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20話―積み重ね―

僕がまだ中学生のころ、あいつ・・・はまだ生きていて、灯山とも険悪な

仲ではなかった。

部活動。3人で競い合うようにして練習をし、お互いが成長した。

その中学では、俺たちが3大ピッチャーとして活躍していた。

みんな、仲がよかったのに。みんな、あんなに楽しそうだったのに。

どうして、あいつがいなくなったから?

どうして、2人じゃやっていけないから?

どうして──────。


葬式の日だった。俺たち2人はあいつの家に出向いていた。

あいつの母は言った。

「ごめんね………。2人とも……こんな思いさせて」

それは、違うのではないか? 息子に対する言葉はないのか?

でも思った。あいつもきっとそういうのだろう、と。

灯山は葬式の間、一言も話さなかった。

別れがつらいのだろうと、悲しくて声も出ないのだろうと、そう思ってた。

だけど、違った。

ある日のミーティング。監督やコーチがいない中、みんなは俯いている。

それはそうだ、だって仲間が一人減ったのだから。

もう会えないのだから。

ダン! とホワイトボードが叩かれた。

「お前らいつまでうじうじしてやがる。死んだ奴のことなんて・・・・・・・・・・|考えるな

(・・・・・)! そんなんじゃあこれから先どうするんだ」

冷たく、突き放したような言い方だった。

気が付けば僕は灯山につかみかかっていた。

あたりは精神地獄。誰もが最悪の心境だっただろう。

僕を強引に引き剥がすと、灯山は立ち上がって言った。

「お前はずっとそうしていろ。俺は先に行く。自分で泳げないような奴は溺れればいい」

僕はその言葉がズシリ、と心にのしかかった感じがしてやまなかった。

勝つにはこれしかなかった。

あいつの決め球カーブを磨くことしか。










「そういえば、さっきはよくもコケにしてくれたな」

「何の話だ」

「ピッチャーだよ、ピッチャー」

「ああ、そのことか。………すこし話をしないか」

「聞いてやってもかまわないが」


マウンド上では何かが起きている。でもここからではよく分からない。

「そんなときに、水原 闇音の便利グッズコーナー」

「み、水原? 何考えてんだ」

「遠くの会話が聞きたいとき、そんな時ありませんか?」

「ソレは盗聴と言うんだぞ」

「そんなときにこれ、盗聴君ver97です」

「97作品目でないことを祈る」

そういって水原はイヤホンをとりだす。

「これで会話を聞けます」

「だから盗聴だね……」



「過ぎた過去に意味はあると思うか」

「さぁ? そんなもの人それぞれじゃないかな」

「俺は意味がないと思っている。ソレは過ぎ去ったもの。もうここには『無い』んだ。

 ではそれに執着する人間はなんと言うか知っているか?」

「………さーな」

「愚か、だ。そう、二千 大智のようにな。過ぎ去ったものにいつまでも執着しているから

 先に進めない。そうだろう? 常に人というものは新しいものを求める。

 過去の栄光などと同じように、過去のものには意味など無い。分かるか?」

「はっ……どんな宗教に入ってるか知らないけどな、布教するのだけは勘弁だよ。

 いいからさ、さっさと投げなよ」

「分からないか……ならばお前も愚かだな」

灯山君は投げの体制に入る。

同じトルネード投法。部長でも難しいと言っていた。


キィィィィィン!


バットから快音が聞こえた。ボールは? どこへ行った?

「もうスタンドに入ってますよ」

水原がそういった。と、言うことは……


「ホームラン………だと、バカな。俺の球が?」

「あー、こりゃ綺麗に入ったな~。ま、残念だったな。少年。私は超人だから仕方ない。

 それとな─────ちょっとばかしイライラしてたもんでね」

部長。かっこよすぎですわ………。

「おい、長武。次はお前だったろう? いっちょ行ってこいや」

「承った。俺の真の力、見せてやろうとするか」

続く長武君は何故か居合い切りの構え。

「ふ……超人なのは分かった……でもな、それ以外はただの雑兵だろう!」

トルネードの中心点から放出される球、さっきよりもスピードが段違いだ。

「武士に必要なのは太刀筋の美しさと考える人もいるかもしれぬが……見切りこそが最強

 だとは思わぬか?」

シパァン! と片腕の力だけでボールを運ぶ。2ベースヒット。

「な、なぜ………」


そこからか、灯山君の勢いは無くなり、6-5の勝ち越しに。

あとは守るだけなのだが……。

「大智君……大丈夫?」

「駄目なら超人の私が投げるが……?」

「いや、駄目だ。僕が投げないと……あいつの分まで僕が生きるって決めたから。

 あいつの球で、討ち取るって決めたから」

そういって目に先ほどとは違う光を宿した大智君は、マウンドに立った。

順調に行けば、最終バッターが灯山君。

きっちり終わらせてほしい。






2アウト。出塁無し。

灯山君対大智君の戦いだ。僕達はもう見守ることしか出来ない。


「最初にも言ったけど……お前には負けない」

「ああ、そうだ。こいよ。俺が壊してやるから……あいつもろともな!」


ズバン!

「ストライク!」

審判が声を張り上げる。

「違うだろ。あいつの球で来いよ。カーブじゃない、あいつのもう一つの球で」

「………後悔するなよ」

大智君のフォームが変わる……これは、アンダースロー!?

ズバァン! ボールが下方から抉るようにしてキャッチャーミットへ。

「ストライク!」

「ふはっ……俺が気づかないとでも思ったか? だから小細工はいいんだよ……

 あいつが死ぬ前にオーバースローの練習・・・・・・・・・・をしていただろ?そのときだよ

 そのときに考えていただろ? 俺を待たせるなよ……さっさと投げろよ!」

「お前は……分かっていなかった」

もとのオーバースローに戻る。でも、先ほどまでとは威圧感が違う。

「三人の……思いだった」

ぶぅん、と球が投げられた。

ボールが心なしかぶれているような気がする。

「縦変化、お前らはそればっかりだったよな! どこに来るかぐらい分かるわ!」

スパーン……とバットが空振りした。

「な………に?」


どこで間違えた? 縦変化と言ったらフォーク。それぐらいしか習得出来ないはずなのに。

なぜ。なぜ、カーブと逆方向に曲がる?

「ナックル」

「ナックル……!?」

「お前があいつに教えた球だ」

あいつの死ぬ直前………あのときに教えた?

「だからこの勝利は………ここにいる誰のものでもない、あいつのものだ」

「ははっ………なんだよそりゃあ! ふざけんな!」

怒りを奮い立たせ、俺は大智の胸倉つかむ。

でも、そんなことではあいつは動かなかった。

まだそんな眼をっ…………。

「悔しかったら………」

ポツリ、と大智が言葉を漏らす。

「悔しかったら! 這い上がって来いよ! あいつに負けないくらいの努力でよ!」

その目には涙が浮かんでいた。泣いているのか……

「お、俺が………あいつに負けるわけがねぇだろうが!」

手を離し、目元をぬぐう。

「お前だって泣いてんじゃないか」

「うるさい………」


試合は終わった。両者の涙とともに。

結果は、どうなったのかはわからなかった。







なんか無理やりなまとめ方に………すいませんね、いろいろなことが度重なってありましたから。これで一応野球編?は終わりです。次からは、はっちゃけていきたいです。

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