前進してくるそれを俺はレシーブで受ける。
「任せてください」
次に水原がトスで真上に上げる。
「いくぞぉぉぉぉぉぉ!」
ガラにもなくテンションの上がる俺。ボールを思いっきり相手チームのコート内に叩きいれる。
「筋肉なめるなぁ!」
男の怒号が響いたと思った瞬間、俺の視界は筋肉で覆われた。
「は?」
ボールはその筋肉に阻まれ、こちらのコート内に跳ね返って落ちる。
それはブロック、と呼ばれるものだった。
………………………………………………………。
………………………………。
……………………。
「まぁ、しょうがないですね」
「まぁ、そうなんだけどな」
なんだか腑に落ちない結果だった。
続いて竜児のチームの対決。
まぁ、言わなくてもこれは竜児が足を引っ張った、という結果である。
なんにせよ集中攻撃だったからなぁ。
こればかりは同情する。
「す、すいませんでした………逢香様……僕は、僕はぁ!」
「そ、そんなに頭を下げないでください。頭がもう砂に埋まって見えていませんよ……」
それはすごくシュールな光景だった。
「もう踏んでください、そして僕をこのまま旅立たせてください!」
「そんな………そんなこと言わないで、生きていきましょう? 私と」
「え? わたしと?」
すぐさま竜児が復活する。
「はい……」
爽やかなお嬢様の笑顔に、竜児はやられていた。
「…………っん」
「……? す、須川さん? こ、この方、痙攣してます……!」
どうやら本当に旅立ったらしかった。
そして決勝戦。やはり対決のカードは部長チームと昨年準優勝チームだった。
「ふふふ、昨年の恨みをここで恨んでやる」
「日本語がおかしいのは毎回のことか………さて、愁兎準備はいいか?」
「おっけーだぜ、姉貴。なんせクーラーが懸かってんだかんな。本気でいこーかな」
部長と愁兎は本気らしかった。
オーラが常人の俺でも見てとれた。
≪さてさて、ついに決勝戦。試合開始です!≫
「そぉらぁっ!」
ぎゅぅぅぅぅんっ とスパイラル回転をしながらボールがとぶ。
「そんなサーブ!」
筋肉がレシーブの構えで待ち構える。
スパァン! と筋肉の腕に当たった瞬間。ボールが横に跳ねた。
「なにっ! 回転が………?」
「ふっふっ………これが俺の本気さー!」
愁兎は暑さのあまり壊れてしまったのかもしれない。
「さて、スーパーフルボッコタイムかな」
部長が獣のような笑みを浮かべた。
試合の結果。覚醒した部長チームを止められず、筋肉は敗北した。
アレはもうただのいじめに見えた。
なんだろう………プロチームが必死になって近所の子供と対決する見たいな。
「お、俺の筋肉がぁ……」
「まぁ、また来年がんばれ、私たちはもうクーラーが手に入ったから来年は外に出ないだろうがな」
基本的に駄目な人だった。
えっとぉ………最近はちょっときゅーぶ不調です。