第53話 gdgd妖精会議
夜。
僕はお風呂に入っていた。疲れたので湯船に長く浸かっている。
リノは先に入ったのでもう寝てしまっただろう。
僕はお湯を手ですくっては、水面に落とす。
そのちゃぷちゃぷという水音を聞きながら、ぼーっと考える。
もちろん考えるのはヒールのこと。
僕のヒールは物を治すときにスキルを付与しているらしい。
全てではないけど、ある程度は無意識の願望が影響を与えているっぽい。
それを知って思うのは、狙ったスキルを付けられるようにならないか、ということだった。
うちの店は品揃えが安定しておらず、ウリとなる装備品もない。
何でもいいから、このスキルだけは必ずある、というふうにすれば人を呼べるはず。
何とか店を持続させる方法を確立しないと。
今は良くても一代限りで終わりそうだし。
僕が先に死んでも、リノが不自由なく過ごせるようにしたい。
街に居場所が欲しいだけだったのに、リノとの店を手に入れたらどんどん欲が出てきてしまう。
あと思うのは。
ゴミにばかりヒールして来たけれど、新品にヒールしたらスキル付きにならないのだろうか。
ヒールを使って魔力を渡しているって言うし、できるのでは?
「店が暇になったら、挑戦してみるかぁ……」
僕は伸びをして、何気なく上を見た。
すると、まん丸な瞳と目が合った。
天井から小さな顔だけが出ていた。桃色の髪の上にメイドカチューシャが揺れている。
一瞬驚いたが、悲鳴は上げない。
――えっと、猫耳も犬耳もないから、ディナシーだっけ?
「どうしたの、ディナシー?」
「ご主人さま、お背中流すです?」
「いや、今日はいいよ」
「わかたーです」
桃色の髪をしたディナシーは、僕が断ったのにまだじーっと見てくる。
というか真上から見られてたら、全部丸見えになってそうでちょっと恥ずかしい。
「まだ何かある? できれば一人にして欲しいんだけど……」
「ごめなさいです、ご主人さま。先ほど気絶して、ごめなさいです」
「ううん。調整が難しくて、こっちこそごめん。魔力を多くあげすぎちゃったよね?」
「ちがうです。お給金が多すぎて受け取れないなんて、ウチらの怠慢です。そこでご主人さまにお願いがあるです」
「なに?」
「家を飾り付けたり、庭に池作ったり、家庭菜園作ったりしていいです? 家の格が上がれば、そこに憑く家妖精の格も上がるです」
「なるほど。そうすれば魔力を受け取っても気絶しなくなるってわけか。――うん、家のことは任せるよ」
「ありがとですー」
「あ、材料が必要になったら僕やリノに言ってね」
「はいですー。――さあ、やったるですっ!」
ディナシーは細い眉をきりっと引き締めると、天井に潜っていった。
「ふう、やれやれ」
と僕は息を吐いた。
なんだかまた疲れたので、また湯船に体を伸ばしたのだった。
◇ ◇ ◇
家の三階の一室。
ほとんど何もない部屋。小さなテーブルとイスが三脚だけ、隅に置かれていた。
ずんぐりした3頭身ぐらいのメイド妖精ディナシーが、桃色髪を揺らして二人のメイド妖精を揺すっている。
「クーちゃん、ケトちゃん、起きるですー。ご主人さまの許可、下りたです~」
んぅっと小さくうめいて、猫耳と尻尾のあるメイド妖精ケトシーが目を開けた。頭の上の猫耳がピピっと動く。
続いて垂れた犬耳を揺らしてクーシーが起き上がる。
二人は眠たげに目をこすりながら辺りを見回す。
「お仕事にゃ?」「眠いわん」
「お仕事じゃないけど、お仕事です。さあ、お茶の用意がしてあるから、話し合うです」
「んみゃ」「くぅん」
ディナシーに手を引かれて二人は部屋の隅にあるテーブルに向かって腰かけた。
テーブルの上にはいつのまにか湯気の立つティーカップが置かれている。
