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17話―天国?―

「よーし、今日はここまでだ」

日が沈みかかったころ、部長が声を上げた。

グラウンドには無数のボールが転がっており、回収するのにも嫌気がさす。

何よりも……暑い。

馬鹿みたいに愁兎はボール集めるのにも走っているし、水原はそんなに運動する

タイプではないのだろう────ベンチにすでに座っていた。

そこで竜児といえば一塁で倒れたままだし、士幸くんは竹刀振ってるし。

これ、引き受けていいのか?

大きな不安を抱える中、大智君が駆け寄ってきた。

「ご苦労様、みんななかなかうまいね」

きらっと光る笑顔がまぶしかった。

流石は野球部部長だ。ぜんぜん息が切れていない。

まぁ、部長がパカパカ無差別に打ちまくってただけだからかもしれないが。

「そうですか? 僕とか……水原とかは大丈夫でしたか?」

「結構センスあるとは思うよ。守備、たいぶうまかったしね」

野球経験がなかったのにそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。

これもいつも馬鹿なことやってるおかげなのかもしれない。

「そういえば、練習試合の相手ってのはどこの高校なんですか?」

特に詳しいわけではないのだが、知っておいて損はないと思う。

いまや、スポーツもデータだからね。

「そーだね、確か………武領学園だったかなぁ?」

「へー、ってえぇ!? そこって甲子園常連出場校じゃん!」

そんなことぐらいは分かった。

新聞の高校の野球欄をいつものように占領している高校である。

主将の名前は確か………灯山とうやま かけるだった気がする。

全国模試のトップにも名前があった気がする。

完璧な人間なんて部長以外にはいないと思っていたけど案外近くにいたものだ。

「そうなんだよ。だから食中毒だって理由で断りたくなかったんだよね。

 折角、相手方も時間を取ってくれてるんだから失礼の無いようにしなくちゃ」

「いや、部員じゃない僕達が出てる時点で失礼だと思うんだけど………」

というか本当にそうだろう、あっちからしてみれば馬鹿にされているような気分だろう。

まぁ、そうならないために練習してるんだけどね。

「じゃ、今日はもう解散でいいかな? 救部の部長さんもそう言ってるし」

「いいんじゃないですかね」

片付けが終わった愁兎がこちらに走り寄ってくる。

「みんな汗かいたんだからさ、風呂研究会いってシャワーでも浴びてこないか?」

「いつもと違ってまともな発言するね、愁兎。いいんじゃないかな?」

「なにおう! 俺だって普通のことぐらい言うわい!」

部長や水原も同意し、みんなで行くこととなった。








「で、まじめなことの裏にはこんなことがあったのか」

まるで銭湯のような大きな風呂だった。

壁には大きく富士山が描かれ、もはや銭湯としか言いようが無い。

そこはいい、そこはいいんだ。

邪悪なのはこいつらの心だった!

「へへへ……風呂といったらのぞき……それしかないだろう!」

「ふっ、分かっているじゃないか愁兎君……」

いつもにまして普通のこと言うと思ったらこれが目的かよ!

確かに上はつながってるけどさ!

「あ、あの……いつもこんな感じなのかな?」

大智君が恐る恐る聞いてきた。

「そうだね……もう疲れてきたから放っておこうかな……」

「いやいやいや! これは流石にまずくない!? ほら!あの二人、桶とかイスとか組み立ててるし!」

「行動速っ! 」

瞬く間に階段が出来上がっていく。こいつらは阿呆な事になると行動力が上がるからね。

というか竜児は食中毒でさっきまで倒れてなかったっけ?

「もうすぐで天国への扉ヘヴンズ・ゲートがひらくっ!」

「ふはははっ! 姉貴のBodyを久しぶりにっ!」

こいつらあほだ!

「いや! いいかげんにやめとけって! これは殺される気がする!」


そういった僕に、2人は声をそろえてこう言ったんだ。


────男には、死ぬと分かっていてもやらなければならない時があるんだ────


「ぜんぜんかっこよくねぇぇぇぇぇぇぇ!」

今までで一番大きな突込みだったかもしれない。

「「おおおおおおおおおっ!」」


ゴガシャーン!


階段(天国への扉?)が一気に崩れ去った。

まぁ、……確かにあんなに積み上げてたら崩れるでしょ、普通。

しかも2人いっぺんに上ろうとするし。

「な、なんだと………俺達の努力は……無駄だったのか!」

「そんなことは無い! ラ○ュタは何度でもよみがえるんだ!」

おい、こいつらやばいだろ。

そして再び組み立てる。

急いでいたため、バランスが目に見えるほどに悪い。

「俺が行くぅ!」

愁兎が先陣切って走り出す。

「ウッ○ィ大尉! 無理です!」

「くそぉぉぉ!」


ドゴーン!


いや、別にコ○・ファ○ターが吹き飛んだわけじゃないからね。

「もうやめればいいのに……」

呆れた目で大智君が2人を見ていた。

「というか、コ○・ファ○ターじゃなくね?」

「今回無駄に『○』が多いよね」




「くそぅ……もう一度だ、もう一度!」

「その息だ! 愁兎、俺達はいける!俺は、俺を桶を集める!おおおおおお、今こそこの力

 を使うべし! 竜児ゾーン!」

「な、なに! 竜児に桶が引き寄せられていく!?」

どんな無駄能力持ってんだこいつ!

「っていうか、野球のとき使ってほしいよね」

大智君の冷静な突っ込みが入った。








結局、壁の向こう側を見ることが出来なかった2人を連れて、外に出た。


「何でこの2人はこんなにテンションが低いんだ……?」

部長が少し濡れた髪をいじりつつ、そう言った。

「まぁ、試練にぶつかって大変だったんですよ……そっとしておいてあげてください」

「どうせ、馬鹿お二人さんはのぞきでもしようとしていた口でしょう。

 まったく馬鹿ですね………。まぁ、のぞいたところで待っているのは地獄だった

 でしょうけど」

カバンから怪しげな金属音を響かせながら水原は言った。


「そんじゃ、明日からも練習がんばるぞー!」


部長の掛け声に、乗り切れてない2人がいた。















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