第43話 壊れる希望(第一章エピローグ)
簡単に朝食を取った僕らは、午前中は店を休みにして、冒険者ギルドへ向かった。
リノの本当の年齢を知って、結婚するため。
大通りにある白亜の建物に入る。
僕とリノとミーニャの姿を見て、冒険者たちが一瞬ざわっとした。
「ラースだ」「ゾンゴッド」「ラースさん、だろ」「不死神を怒らせるなよ、お前ら」「この町の英雄だからな」「ゾッド」「しぃっ!」
ざわざわと空気が騒がしい。僕らを見る視線が刺さる。
――て言うか今、ゾッドとか言われた!?
まさかゾンゴッドを、さらに略してゾッド?
変な呼び方は勘弁して欲しいと心から思う。恥ずかしい。
内心もやもやしつつ、平静を装ってカウンターへ来た。
眼鏡をかけた受付嬢に話しかける。
「すみません、リノを冒険者登録したいのですが」
「は、はい! すぐに用意しますね! ――あと、報酬がありますので!」
受付の女性は慌てて奥へと走っていった。
僕は首を傾げつつ呟く。
「報酬? なんのだろ?」
「街を救ったからじゃないですか?」
「あとエンシェントミノタウロスの魔核」
「僕がもらえるんだ……」
「当たり前ですよっ。なんせラースさんは街を救った英雄なんですから!」
「貰って当然。というかラースが貰わなかったら誰も貰えない」
「そっかぁ。でもさ、僕が原因――んぐっ」
ミーニャのしなやかな手で、口をふさがれた。
黒い瞳が僕の目を覗き込む。無表情でちょっと怖い。
「目撃者はいない。証拠はない。――いい?」
僕はこくこくと頷くと、ようやく解放された。
リノが心配そうな顔をして僕の手を握る。
「大丈夫です、ラースさん。もし今回の相関に気が付いた人がいても、活性化での被害は、ダンジョンの崩壊を止めて街の経済を助けたことで相殺されると思います。それに、人に言っても信じてもらえないレベルのことをしたんですから。想定外ですよ?」
リノの温かい思いやりが、つないだ手から伝わってくる。
ミーニャも口を添える。
「ダンジョンにヒールしたらスタンピード起きるなんて、ちょっと何言ってるのかわからないレベル」
――僕がくよくよしてると二人まで迷惑をかけてしまう。もう少し図太く生きた方がいいのかも。
二人に諭されて、僕は出来るだけ早く現状を受け入れようと思った。
――と。
受付嬢が帰ってきた。
カウンターに冒険者カードを作る玉を置く。
そしてお金を置いた。
「こちらが討伐や防衛をしてくれた謝礼金です。エンシェントミノタウロスの魔核と素材の売却費も合わせまして、32万カルスになります」
キラキラと光を放つ聖金貨に大金貨数枚。
僕としては大金だった。
でもミーニャが受付嬢を睨んでボソッと呟く。
「安い」
「申し訳ありません、今回ギルド総出でしたので、ある程度全員にも報酬をと考えると、ラースさんの取り分を減らさざるを得なくなりまして……あ! その代わり、ギルド登録とカードは無料で発行させていただきます! 再発行も含めてです!」
「わかった」
ミーニャが引き下がったので、僕はお金を魔法財布へ入れた。
迷惑かけた側なんだからみんなの収入になるほうがよかった。
続いて受付嬢が言う。
「ではラースさんとミーニャさん、カードを出してもらえますか? ランクをアップさせますので」
「おお~。経験値以外にも上がる方法あるんだ。僕もDランクかぁ」
「いえ、ラースさんはボスを単独撃破したようなものなので、Bランクになります」
「B!? いや、僕めっちゃ弱いんですけど!?」
「ハハッ! 面白い冗談です。――ミーニャさんもお願いします」
「ん」
戸惑ううちにカードをひったくられて、プレス機のようなものに挟まれてガシャンと音がした。
ミーニャはAランクになった。無表情だけど、尻尾をピーンと立てて嬉しそうだ。
僕はBに――あれ?
「すいません、Eのままなんですが……」
「え!? そんなはずは、確かに入力しましたよ……もう一度」
ガシャンと音がしてプレス機に挟まれた。
でも出てきたカードの記入は変わらず冒険者Lv1でEのまま。
カードを見ていた受付嬢が眉間に深いしわを寄せる。
「いや、ちょっと待ってください! これ、おかしいですよ! なんでレベルが1のままなんですか! モンスター倒したら、その場で経験値分が自動的に加算されるはずです! ええっ!?」
「やっぱりカードが変になってたからかな?」
「そ、そうですね。もう一度、作り直しましょう」
受付嬢がずずずっと水晶玉を僕らの前へずらしてくる。
僕は玉を握った。前回は触り方が悪かったのかなと思って、しっかりと握る。
そしてカードが発行された。
――――――――――――――――――――
【ステータス】
名 前:ラース 性 別:男
年 齢:17 種 族:人間
天 職:無職
職 業:冒険者:Lv1(E)
【パラメーター】(LvUP時、全+0.1)
筋 力:12 敏 捷:14
魔 力:%6#9 知 識:10
幸 運:≒4
生命力:53 精神力:L9%&
攻撃力:150 防御力:210
魔攻力:W!=% 魔防力:?~K*
【戦闘スキル】
短剣捌きLv1:短剣全般を扱うスキル。切る、枝を払う、などがうまくなる。(熟練度:100/100)
投擲Lv1:狩人の初期スキル。石や短剣などを投げてダメージを与える。(熟練度:100/100)
【補助スキル】
回復Lv0√^:聖職系の初級魔法。生命力を少し即時回復させる。(熟練度:7TF*9&B1/1048575)
治療知識Lv1:怪我、骨折、病気の治療方法を判断する。(熟練度:100/100)
逃走Lv1:危険な対象から逃げ出す。(熟練度:100/100)
MS%W16:おぃくjhytgfれdwsくぁ(熟練度ZZ7Y/0)
迷宮読解:ダンジョンの最短踏破経路、および罠や魔物などのオブジェクトの位置と最短経路がわかる。
――――――――――――――――――――
受付嬢が叫んだ。ポニーテールが跳ねる。
「もっとひどくなってる!」
「ほんとだ。ヒールの数値の桁数が増えてる。でも、前よりステータスが1~2ぐらい上がってます。あれ、迷宮読解!?」
横からぼそっとミーニャが言う。
「ダンジョンマスターを倒すとレアスキルが手に入ることがある。たぶんそれ。アリアドネは冒険者にとっては垂涎のスキル。というか激レア」
「そんなにすごいんだ……」
「使いこなせば、どこのダンジョンでも一人で行って帰ってこれる」
「すごい。あとでダンジョン行ってみたい」
「わかった」
ミーニャは淡々と答えた。
彼女の反応だけだと本当にすごいスキルなのかなと疑問に思ったけど、ちらちらとこちらをうかがっていた冒険者たちが騒ぎ出したのですごいスキルだとわかった。
「不死神ラース、牛倒してアリアドネって手に入れたってよ!」「え、うそ?! あれ、英雄出てくるおとぎ話のスキルじゃなかったの!」「すげぇ、欲しい!」「ほんとにあったの!? 信じられない!」「やべぇ、パーティー組んどきゃよかった……」「さすがゾッド」「しぃ!」
なんかもう待合室の方が大騒ぎになっていた。
ちょっと恥ずかしい。
受付嬢が言う。
「表記がおかしくても本来は経験値が入るはずです。もう私ではわかりませんので、この後ギルドマスターと話してください。ギルマスもちょうど話したいことがあるそうですので」
「わかりました」
「では次、そちらの奥様の登録を済ませてしまいましょう。玉に手を添えてください」
「ふぁ、ふぁい!」
リノは奥様と呼ばれて挙動不審になりつつ、水晶玉に小さな手のひらを乗せた。
そして玉が光った。
僕はドキドキしながらカードが出来上がるのを待つ。
「でもひょっとしたら、リノが年上の可能性もあるんだね」
「ふぇ? あぁ、その可能性もあるんですねっ……えへへ、あたしがお姉さん。姐さん女房かぁ」
