9話―眼鏡×3―
部員5人は、メイDO部の部室前で立ち止まっていた。
「明らかに痛いな……」
そうつぶやいたのは部長。そうだろう、確かに痛い。
部室のドアには、パソコンで印刷されたであろうプリントが貼られている。
メイドキャラ+の部員求む! と書かれたプリントが。
間違いなくろくでもない部活だとは分かっていた。
正直この部室に入る勇気が無い。
「竜児様のお通りだ!」
そういってドアを開ける須川竜児。今回だけは主役並だ。
『お帰りなさいませ、ご主人様ー!』
といわれるのかと思いきや、言葉一つ返ってこない。
次の瞬間そのわけが分かった。
部室に中には、男だけが3人。部員なのであろう。
右からパーマに眼鏡、おかっぱに眼鏡、長髪に眼鏡だった。
なんというか……類は友を呼ぶ状態。
って、そんなことを言っているわけではなくて、女子率0パーセント。
そんな中で『ご主人様ー!』なんて返ってくるわけが無い。
返ってきたらそれでもうなんか問題だ。
「りゅ、竜児様!」
「我らが救世主!」
「神!」
三人が、目に色を取り戻して竜児を見る。
一方、竜児は満足げだ。
「気持ち悪いですね。何の宗教団体ですか……」
水原もちょっと引きながらの毒舌。
普通はそうなるだろうね。
「イヤだ!ここから一刻も早く立ち去りたいっ!」
部長が叫んだ。確かに部室内にはポスターが所狭しと貼ってある。
………メイド限定で。
「ふふふ、部長。逃げられませんよ。今からこれに着替えてもらいますからね。」
竜児が持っているのはとある服。この服はっ……
「姉貴!これだ、これしかないぞ! さぁ、水原もっ!」
水原は、珍しそうにそれを受け取って見つめている。
あれ?水原?ここは毒ついて燃やしたりするところじゃないのか!?
「んなもん着れるか! 流石に救部の存在理由のためでも無理だっ!」
部長が叫んでいる。ああ、イヤだろうなぁ……それは。
俺は、男でよかったと本気で思った。
「さぁ、部長!水原! さっさとメイドに進化しろ!」
「ふざけんなっ!進化できるかっ!いや、むしろ退化してる感じだわ!」
口論はまだ続く………
ふと、水原の姿が無いのに気がついた。
まさかっ……ってそんなわけないと思うが……
そう、トイレだ。多分そうだ。女性は、そういうこと言わないからな。
いつの間にか行ったのだろう、気にすることは無い。
と思っていたのに。
「おおっ!」
「これはっ!」
「し、写真を撮れっ!」
いつの間にか全身メイドさんになった水原がそこに立っていた。
「ふははー、毒舌メイドに酔いしれるがよいわー」
無表情、そして棒読みでそう言った。
「何が起きているっ!これは夢だ!」
「水原っ!ついいに覚醒か!」
姉弟そろって、違うリアクションをしている。
なんなんだこれは……
「写真は1枚1万円取りますよ。」
「「「十分です!」」」
眼鏡3人が言った。
割に合わなさ過ぎるような気もするが……水原?
「だ、誰が着ようと私は着ないからなっ! こんな恥ずかしいもの!」
そういってメイド服をつき返す部長。
男としては見てみたいものだが………そうあることで何か危険な感じがする。
その………なんだ? 部活の崩壊って言うか。
「って! ちょっと待て!そもそも依頼の内容はなんなの!?」
ジト目で竜児がこちらを睨みつける。
「なにその コイツ空気読めないな 見たいな目は!?」
「そ、そうだっ! ハルの言う通りだぞ!」
部長が賛同してくれる。
「そうだな……それを言っておくのを忘れていた。つい水原に夢中になってな。
依頼の内容というのは、まぁ、見てのとおりこの部活には女子率0パーセント、
しかもメイド部といった部活。流石に校長や先生方からどうかという声が届いているんだ。」
得意げに依頼を告げる。
何か物凄くむかつくのは俺だけか?いや、部長もそう思っているようだ。
目が合った。そしてうなずいた。
「そこでだ!この部活に女子を引き入れるために、勧誘活動を手伝ってくれというものなのだ!
もちろんコスプレしてだぞ!? んで部活入ってない女子限定で。」
「やっぱ着るのかよっ!」
部長が叫んだ。
「着るんです!」
「似合いますよ!」
「そうですよ!さらに可愛くなりますよ!」
眼鏡3人の物言い。
そんなもの聞く気になれないけどなぁ………
「姉貴。」
愁兎が姉である小冬部長の肩をつかんでいた。
「俺はな、………メイド服着た姉貴の方が……好きだぜ。」
キラッ! と白い歯が光った気がした。
「糞気持ち悪いわっ!」
ボディーブローをまともに受け、むせながら地面を転がる。
「げほぁ!な………なんで……」
「まさかシスコンだったなんて驚きですね。」
いつの間にか制服姿に戻っている水原がそういった。
「つうかいつの間に着替えた!?」
「さっきの間です。あ、もしかしてそのままのほうがよかったですか?
鳴川 春希はメイド好きだったんですか……」
「とりあえずその勝手な想像やめようか!」
「まぁ、いいです。今日だけで儲かりましたからね……」
あ、金とってたんだ。
「はいはい!そんなことより!部員集め……やるよ!」
竜児が仕切り直す。
「私は絶対やらん!」
「そうですね……私も稼げたのでもういいです。」
「俺も目ぇ覚めたわ。メイドってそんなによくねぇな。やっぱ普通の姉貴が好きだわ。」
「だから気持ち悪い!」
みんなが次々と辞退する中、竜児が慌て出した。
「え?マジで!?みんなやらないの!?愁兎!お前さっきまで……」
「いや、だから目覚めたって。」
「え?は、ハル君はやるよね!?」
「何で俺がやらないといけないんだよ……」
そのまま竜児は固まる。
「ま、やるんなら須川がやればいい。とりあえず部長命令で。」
いつもの調子が出てきたようだ。さっきまでの仕返しに見える。
「え、ええーーーー!」
「さ、みんな帰るぞ。」
一同は引き返していく。
「マジでか?まじでかぁぁぁぁあ!」
「竜児様ー!」
「どうか我らを救ってくだされ!」
「神!おーせのとおりに!」
眼鏡3人が竜児にすがり付いていた。
「やめろっ!離せ!俺は神じゃない!いや、すいませんやめてくださいぃぃぃぃ!」
そんな声が廊下に響き渡った。
ちなみにその3日後、その部活動はつぶれたそうだ。
理由は女子を見つけたはいいが、あまりにも似合わなさすぎて、部員が萎えたのだという。
その女子がどんな奴だったかは知りたくも無い……
可愛い子に着せたら『最強』。
そういう子に着せたら『最狂』となるメイド服であった。
なかなか奥が深い……そう考えさせられる依頼だった。
「ふははー、どうですかこの毒舌メイドはー!」
「ってか水原!そんなもんどこから持ってきた!? つうか着るな!」