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第40話 ラストバトル!

本日2話目。


 ダンジョンからあふれた魔物が夕暮れ時の街を襲った。


 僕はダンジョンマスターであるエンシェントミノタウロスと死闘を繰り広げた。

 何十回も叩き潰されては、そのたびにヒールで即時回復して斬り付ける。

 けど1ダメージしか通らない。

 砂漠に水を撒くかのような、途方もない戦いをしていた。



 そんな時、視界の端を赤い影がよぎった。

 ミーニャが着物の裾を揺らして戦いに飛び込んできた。

 白い刃でハンマーを受け流し、黒い刃が脇腹をえぐる。追加の斬撃が腕や背中に入り、血を吹いた。


 ミノタウロスが牙を見せて笑った。


「ほう! 少しはやりそうだな!」


「ここにいたなんて。――でも、あなたの企みは失敗。モンスターはほぼ倒した」



 その言葉を裏付けるかのように、大勢の騎士や兵士、冒険者たちが遠巻きに現れた。


「あれ、ただのミノタウロスじゃないぞ……」「やべぇ」「Cランク以下は下がれ! 怪我人の救助に回れ!」

 

 腕の立つ者たちが武器を構えて、警戒しつつ近づいてくる。


「気をつけろ……半端じゃないぞ」「回り込め、俺は右」「左で」


「多勢に無勢。私たちの勝ち」


「ならば、これはどうだ? ――圧死多段撃パーフェクトデスプレス!」


 ミノタウロスが鼻で笑うと、ハンマーに目で見えるほどの質量を持った風が幾重にも宿る。


 僕は、はっとして叫んだ。


「逃げて、みんな!」


「ダメ。遅い」


 僕は手裏剣を投げて行動を遅らせる。

 しかしミノタウロスは僕らの攻撃を受けながらも、ハンマーを振り降ろした。


 ドゴォォォン!


「うわぁ!」


「くっ!」


 僕とミーニャは直撃を避けたが、それでも爆風に吹き飛ばされた。


 飛ばされるミーニャに手を伸ばしたが、触れなかった。

 彼女は僕の店の壁に叩きつけられる。


 そこへ追加の爆風が襲う。

 ――大範囲の多段攻撃スキルなのかっ!


「ヒールヒールヒール!」


 僕は自分にヒールを唱え続けて追加攻撃をしのぐと、ミーニャに駆け寄ってヒールを唱えた。



「ヒール! ――大丈夫!?」


 ミーニャは胸を押さえつつ、苦しげに言う。


「これは無理。多人数で挑むと極大範囲攻撃ばかりになる。私が一騎打ちする」


「いや、僕がする」


「え?」


「僕のせいでこうなったのなら、僕が責任を取る」


「ラースじゃ、むり」


「わかってる。僕が時間を稼ぐ。その間に倒せる方法を見つけて欲しいんだ」


「そう……わかった。お願い」


 ミーニャは小さくうなずく。どこか痛むのか眉をピクッと動かした。

 違う、背骨が折れたみたいだ。


「うん、頑張るよ!」


「時々、サポートする」


「ありがと! ――ヒール!」


 まだ苦しそうなミーニャにヒールをかけると、僕はきびすを返してミノタウロスへと走った。

 


 ただ、壊れた街の景色は嫌でも目に入った。

 僕の店は半壊してもまだ建っていたが、周囲の地面に大穴が開いていた。

 周辺の古い建物は衝撃ですべて崩れた。

 視界を遮る建物がなくなり、大通りまで見える。


 一瞬、目の前が暗くなる。

 初めての感情が心に暗く燃え上がった。


 相手への怒り、状況への怒り。

 それ以上に憤るのは、自分自身に対する怒り。


 でも溢れそうになる感情をぐっと押さえつける。

 ――やってしまったことを、くよくよ後悔してもしかたない!

 僕のヒールが原因ならばっ、僕が自分で始末をつける!


 歯ぎしりしつつ巨体へ叫ぶ。


「行くぞぉ! ――僕が相手だ、ミノタウロス!」


「ほお? まだ生きているのか。弱いくせに面倒なやつだ――だが、おもしろいぞ」


 牛の顔をゆがめて笑うとハンマーを構えた。

 ふと見ると、彼の右足に黒い蛇――確かミーニャの影で縛るというスキル――が発動していた。

 しばらく動けないはず。



 手裏剣を投げつけながら駆け寄る。


「ヒールヒールヒール!」


「ふんっ!」


 ハンマーが高速で振り降ろされた。

 行動遅延が発動してないのかと思ったが、何かのスキルのようだった。


 僕はよけそこなって、左肩から左足まで縦に潰される。

 口から血を吐きつつ唱える。


「ひーるっ」



 瞬時に治してまた攻撃。

 ハンマーをかわして攻撃。

 潰されて治して攻撃。


 ちまちまと皮膚を浅く斬っていく。

 せめて、できるだけ同じところを斬るように。

 ――魔力がつきるまで何度でも斬る!



