16話―五月雨―
時は6月ごろ………梅雨のこの時期は、じめじめしていて好きじゃない。
天気が悪いのがいやなのかといったらそういうことでもない。
だって別に外に出るわけじゃないし。
湿度の問題だ。というか、食中毒の話だ。
腹の痛みってものは、一番ヤな痛みだと俺は思っている。
内側からくるんだし………。
そんなことで、食中毒について恨めしく思っている俺であった。
「って……俺の中のモノローグを作ってたんだけど……」
愁兎が依頼を持ってきているのであった。
もちろん部長はうれしそう。
「いーじゃん! この依頼っ! 野球部の練習試合に出れるんだぜ!」
まぁ、愁兎のテンションが高いのは、運動馬鹿だからなんだけど……
それにしたって内容が……ね。
「ということで! 我が救部は野球部を助けるぞ」
部長もやる気だった。
「とはいえ、食中毒で野球部全滅ってどうなんですか? その腹筋は節穴かと問いたいです」
水原がつめたーく言い放つのだが、腹筋は節穴ってどういう意味?
まとめると、結局は野球部が食中毒になりほぼ全滅。
残ったのは部長とその他2名のみ。
そこで俺たちに依頼をしてきた、というところである。
大体今思ったけど、人数足りなくないですか?
「さて、とりあえず野球部の部室に行こう! というか練習だ! 雨の降ってない今のうちにな!」
部長がバットを掲げ、グラウンドを指差す。
って言うかなんでバット持ってるわけ?
すでにやる気満々オーラが満ち溢れている部長であった。
「おっす! きたぞー!」
愁兎が勢いよく扉を開ける。
中には白球やらバットやらグローブが放置されていた。
中央にはベンチが置いてあり、その周りがロッカーで囲まれているといった形だ。
一般的………なのだろう。
そのベンチには、3人の部員が座っていた。
「やぁ、来てくれたんだね」
その中の一人──────部長と思わしき人物が立ち上がって言った。
「とりあえず、紹介。コイツは野球部部長の 二千 大智だ」
愁兎は、よく野球部の助っ人に行っているからなのか、知り合いのようだった。
「私は救部部長の 霧谷 小冬だ。 まぁ、今回は依頼してくれてありがとう! とても
面白そうだ!」
うわぁ………不謹慎だ。
「とりあえず、練習しにきた! 二千君はピッチャーか?」
「そうだけど……僕が投げるの?」
「ははっ! 当たり前だ! なぜなら………その方が燃えるだろう!」
「え? ………そうなのか?」
野球部部長と救部部長が意味不明な会話を繰り出している中、俺は言い出すべきか迷っていた。
「鳴川 春希? どうかしましたか?」
いつの間にか水原が隣にいた。
「いやぁ………人数足りなくない?って言い出すべきか……ほら、あんなに盛り上がっているし」
祭りでもあったかのような騒ぎようだ。
というか霧谷兄弟がテンション高いんです!
「ま、場の空気を凍らせるのは私の役目では?」
そういって部長のほうに向かっていった。
というかそんな役回りが存在していたのか?
「人数が足りてないのはわかっていますか? 中毒野球部部長さん」
「中毒って……それは言葉の暴力。 って1、2、………8っええええ!」
いや、そんなに驚くところか?ここ。
「どーすんの!? 足りないジャン! 戦えないジャン!」
「あれ、急激なキャラ変更が行われている……?」
取り乱す野球部部長。それに対し突っ込むはこの俺だった。
「あーああ、そこはちゃんと考えてあるのさ」
部長が得意げな顔で笑っている。
何故かかっこよく見えるそれはなんだ?
「もうすぐ来るだろう」
そんな部長の声が聞こえたと同時に────部室のドアが開いた。
「みんな久しぶりだな。 この間は世話になったな」
ジャージの上下(学校指定のものじゃない)、腰にはなぜか竹刀。
その部分だけがタイムスリップしたかのように思わせるそいつは─────
─────長武 士幸だった。
「よっしゃー! ばっちこーい」
愁兎はグローブをきっちりとはめて、もう守備位置についている。
水原は右手にグローブをつけていた。どうやら左利きなのだろう。
そういえば竜児の存在感が先ほどからまったくないような気がする……
「は、はらいてぇ………」
今にもぶっ倒れそうな顔で、守備位置についていた。
ああ、だから静かだったんだ。
というかコイツも食中毒なんじゃねぇのか?
いや、だろうな。
「ふむ……野球などやったことがないな。 何をすればいいんだ?」
士幸くんはまずルールから覚えてもらおう………
「いくぞー」
部長がノックを始めた。
というか球打つんじゃなかったんかぃ!
ギィン! キィン! と爽快な音がグラウンドに響く。
高いボール、バウンドしてくるボール、時々ライナー。
それらをキャッチしていく。
別段、俺は運動オンチでもないが、そんなにうまいわけでもない。
言うならば中途半端だった。
「須川!行ったぞ!」
ライナーが竜児のもとへと飛んでいく。
そしてそのまま─────突き刺さった。
「ちょ……ぶちょぉぉぉ……」
そのまま崩れ去った。
何かと不安が残る野球の練習だった。