ケトシーがカップを口に浸けて、びくっと体を震わせる。尻尾がぶわッと逆立った。
「熱いにゃ」
「ふーふーしてから飲むです」
「でも何を話し合うわん?」
「当然、家です! お給金が受け取れないのは、ゆゆしき事態だです!」
ケトシーが猫耳をぴこぴこと動かす。
「ゆゆ式にゃん?」「イシャはどこだわん?」
「違うです! ご主人さまがすごすぎて、このままじゃウチら毎回気絶するです! お仕事にならんです!」
「あれほんとにヒールなのかにゃ?」「ありえないわん」
「てなわけで、会議です! 気絶回避に家の格を上げるです!」
「わかったにゃ」
ケトシーが長い髪を揺らしてうなずいた。
ところがクーシーが首をかしげる。犬耳が垂れるように流れた。
「てことは、今は仕事外ってことわん?」
「そうだ、です」
ディナシーの言葉に、クーシーはイスの上であぐらをかいて座り直した。
胸の谷間が見えるまでメイド服のボタンをはずす。
急にだらけ切った態度になると、眉間に可愛いしわを寄せつつ言った。
「なんだー、てっきりまだ仕事中かと思ったじゃーん。アフターファイブはだらけさせて欲しいっつーの」
「クーちゃんがいきなりギャル化したですっ! てか、語尾から『わん』が消えたですっ!」
「あれはお仕事用の口調にきまってんじゃーん。人間たちは、たぶんうちら三人の区別ついてないと思うしぃ? 業務上の、サービスサービスぅ~!」
「ギャルの妖精がいたなんて驚いたです――はっ!? まさか、ケトちゃんも仕事中は猫被ってたり? 猫妖精だけに」
ディナシーが桃色の髪を揺らして問い詰めると、ケトシーは平然と尻尾を揺らした。
「私はそこまで変わらないにゃ……でも、プライベートでは語尾が『にゃ』から『にょ』になるにゃ」
「それたぶん、もっとヤバいやつです! 猫耳と猫尻尾だから、特に!」
「どうしてにょ? 何も問題ないはずにょ? お店の売り上げも倍増にょ? デジデジ~?」
メイド服と猫耳を揺らして、ケトシーはあざといぐらい可愛く首を傾げた。
ディナシーが、ちっちゃな拳を握り締めて反対する。
「身売りするからダメですっ。にょ、は禁止です!」
「しょうがないにゃ~。今回だけにゃ~」
ディナシーが、バンッとテーブルを叩いて立ち上がる。
「とにかく! 今はすごいご主人さまから見捨てられないように、メイド妖精としての格を上げるです! 各自、頑張るです!」
「でもさ~、何からしたらいいかわからないじゃーん」
クーシーがけだるげに明るい茶髪をかき上げつつ言った。
ディナシーは眉をきりっと寄せて、高らかに宣言する。
「まずは四大精霊呼ぶです! 池を作ってウンディーネを、家庭菜園で土いじりしてノームを、吹き流しか風車を設置してシルフを、呼ぶです!」
「火のサラマンダーはどうするにゃ?」
「バカでかい火の塊イフリースさまがいるから、いらんです」
「ああ、そっかー」「りょーかいにゃ」
二人とも頷いて同意したが、急にクーシーが目を細める。
「でもさぁ、この家、庭なくない?」
「うぁ……そうだった、です」
しょんぼりと肩を落とすディナシー。俯いたせいで頭の上のフリルが揺れた。
ケトシーが細い尻尾を揺らしながら言う。
「だったら、屋上を開発するにゃ」
「はっ! それだ、です!」
「あとさ~、4階は窓のない武器庫らしーけど、しいたけぐらいなら栽培できるんじゃね?」
「森の妖精さんも呼べそうだ、です!」
その後も三人のメイド妖精は、キャッキャと笑いながら家の改善案を夜通し出していったのだった。
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次話は明日更新
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