曹沫 二、自若たる壮士
2.
齊桓公許與魯會于柯而盟。桓公與莊公既盟於壇上,曹沫執匕首劫齊桓公,桓公左右莫敢動,而問曰:「子將何欲?」曹沫曰:「齊彊魯弱,而大國侵魯亦甚矣。今魯城壞即壓齊境,君其圖之。」桓公乃許盡歸魯之侵地。既已言,曹沫投其匕首,下壇,北面就群臣之位,顏色不變,辭令如故。桓公怒,欲倍其約。管仲曰:「不可。夫貪小利以自快,棄信於諸侯,失天下之援,不如與之。」於是桓公乃遂割魯侵地,曹沫三戰所亡地盡復予魯。
其後百六十有七年而吳有專諸之事。
(訳)
斉の桓公は柯に於いて魯と会同し、
盟約を結ぶこと
(遂の地を差し出す条件で和睦)
を約束した。
桓公と荘公が
壇上にて盟を交わしていると
曹沫は匕首を手に執って桓公を劫かした。
(主君が刃物に晒されたとあっては)
桓公の側近も思い切って
動くことができず、曹沫に問うた。
「子は、何をするつもりなのだ!?」
曹沫は言った。
「斉は強く、魯は弱い。しかして
大国が魯を侵す事はやはり甚だしい。
今や魯の城(都)は壊され、
斉の境域に圧迫されている。
君(桓公)には、この事を
考えていただきたいものだ」
桓公はそこで、魯から奪った土地の
悉くを返還する事を約束した。
その言葉を聞くと、曹沫は
匕首を投げ捨てて壇を下り、
北面して群臣の位(席)に就いたが、
顔色は変わる事なく
辞令(言葉遣い)も普段の通りであった。
(帰国したのち)
桓公が怒って約束を違えようとすると
管仲が言った。
「それはなりませんぞ。
そもそも小利を貪りて
自らを喜ばせようとすれば
諸侯からの信用を棄て、
天下の援護を失する事となります
(脅迫されて結んだ盟約にしろ
反故にしては天下の信を失う)。
今は、この盟約を共にしておくに
越したことはございませぬ」
そうして桓公は
遂に魯から奪った土地を割譲し、
曹沫が三度戦って失った地は全て
元どおりに魯の領地となった。
それから167年後、
呉で専諸の事件が起こったのである。
(註釈)
曹沫の桓公脅迫事件は
紀元前681年の出来事です。
しかし……スゲー度胸!!
匕首一本で魯の領地を
奪い返してしまいました。
曹沫にしてみれば、自分の責任で
失った国土を、なんとしてでも
取り戻そうと考えたのでしょう。
このファインプレーで
死にかけの魯は息を吹き返します。
その場では渋々要求を飲んだものの
後から怒りが湧いてきた桓公は
再度魯へと攻め入り
曹沫を討ち取ろうとしました、が
管仲が「諸公からそっぽ向かれるよ」と制止。
桓公は振り下ろさんとした拳を収め
「ちゃんと約束は守る人」として
周囲から信頼を置かれるようになりました。
桓公もさすがですね。
そして167年後の
紀元前515年頃、
伍子胥や孔子が生きていた時代に移ります。
孔子が著した史書に
「春秋」というものがあり、
これに因んで春秋時代と呼ばれます。
区分は大体、周が遷都してから
滅びるまでが「春秋時代」
そこから秦の天下統一までが
「戦国時代」に当たります。
総称が「春秋戦国時代」となります。




