荊軻 十四、秦王暗殺(後編)
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未至身,秦王驚,自引而起,袖絕。拔劍,劍長,操其室。時惶急,劍堅,故不可立拔。荊軻逐秦王,秦王環柱而走。群臣皆愕,卒起不意,盡失其度。而秦法,群臣侍殿上者不得持尺寸之兵;諸郎中執兵皆陳殿下,非有詔召不得上。方急時,不及召下兵,以故荊軻乃逐秦王。而卒惶急,無以擊軻,而以手共搏之。是時侍醫夏無且以其所奉藥囊提荊軻也。秦王方環柱走,卒惶急,不知所為,左右乃曰:「王負劍!」負劍,遂拔以擊荊軻,斷其左股。荊軻廢,乃引其匕首以擿秦王,不中,中桐柱。秦王復擊軻,軻被八創。軻自知事不就,倚柱而笑,箕踞以罵曰:「事所以不成者,以欲生劫之,必得約契以報太子也。」於是左右既前殺軻,秦王不怡者良久。已而論功,賞群臣及當坐者各有差,而賜夏無且黃金二百溢,曰:「無且愛我,乃以藥囊提荊軻也。」
(訳)
(刃は)身体まで至っておらず、
秦王は驚いて自ら引き下がり
起ち上がった際に
(荊軻の掴んでいた)袖が破れた。
秦王は剣を抜こうとしたが
剣が長かったために、
その室(鞘)を手に取った。
この時秦王は惶急(驚き慌てる)しており、
剣が堅(縦)になっていたために
立ちどころに抜剣出来ずにいた。
荊軻が秦王を逐うと、
秦王は柱を回って逃げた。
群臣はみな驚愕して
すぐさま起ち上がれず、
盡くが度を失ってしまっていた。
秦の法律では、群臣が昇殿する際には
尺寸の武器すら
持つ事を許されておらず、
諸郎中は武器を手に執って
みな殿の下に並んではいたものの、
詔によって召されなければ
上ることができなかった。
緊急時にあたって、秦王は
殿の下の兵を召す事に考えが及ばず、
故に荊軻は秦王を逐い回す事が出来た。
(群臣は)突然の出来事に惶急して
荊軻を撃つものもなくして
誰もが素手で荊軻に搏ちかかっていった。
この時、侍医の夏無且が
手にしていた薬囊を荊軻に投げつけた。
秦王はまさに柱を巡って逃げている最中で
俄かに巻き起こった事態に慌てふためき
どうしていいかわからずにいた。
左右の者がそこで
「王よ、剣を背負われませ!!」
と言ったので、秦王は剣を背負い、
とうとう抜剣して荊軻を撃ち、
その左腿を断ち切った。
倒れた荊軻は、そこで
匕首を引いて秦王に投げつけたが、
王には命中せず、桐柱に中った。
秦王は再度荊軻を撃ち、
荊軻は八箇所に創を被った。
荊軻は自ずと事は成就しないと悟り、
柱に寄りかかって笑い出すと、
箕踞(両足を前に出して)しながら
秦王を罵倒して言った。
「事が成らなかったのは、
秦王を生かして劫かし
必ずや(領国を燕に返還するという)
契約を得て、太子に報告せんと考えたためだ!」
ここにおいて左右の者が進み出て
荊軻を殺したが、
秦王はややひさしく不機嫌であった。
論功行賞がおこなわれ、
群臣及び罪に当たる者にはそれぞれ
差を付けて賞罰が与えられた。
夏無且は黄金二百溢を賜り、
「無且は我を愛し、かくて
藥囊を荊軻に投げつけたものである」
と称された。
(註釈)
いやいやいや、主君が今まさに
命の危機に晒されているのに
何黙って見とるねん!?
秦の群臣は、白か黒かでモノを見る嬴政の
顔色を窺っているような者ばかり。
「武器を持ったまま昇殿はNG。
どんな些細な武器でもな!」
という法律があるために、
毒入りナイフ持ってる下手人に
みんな素手で挑み掛かるという
シュールな絵面に……。
トップが完全なる独裁者型なので
下が指示待ち人間ばっかりになってて
こういう緊急時に動けないんだなぁ。
逃げる嬴政に追う荊軻、
柱を介してグールグル。
さすがの嬴政も突然の出来事すぎて
パニック状態になってしまい
ただ右往左往するばかり。
「そうだ、薬箱なら武器じゃないから
使っても大丈夫だろ!」
という結論に至った(?)夏無且が
咄嗟に薬箱を荊軻にぶん投げたため
どうにか事無きを得た嬴政でしたが、
当然、内心穏やかではいられません。
秦舞陽には一行も触れられてませんが
何もできずにやられちゃったのかなぁ。




