表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/59

第35話 ダンジョン活性化


 午後の明るい日差しが街の郊外にある丘を照らす。

 僕とミーニャは丘の中腹にあるダンジョンへゴミ拾いにやって来た。

 

 入り口から入るとき、衛兵に声をかけられる。


「おっ、ミーニャさん。ちょいとお話が――」


「もう知ってる。さっきギルドから聞いた」


「そうかい。頼んますっ」


 いかめしい衛兵が、華奢な猫獣人に頭を下げた。



 僕は入り口をくