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淡々史記  作者: ンバ
第七、項羽本紀
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十七、鴻門の会前夜

17.

楚左尹項伯者,項羽季父也,素善留侯張良。張良是時從沛公,項伯乃夜馳之沛公軍,私見張良,具告以事,欲呼張良與俱去。曰:「毋從俱死也。」張良曰:「臣為韓王送沛公,沛公今事有急,亡去不義,不可不語。」良乃入,具告沛公。沛公大驚,曰:「為之柰何?」張良曰:「誰為大王為此計者?」曰:「鯫生說我曰『距關,毋內諸侯,秦地可盡王也』。故聽之。」良曰:「料大王士卒足以當項王乎?」沛公默然,曰:「固不如也,且為之柰何?」張良曰:「請往謂項伯,言沛公不敢背項王也。」沛公曰:「君安與項伯有故?」張良曰:「秦時與臣游,項伯殺人,臣活之。今事有急,故幸來告良。」沛公曰「孰與君少長?」良曰:「長於臣。」沛公曰「君為我呼入,吾得兄事之。」張良出,要項伯。項伯即入見沛公。沛公奉巵酒為壽,約為婚姻,曰:「吾入關,秋豪不敢有所近,籍吏民,封府庫,而待將軍。所以遣將守關者,備他盜之出入與非常也。日夜望將軍至,豈敢反乎!願伯具言臣之不敢倍德也。」項伯許諾。謂沛公曰:「旦日不可不蚤自來謝項王。」沛公曰:「諾。」於是項伯復夜去,至軍中,具以沛公言報項王。因言曰:「沛公不先破關中,公豈敢入乎?今人有大功而擊之,不義也,不如因善遇之。」項王許諾。


(訳)

楚の左尹《さいん》の項伯《こうはく》は

項羽の季父(年少の叔父)であり、

もとより留《りゅう》侯の張良《ちょうりょう》と親善であった。


張良はこの時沛公に従っており、

項伯はそこで夜間に

沛公の軍中まで馳せ行き、

私的に張良に見えると、具《つぶさ》に事情を告げた。

(項羽が劉邦を殺そうとしている事を告げた)


項伯は、張良を呼んで

倶《とも》に逃げるつもりであり、


「(沛公に)従って、

倶に死ぬことなどないぞ」


と言った。


張良は言った。


「臣は、韓王《かんおう》の為に

沛公を(咸陽《かんよう》まで)送ってきたが、

沛公が今危急に陥っているのに

逃げ去るのは不義というもの。


(項羽に狙われているという事を)

語らぬわけにはゆかん」


張良はそこで(幕舎へ)入り、

具に沛公に報告した。


沛公は大層驚き、こう言った。


「どうすればいいんだ!?」


張良は言った。


「誰が大王(劉邦)の為に、

函谷関《かんこくかん》を守るという

計略を立てたのですか?」


沛公は言った。


「鯫生《せんせい》が我に言ったのだ。


『函谷関を拒《ふせ》げば、諸侯は

内に入ってくる事は出来ませんから

秦の領地は盡く王のものとなります』


……と。だから、聴き入れた」


張良は言った。


「大王の士卒を科《はか》りますに、

項王と当たるに足りますかな?」


沛公は黙然としたのち、言った。


「どだい、敵わないな。

どうしたらいいだろう?」


張良は言った。


「項伯のもとへ往き、

沛公は項王に背くつもりなど

ないという事をお伝えしましょう」


沛公は言った。


「君は項伯と縁故があったのか?」


張良は言った。


「秦の時代に、臣は

項伯とともに遊歴いたしまして、

項伯が人を殺した時に、臣は彼

を活かして(助けて)やったのです。


今、事態が危急を告げたために

幸いにも彼がやってきて

良《わたし》に報告してくれたのですよ」


沛公は言った。


「君と項伯とでは、孰《いず》れが年長なのだ?」


張良は言った。


「(項伯の方が)臣よりも年長であります」


沛公は言った。


「君には、我の為に彼を呼び入れて欲しい。

吾は彼に兄事しようと思う」


張良は退出し、

項伯に(劉邦と会うように)要請した。

項伯は即座に入りて沛公と見えた。


沛公は巵《さかずき》を奉じて

(項伯の)長寿の酒宴を催し、

※婚姻の約束をして、言った。


(※本人同士ではない)


「吾は関に入ってから、秋毫《しゅうごう》(少し)も

(財物を)近付けようとせず、

吏民に戸籍を設け、府庫に封をして

将軍(項羽)を待っていたのです。


将を遣って関を守らせたのは、

盗賊その他の出入りや

非常事態に備えるためでありまして、

日夜将軍の到着を待ち望みながら

どうして反逆などいたしましょう!?


どうか項伯どのには、

臣が恩徳に倍《そむ》こうとは

しておらぬことを、

具に告げていただきたい」


項伯は許諾し、沛公に言った。


「旦日(翌日の朝)、

蚤《つと》に自ら来たりて

項王に陳謝すべきでしょうな」


沛公は「わかりました」と言った。


こうして項伯は復た夜中に去っていき、

軍中に至ると、具に

沛公の言葉を項王に報せた。


「沛公が先に関中を破らずして

公がどうして入関できたでしょう?


今、大功の有る人物を攻撃するのは

不義理というもの。

厚遇するに越した事はございませぬ」


項王は(劉邦との会見を)許諾した。


(註釈)

秦に滅ぼされた六国の一、

韓の出身である張良、字は子房。

劉邦の参謀というと、

最初に浮かぶのは彼ではないでしょうか。


韓は秦と最寄りだったために

天下統一の戦が興ると

真っ先に滅ぼされてしまいました。


亡国の復讐を誓った張良は

全財産をはたいて勇士を募り、

弟の葬式費用も出さないほど

徹底していました。


始皇帝の巡行を狙って

討ち入りを決行するも失敗し、

張良は名前を変えて徐州の

下邳のあたりに隠遁していたとか。


その間に黄石公の逸話があるのですが

そこについてはまた後でじっくり触れます。


諸侯による反秦運動が活発になると

張良は劉邦の傘下に入ります。

張良の説く戦略に対して

諸侯がそっぽを向く中、

劉邦だけが好意的な反応を示したために

キュンときてしまったそうで。

早速劉邦の人誑しが炸裂しています。


項梁らが楚王の後胤を立てると、

張良も祖国の韓を復興せんとして

韓王を立てました。


よって、張良は韓王に仕える身なれど

気の合う劉邦に従軍しているという

よくわからない状態になっています。


張良は項羽の叔父の項伯と

旧交があったらしく、

項羽が劉邦を殺そうとしている事を知るや

項伯は張良の身を案じて

事態の危急を報せに現れます。


項羽に狙われてる事を知った劉邦は

ドラえもんに頼るのび太と化します。


項伯と話し合った結果、

項羽に直接詫びを入れに行く形で

話はまとまったものの……

相手は項羽と范増です。

無事に済むわけがない!


次回、鴻門の会です。


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