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淡々史記  作者: ンバ
第八十六 刺客列伝
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豫讓 三、国士として報いる

9.

既去,頃之,襄子當出,豫讓伏於所當過之橋下。襄子至橋,馬驚,襄子曰:「此必是豫讓也。」使人問之,果豫讓也。於是襄子乃數豫讓曰:「子不嘗事范、中行氏乎?智伯盡滅之,而子不為報讎,而反委質臣於智伯。智伯亦已死矣,而子獨何以為之報讎之深也?」豫讓曰:「臣事范、中行氏,范、中行氏皆眾人遇我,我故眾人報之。至於智伯,國士遇我,我故國士報之。」襄子喟然嘆息而泣曰:「嗟乎豫子!子之為智伯,名既成矣,而寡人赦子,亦已足矣。子其自為計,寡人不復釋子!」使兵圍之。豫讓曰:「臣聞明主不掩人之美,而忠臣有死名之義。前君已寬赦臣,天下莫不稱君之賢。今日之事,臣固伏誅,然願請君之衣而擊之,焉以致報讎之意,則雖死不恨。非所敢望也,敢布腹心!」於是襄子大義之,乃使使持衣與豫讓。豫讓拔劍三躍而擊之,曰:「吾可以下報智伯矣!」遂伏劍自殺。死之日,趙國志士聞之,皆為涕泣。


其後四十餘年而軹有聶政之事。


(訳)

そのしばらくのち、

趙襄子が外出した際に

豫讓はその通り道の橋の下で待ち伏せた。


趙襄子が橋へと至ると馬が驚いた。

(豫讓の気配を敏感に察知して)


趙襄子は「これは間違いなく豫讓の仕業だ」

と言い、人を遣わして尋ねさせると

果たせるかな豫讓が現れた。


そこで趙襄子は

豫讓を幾らか責譲して述べた。


「子はかつて、はん氏と中行ちゅうこう氏に

事えていたのではなかったのか?


智伯によって

彼らは族滅されたというのに

子はあだを報じようとはせず、

反対に質を委ねて智伯の臣下となるとは。


(当の)智伯もすでに死んでいる。

しかるに子はどうして、やつの為だけに

こうも執拗に報讐しようとするのかね?」


豫讓は言った。


「臣は范氏・中行氏に事えましたが

二氏は孰れも常人として我を遇しました。

故に、我も常人としてこれに報いたのです。


智伯は国士として我を遇しました。

故に、我も国士としてこれに報いるのです」


趙襄子は喟然いぜんとして嘆息を漏らし、

涙を浮かべながら述べた。


「ああ、豫子よ!


子は智伯の為に、

既に名声を成しておるではないか。


寡人かじん(私)が子を赦す事も

もう十分であろう。


子がそこまではらを決めておるのならば

寡人ももはや、子を赦すまいぞ!!」


趙襄子が兵士らに豫讓を包囲させると

豫讓は言った。


「臣は、明主は人の美しさをおおわず、

忠臣は名に死する節義が有るものと

聞き及んでおります。


以前に君が寛大な処置にて

我を赦したもうた事で

天下のうちで君の賢明さを

たたえぬ者はおりません。


今日の事で、臣も固く

誅殺に伏しましょう。


ただ、願わくば、

君の衣だけでも撃ちて、

我が報讐の寸志を

遂げさせていただきたいのです。


さすれば、臣は死んでも

心残りはありませぬ。


敢えて望みは致しませぬが

また敢えて胸中を

吐露させていただきました」


趙襄子は豫讓の態度を大義であるとして、

そこで、使いの者に衣服を持って来させ

豫讓へと与えた。


豫讓は抜剣し、三たび躍り上がって

これを撃ちてから、こう言った。


「私は、これで地下の智伯に報告ができる」


かくて、豫讓は剣に伏して自害した。


彼の亡くなった日、趙国の志士らは

これを聞いてみな涕泣ていきゅうした。


その四十年余りのち、

聶政じょうせいの事件が起こったのである。


(註釈)

わかる、わかるぞ豫讓……

どうせ働くならば、自分の価値を

認めてくれた人のために働きたいよね。


豫讓は義を知る者、

暗殺に失敗し、一度釈放されたことで

仇敵の趙無恤にすらも

ある程度の敬意を払っている感が

また堪らないぜ。


最期の「これで智伯に報告できる……」

ってセリフが切ない………………。


結局、豫讓の仇討ちは成就しませんでした。

が、彼の忠烈は人々の心に

永遠に刻まれることでしょう。


次回は聶政じょうせいです。

覚悟の強さでいったら

彼が歴史人物上ナンバーワンだと思います。


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