リノは唇の端をによによと可愛く緩ませつつ玉をまだ撫でまわしていた。
受付嬢がカードを差し出す。
「ではこちらが……え?」
「これがあたしの……え?」
二人が固まる。
僕は不思議に思って横から覗いた。
――――――――――――――――――――
【ステータス】
名 前:リノ(〇〇〇〇)性 別:女
年 齢:16 種 族:人間
天 職:傾国姫
職 業:冒険者:Lv1(E) 〇〇〇〇〇Lv16
【パラメーター】(LvUP時、×1.1倍)
筋 力:6 敏 捷:10
魔 力:5 知 恵:18
魅 力:119(+98) 幸 運:4
生命力:32 精神力:46
攻撃力:606 防御力:27
魔攻力:28 魔防力:41
【攻撃スキル】
『切るLv1』:刃物を使って切る(熟練度:2/100)
【補助スキル】
『塵芥調査Lv4』:ゴミの中から良品を見つける(熟練度:681/777)
『鑑定眼Lv5』:物品を鑑定する(熟練度:999/999 ÷2)
『感覚強化Lv5』:触感で物を見る、音で距離を見る、など感覚で周囲を把握する(熟練度:999/999)
『気配探知Lv4』:敵や生物の気配を察知しどこにいるか把握する(熟練度:646/777)
『方向感覚Lv4』:どこにいても北が分かる(熟練度:755/777)
『地図製作Lv5』:フィールドや洞窟の地図を正確に記憶して書き留める(熟練度:999/999)
『心眼Lv3』:心の眼で見る。感じ取る(熟練度:454/500)
『第六感Lv2』:五感を超えた超感覚で感じ取る(熟練度:129/255)
『高貴素行Lv1』:高貴な振る舞いや礼儀作法を自然と行う。魅力に+熟練度数(熟練度:98/100)
【先天性スキル】
『才色兼備』容姿端麗かつ、スキル習得が2倍になる。
『絶死断末』寿命以外で死んだ場合に発動。今いる国とその国民をまとめて滅ぼす。
『最終王女』家督を継いだ場合、この者を最後に家系が断絶する。どのような状態であれ、自分より先に伴侶と子は夭折する。
――――――――――――――――――――
僕は数値を見て鼓動が高鳴る。思わず声を裏返しながら喋った。
「やった、リノ! 15歳以上だよ! このあと教会にすぐ行こ……リノ?」
リノがカードを見つめたまま動かない。
それどころか青い瞳に、じわっと涙が浮かんでいく。
「ど、どうしよう、ラースさん……」
「えっ、どうしたの!?」
「これ……ダメです……っ」
リノが震える指先で、カードの下の方を指さした。
スキルがたくさん載ってる羨ましい。
じゃなくて……え?
『最終王女』家督を継いだ場合、この者を最後に家系が断絶する。伴侶と子は夭折する。
――伴侶と子は夭折する!?
リノと結婚した相手はすぐに死んでしまうってこと!?
「なにこのスキル!? ラストプリンセス!?」
「これ、結婚、できなぃ……ラースさん、死んじゃうっ! ――うぅっ」
リノが目をぐしぐしと擦る。でも涙があふれて止まらない。
――え、え!?
なんで、そんなスキルぐらい……!?
僕がパニックを起こして戸惑っていると、受付嬢が眼鏡をクイッと指で押し上げて光らせた。
そして深刻な声で言う。
「ここではこれ以上お話できません。ギルドマスターが呼んでいます。二階にあるギルマスの執務室へお願いします」
「ごめんなさい……ラースさん、ごめんなさい……っ」
僕は何も言えず、ただ泣いているリノの華奢な肩を抱き寄せるしかできなかった。
『極めたヒールがすべてを癒す!~村で無用になった僕は、 拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~第一章・ラース生存編〈了〉』
これにて第一章終了です。
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第二章はできるだけ早いうちに出します。
あとタイトル変更しました。