1話―救部とは―
ああ、真っ暗だ。ここはどこだ?あたり一面が真っ暗。ただ純粋な黒。
え?純粋な黒ってどんな色?そりゃぁ……黒だろ。
ところで何で真っ暗?誰か電気つけてくれぃ。
もしかして俺の未来!?お先真っ暗ってやつですか!?いやいや、
俺には夢があるんだよ、美人でもなくていいから気の利く奥さんと
わんぱくな子供と一戸建てに住むって言う平凡な日常をだな、
思い続けているんだけど─────。といってもまだ俺は高校生だし、
遠い未来の話かもしれないけどな〜。高校生活も平凡に生きてみたいものだな。
非日常的なんて………。『ぉ………ろ』俺やっぱこの空間で生きます。
『き…………ろ!』ああ、引き戻されるぅ…………
「起きろ春っ!」
「んぁ………?」
目を開けるととそこは見慣れた部屋。
長机がいくつかと、パイプ椅子が5,6席……
まぁ、会議室を思い浮かべてくれればいいだろう。
「春、寝てないでさっさと行くぞ!」
彼女は腕を組みながらそういった。そう、俺の前で仁王立ち
しているのは霧谷 小冬、この部の部長である。
「え……と、どこ行くんでしたっけ?」
ようやく身体を起こし、小冬と向き合う。
「何を言っている、剣道部へ行くんだろうが。」
そういえばそんなことも言ってた気がする。
「とりあえずっ、行くぞ!愁兎はもう先に行ったぞ!」
そういってぐいぐいと袖を引っ張りながら進んでいく小冬。
「わわ、分かりましたから!ちょちょ、引っ張らないでください〜」
袖を引っ張られつつも廊下に出た。
コツ、コツコツ……
前を歩く小冬の姿整は美しいものだ。モデルのように歩いている。
背筋は伸びてるし、頭も動いていない。
長い黒髪が歩くたびにさらっ と揺れる。
彼女、霧谷小冬は、『救部』の部長である。ちなみに僕も救部所属である。
彼女は、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群といった神の子である。
こんな彼女は告白されっぱなし。きりっとした瞳がイイだとか、
スタイルが完璧なのだ、とかそんなこんなの理由で。
もちろん彼女は、全員振った。
「私を好きになる資格があるのは私を超えた者にしかない!」
とかいって。すいません。誰も超えられません。ハードル阿呆みたいに高いです。
でもそんなこと言えるのは、自分が完璧だと確信しているから。
確かに完璧なので誰も何もいえないのだが………
おっと話が脱線した。んで、何でこの部活を作ったかというと理由は、
面白いから、だそうです。
それ理由になってんの──────?と突っ込みを入れたかった。
なに考えてるか分からんよ。天才さんは、いや、天災さんか?
そういえばこんな長々とモノローグを語っている僕は、
鳴川 春希。みんなからは、春って呼ばれている。
それと─────。
「ついたぞ。」
いつまでも語り続けていたせいか、いつの間にか剣道場についていた。
「早いですね。いつのまに部活棟に入ってたんですか………
折角、僕が我が部の存在理由を説明しようと思っていたのに。」
「そんなものは私が説明する!」
ビシィッと人差し指を立てて決めポーズ。いいから早くしてください。
「説明しよう!『救部』とは!私、霧谷 小冬を部長とする全部員五人で
結成されている部だ!この部の存在理由はたった一つ!他の腐った部活を
鍛えなおすこと!腐った心を叩き直すことだっ!以上!」
はーはー、と肩で息をしている小冬部長。
「つまり部活を助ける部活ってところですよね?」
「そ、……そうだっ」
「部長、水飲みますか?水道ありますよここ。」
「い、いらんぅ……」
死に死にだが少ししたら元に戻るだろう?
「つうことは、今回はこの剣道部が……」
「そうだ。ここが相手だ。」
締め切られている剣道場の中からは、人の気配がしなかった……。