第44話 ラースのヒールは異常(第二章プロローグ)
二章始まり。
町が活気にあふれていく朝。
僕とリノとミーニャは、冒険者ギルドの二階にあるギルドマスターの部屋にいた。
ソファーの真ん中に僕が座り、両隣にリノとミーニャがいる。
向かいには金髪に赤い目をした美青年、マリウスがいた。鼻筋が通っており、笑うと歯並びの良い歯が見える。
一見細身で優男に見えるけど、歴戦の戦士のような、精悍な雰囲気をまとっていた。
なんとなく女性にモテそうと思ってしまった。
ただ、今はそれどころじゃなかった。
僕の隣にいるリノが意気消沈している。時々鼻を小さくすすり上げる。
なぜなら冒険者登録して実際の年齢を知ろうとしたら、とても珍しい天職を持っていたためだった。
目の前に置かれた僕とリノのギルドカードを見て、マリウスは難しい顔をして唸っている。
「これはまた、どちらもすごいな……まあ、順番に話していくとして。まずは英雄であるラース君から調査して行こうか。今までのことを話して欲しい。ヒールのことやダンジョンのこともすべて」
「はい、わかりました」
僕は覚悟を決めて全部話した。
村でのこと、死にかけたこと、ヒールのこと、なんでも治せること、ダンジョンを治したこと、死んでもヒールすれば死なないこと。
ところどころミーニャが補足してくれた。
聞き終えたマリウスは腕組みをして唸る。
「一度死にかけて、その後はヒールを人以外に……なるほど。それであの異常なヒールを手に入れたのか」
「そんなに異常ですか?」
「異常なんてもんじゃないね。他の回復魔法と違ってヒールは即時回復だが、少ししか回復しない。それが全快させてるんだから本来あり得ないんだ。ラース君のヒールは奇跡に近いんだよ」
「き、奇跡……。そこまでだったんだ」
「あまり人には見せない方がいい」
「もう遅い気がするんですけど……街の人全員が知ってるような」
僕は困りながら言った。
マリウスが白い歯を見せて笑う。
「この街なら問題ない。あの戦いを見た者は誰も文句言わなくなるし、他人に言っても信じてもらえないだろうしな」
「街の人に迷惑かけてしまったけれど、大丈夫ですか?」
「迷惑? ダンジョンが復活して経済が回り、人的被害も物損被害もゼロだ。結果的に誰も迷惑していないよ。君に文句を言う人はいないだろう」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
なんとなくこの人が庇ってくれたんじゃないかと考えて、僕は頭を下げた。
マリウスがテーブルに乗るカードに目を落とす。
「で、次は冒険者カードの異変だ」
「はい、なんででしょう? というか、カードがちゃんと登録されてませんよね」
「原因は不明。でもいくつもおかしいところがある」
「おかしい?」
「まず君の天職。無職なんて初めて見たよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、絶対何かの職になるし、職がない場合は空欄になる。その後、スキルを手に入れるとその職業になる。君の場合、ヒールが使えるんだから回復士になってないとおかしい」
「なるほど。なんで無職のままなんだろう……無能だから?」
僕の言葉に、マリウスはきざな仕草で前髪をかき上げて鼻で笑った。
「フンッ。確かに飛ばせないヒールだからヒーラーとして認められないのかもしれない。これは調べとくよ。ただ、何度も言うが君のヒールは異常な効果だからね?」
「ありがとうございます。自重します」
「ははっ、もう遅いよ」
「えっ!?」
僕の驚きに、マリウスは苦笑で答える。
「まあいいよ。続いてだけど、スキルのLvが1で熟練度100がおかしいんだ」
「それは……無職でスキルを覚えられないから?」
「違う。熟練度が100になったらLv2になって最大値が255になるはずなんだ。Lv1止まりってのは聞いたことがない。レベル3で止まることはあるが」
「え~、そうだったんですか……Lv2にする方法なんて、知りませんよね?」
「私が知る限りないね」
「そうですか……」
「で、次。冒険者レベルが上がらないことだ」
「経験値が入っていない、ということでしょうか」
マリウスがミーニャを見て尋ねる。
「ミーニャ、一緒にダンジョン潜ってて、普通に倒していたんだよな?」
「戦闘参加はなかった。でもパーティーは組んでた」
「おそらくスキルレベルが1から上がらないことも関係しているのかもしれない」
「ひょっとして僕はずっとレベル1のまま……?」
「どうかな。ヒールの熟練度を見ると、ヒールのレベルは相当高いはずだ」
「最大値が百万とかになってますね」
「しかも前は65535だったのが100万だろう? 君のヒールはさらに成長していると思われる――スキルレベルは本来Lv5の999が最大だ。ラース君のヒールが異常なのは、レベルの上限を突破している可能性がある」
「なんだかすごいことのように思えてきました」
「今頃か」
マリウスは苦笑した。そんな顔すら格好良かった。
僕は心配になりながら尋ねる。
「ほかにおかしなところはありますか?」
「ありまくりだが、今は何とも言えないな。こちらでも調べておく。ラース君のことを隠して調べるから、時間はかかるけど我慢してくれ」
「はい、ありがとうございます。お願いします」
僕は頭を下げた。
マリウスが視線を逸らして、今度はリノのカードを見る。
その表情が一気に硬くなる。
次はリノの番だ。
僕のことがかすむぐらいの深刻なスキルを持っていた。
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次話は明日更新
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