18話―対決:VS―
「ふっ………ついに対戦の日がきたか」
「そうですね。私は完膚なきまでに負かしてやることをお勧めします」
女子軍─────部長と水原は、かなりやる気だった。
場所は、武領学園グラウンド。
うちのグラウンドよりは狭いが、それでも立派な設備で、観客席も
用意されている。ちなみに大型得点版も。
流石は、甲子園常連出場校だ。力の入れ方が違う。
確かにこれならやる気が出るかもしれない。
その一方で、須川だけが微妙なテンションだった。
「どうした? 竜児。やけにやる気が無いように思えるんだけど……」
「ふん、気づいたかい? ハル君。そう! うちの学校にチアリーダーがいないのは
なんでなんだっ!」
「ええっ! それだけの理由でっ!? 目的が変わってるじゃん!」
「馬鹿だなぁ………ハル君。 チアリーダーあってこその野球なんだよ!」
野球の根源から間違えてますから、それ………。
まぁ、竜児は放っておいて、今日まで練習をつんできた士幸君はどんな感じだろう。
ざっとベンチを見渡すが、ベンチの上には士幸君は見えず、視界の端のほうに捉えた。
ベンチにも座らず正座し、目を閉じている。いわゆる黙想中。
そこだけが切り取られたかのように、江戸時代を連想させる。
ちなみに横には竹刀がおいてある。
「むう、これくらいでよかろう。ん? どうした、ハル殿」
殿って………。これは突っ込んでいいのか分からない。
「いやぁ、調子はどうかなと思って」
「ものすごくいいぞ。今日も朝から百人切りを行ってからきた」
何してんだこの人!
「心配する必要は無い。みねうちだ」
この人ボケ振ってるよね。突っ込み待ってるよね?
計算し尽くされたボケだよね!?
「それに、新しい打法も考えついた。 かーぶ、とか言う球も打てるだろう」
「そ、そうですか………」
グラウンドを見渡すと、相手チームのベンチに向かって歩いていく大智君の姿が見えた。
「久しぶりだな。灯山 翔」
「まだ野球をやっていたか、二千 大智」
灯山 翔。武領学園野球部部長。
普通の高校球児のはずなのに、威圧感というものが違う。
これが全国レベルの精神力というものなのか。
「君を負かすために練習を続けてきた。そしてやっと練習試合にまでこぎつけた……
今日は勝たせてもらうよ」
「ふん、お前のチームは食中毒で全滅だと聞いていたが……素人が入って勝てるのか」
「関係ないさ。僕の球は僕の後ろに飛ぶことなんてないんだから」
「その言葉、そっくりそのまま返そう」
そういって、背を向けた灯山に、声がかかった。
「お前が、武領学園野球部部長か」
それはついこの間依頼した部の─────部長、霧谷 小冬だった。
「だったら、なんだ?」
「今日、私たちは本気で勝負しにきている。お前たちも本気でこないと負けるぞ」
「ふ、分かっているよ。勝負だからな。勝ちに行く」
「私らは─────強いよ?」
「面白い」
シリアスな雰囲気の中、アナウンスが鳴り響いた。
≪ただいまより、練習試合を行います。両者は、グラウンドに整列してください≫
「始まったか」
「そうですね……霧谷さん」
挨拶が終わり、再びベンチに戻ってきていた。
「そこで、作戦なんだけど、打順はこの間決めたとおり。作戦も……話したよね」
大智君が真剣な眼差しで、ミーティングを始める。
気合が入っている。
僕達は先攻。1番バッターは水原だ。
「水原……大丈夫?」
「余裕です、先頭打者ホームランでもかまいませんよ」
「それだけ軽口がたたけるなら余裕だな、よし、行け! 水原!」
「オッケーです。部長」
試合が始まった。
「相手のピッチャーが………灯山じゃない?」
マウンドの上には、灯山の姿は無かった。
「なめられたものだな………本気で戦うといったはずなんだが」
部長が、目を細めながら言った。
「これは引きずり出すしかないっしょ! 俺がバカバカホームランを打ってさ!」
「馬鹿馬鹿の間違いじゃないか? 愁兎」
「馬鹿じゃねー!」
霧谷姉弟は緊張感がないなぁ………
「でもそのとおりだよね。引きずり出さないと………」
大智君は、こぶしを強く握り締めながら言った。
部長はそれをただ、眺めていた。
キィン!と快音が響いた。
グラウンドを見ると、球が飛んでいた。
だが、高すぎる。詰まったらしい。これじゃあただのフライだ。
「チッ、打ち損ねましたか」
あっけなくボールはピッチャーのグローブに納まり、アウトとなった。
ヘルメットをはずし、水原が帰ってきた。
「あのピッチャー。結構上手いです。 一筋縄ではいきませんね」
水原がほめるとしたら、よっぽどだ。
だけど、俺たちの目的はその人じゃない。灯山だ。
「次は僕だね。ゲームで鍛えた反射神経舐めるなよ!」
──三振!──
審判の野太い声が響いた。
まぁ、期待はしてなかったけどね。
ベンチは静まりかえっている。竜児にとっては地獄だろう、でもみんなはきっと
楽しんでる。たちが悪いよね。
「えーと、すいません。」
「次は僕かな。……がんばってくるよ」
「ハルならいける!がんばれ!」
「僕の存在……」
ヘルメットを着用し、バッターボックスに立つ。
こんなこと、高校生活の中で体験できるとは思っていなかった。
打てば大丈夫。あとは4番の愁兎がかっ飛ばしてくれる。
深呼吸して、バットを構える。
ピッチャーがモーションに入り、投げる。
風を切って進む白球は────速い。
「ストライク!」
エースじゃなくて、この強さ。
流石は、野球名門校だ。
そのあとも、バットを振るが、あたらずじまいで、結局三振だった。
「ハル。ナイスファイトだ」
「グッジョブですよ。鳴川 春希」
「僕のときとのえらい違い。あれぇ? おかしいな」
次は守備だ。大智君は、マウンドに立つ。
キャッチャーは愁兎だ。
「二千 大智。どれだけ成長したのか見せてもらおうか」
相手側のベンチには、不適に笑っている灯山がいた。