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13話―ダッシュ。唐突。―

俺は校門の前まで走ってきていた。

「はぁ、はぁ、………何してんだ俺は」

さきほどは、びっくりして走り出してしまったが、よくよく考えると

どうせいつもの部長の遊びなんだと理解できた。

いや、でも実際いきなり目にしたら驚くよなぁ……

竜児とかは素で喜びそうなんだけどな。


ふと、そのとき校門の外に白い大きな車が止まっているのが見えた。


「……? 学校に誰か来てんのかな?」

誰かが訪問してくるなんてことは誰も言ってなかった気がする。

その白い車は、外車だろう。いかにも高級そうだ。

金持ちの人が送り迎えをする際に使うようなものだ。

今にも執事が運転席から出てきそうな感じがする。

「とりあえず………もう一回部室に戻ろうか」

そう思い、野球部の張り上げる声を耳にしながら学校へと足を向けた。








コイツ笑わねーな。

生きてて楽しいことあんのか?

おまえ、ほんとに人間かよ。


周りから聞こえるのは自分を中傷する声。

どういう意味なのかは分かっていたし、それに対して抱く感情も分かっていた。

でも、私はそれがどんな感情なのかは分からなかった。

頭で理解していても、その感情が自分にわいてこないということだ。

理解は出来るのに、感じることは出来ない。

意味が分からなかった。

では今の自分の感情はなんだ?

憎しみとも違う、悲しみでもない、喜びでもないだろう。

“無”なのか。

大体、感情なんてものは最初から持ちあわせていないのかもしれない。

感情表現できるのが人間なら、私は何?

分からない。分かりたくも無い。

感情、それって何?

こんなにも私をぶれさせるものなの?

いや、心なんて無いのだからぶれることなんて無いんだ。

そんなことは─────無いんだ。



「みぃーなーはーら?」

ぶんぶんと視界を往復するものがある。

部長の手だった。

「またぼーっとしてんな。どうしたんだ?」

「いえ、………疲れているのかもしれません」

あんなものは過ぎ去った過去だ。今更気にすることなんてない。

本当に疲れているのだ。きっとそうなんだ。

「ま、今週ももう終るからな、無理しない方がいいぞ」

今日は木曜日、明後日からは休みなのだ。

それを水原は複雑な気分だった。

普通の学生なら、やったーやすみだぁー などといった喜び溢れる感情

をさらけ出すはずなのに。

私は良く分からなかった。

「今日って学校にお偉いさんとか来てるのか?」

ワサビ地獄から復活した須川が、窓の外を眺めながら素っ頓狂な声を上げた。

救部の部室の窓から見えるのはグラウンド。そのすぐ横に校門が

あるわけだから、車を見つけたのかもしれない。

もしかしたら学校の敷地内の駐車場だったかもしれない。

「えー? そんな話は聞いてなかった気がするんだがな?」

部長が首をかしげ、眉をひそめる。

「まぁ、別にいいんじゃないですかね。僕的には関係ないと思いますよ」

「そうだな。校長に用でもあるんだろう」

「…………ですね」

ガチャリ、と扉の開く音がした。

入ってきたのは鳴川 春希だった。

「え、えーと………こんちわ」

よく分からないぎこちない挨拶をして、部室に入ってくる。

おそらくさっきの部長と私のまぁ……アレから引きずっているんではないだろうか。





ようやく気を取り直し、話を振ってみることにする。

何で俺はぎこちなかったのだろう。

そんなのいつもの部長のことじゃないか。

「それはね………君の心の中に百合大好き! が生まれたからだよ」

囁く声、竜児だった。

「てめえと一緒にすんなっ! てかお前いつの間に来てたんだよ」

「えーと?水原と部長が抱きあってたときからかな?」

ああ、やっぱりあの空気でもお前は馬鹿なのか。

確かに喜んでいたらしい。

「そういえば部長、依頼は来てましたか?」

「んぁ? ………来てたら遊んでないわっ!」

怒られたっ!? 一体どうしたいんだ今日の部長は。

「そういえば愁兎がまだ来てないね」

「そうだな。大方まだ居残りだろう、………まったく」

前髪をかき上げながらため息をつく部長。

艶やかな髪が指の先からこぼれていく。

「部長! なんかナイスです! 僕に写真を一枚っ!」

竜児がデジカメを構えていた。

メモリーの中身はどうせろくなものが詰まっていない。

っていうか、お前が持っているその袋はなんだ?

目を凝らしてみてみると、まぁ………袋が透けるわけでもなく。

どうせいつものくだらないものだろうという結論に至った。

ガチャリ、と再びドアの開く音。

愁兎が来たのであろう。その考えは間違ってはいなかった。

だが、もう1人見慣れぬ人がついてきていた。

「うぃっす………えと、……」

何かを言いたげに口をもごもごさせながら、小さい歩みで

部室内に入ってくる。

「ん? 後ろのお方は誰だ?」

部長がいち早く気付いて愁兎に訊いた。

「えーと……なんかよくわかんないけどついてきた」

その人も部室内に入ってくる。

性別は男。背丈は愁兎より高く、180以上はあると思われる。

年は25歳前後だろう、黒いスーツで身を固め、整った顔立ちをしている。

髪は黒のオールバック。ムースを使って固めているらしい。

「っ!!!………」

水原が声にならない声を上げた。

それから一歩後ずさる。

「おや、ここにおられましたか。闇音嬢」

男は静かな声で言った。だが今の部室内では響くくらいだった。

「さて、何故私が来たか、という本題は歩きながらしましょう。

 表に車を止めてありますので、……行きましょう」


男ははっきりと、そういった。















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