 そのとき、店の影から可愛い声が飛んできた。


「ラースさんっ! 回転して切って!」


「えっ? ――わかった!」


 僕はリノの言葉を素直に信じた。

 なぜか疑う前に言葉が腑に落ちていた。

 考えるのは終わってからでいい。


 ミノタウロスは、右足がまだ動かない。

 ――いや、効果が消えるたびに、物陰に隠れたミーニャが影を使って攻撃して、影縛りを追加発動させているようだった。



 ――いける。


 言われたとおりに回転しながら攻撃した。

 最初は何もなかった。でも3回目辺りから手応えを感じ始めた。


 しかし相手の近くで一回転すると言うことは、相手に背中を見せると言うこと。

 てきめんに、ハンマーの柄や分厚い手のひらで叩き潰される。


 それでもヒールを唱えて回転斬り。

 背骨を砕かれて治して回転斬り。


 一撃ごとに、与える傷口が深くなっていく。

 大怪我もめまいもヒールで瞬時に治して、僕は回転切りを続ける。



 遠巻きに見ていた冒険者や騎士たちが騒ぎだす。


「お、おい、あれ……」「まさか、押してる?」「なんて戦い方だ」「【起死回生】か【臨死一矢ラストアタック】のスキル持ちか?」「だとしてもやばいわね」「あいつ、やべぇ」「いかれてやがる」


 9回転目の攻撃が、鉄の塊に思えた彼の太股を、骨が見えるまで切断する。

 ミノタウロスの巨体がぐらついた。



 牛の顔が初めて焦りでゆがむ。


「なっ、なんだとっ! やめ――やめろっ!」


 下から抉るようなハンマーが飛んできた。

 ――やばいっ!


 とっさに僕は前のめりにぶつかっていく。


 ドパァンッ!


 頭が上半身ごと爆発したように弾け飛んだ。


 でも、ナイフで回転切りを当て続けるためには、遠ざかる方が致命的だった。


 ――これでいい。


 砕け散った肉片の中、唇の破片がゆっくり動く。


「……ヒール」


 僕の身体がミノタウロスの傍で瞬時に復活する――回転は続いたまま。


 その勢いを乗せてナイフを振るう!

 十回転目の一撃。1024倍のダメージ!


 ザァン――ッ!


 ミノタウロスの胴体を、バターのように横に深く切り裂いた。

 


 牛が丸く見開いた目で、腸のはみ出たお腹の傷を見下ろす。


「ば、ばかな――ッ! ――はっ!」


 驚き戸惑った彼は見ていなかった。


 彼が気づいたときには、僕はすでに十一回転目の半分まできていた。

 背中を向けたまま、地面を蹴った勢いで残りの回転とともに高く舞い上がる。


 僕を見つめる牛の瞳に映るのは、夕焼け空を背景に、黒いコートの裾が弧を描いて広がる姿。


 二階の高さほどもあるミノタウロスの顔の正面で、僕はナイフを振るう。


「死ねぇぇぇぇ!」


 ズワァァァァン――っ!


 ナイフから放たれたとは思えない巨大な斬撃が、ミノタウロスの頭から足先までを真っ二つにした。


 切断した勢いで、地面に赤い血の線が走る。



 ミノタウロスの両半身が縦にずれていく。


「ぐも……ぐほっ。や、やるな……名は?」


 僕は地面に着地すると、ナイフを払って血を飛ばした。


「僕の名前はラース。ラース良品店のあるじ、ラースだ!」


「――らーす……あっぱれ……」


 ミノタウロスは口の端を釣り上げて笑った。

 思い残すことはないほどに戦いを楽しんだかのような笑みだった。

 そのまま、まっぷたつに割れながら、前のめりに倒れた。


 ズゥン……と重い地響きがして、ミノタウロスは動かなくなった。


ブクマと★評価ありがとうございます!


少しでも面白いと思った方は、下にある★評価を入れてもらえると嬉しいです!


次話は夕方か夜更新

→第41話 新しい化け物爆誕!

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉片になったら発声できないんじゃ…… っていうことは考えちゃいけないんだろうな。
[一言] てっきりリボルケイ○の様に 有り余る生命力をヒールで 過剰に叩き込んで 中から爆発させるものとばかりw
[一言] これならどれだけ敵が強くても勝てそう 1,2,4,8,16,32,64,128,256,1028,2046,4098,8196,16392…って感じでダメージが急上昇するじゃん 普通に体力1…
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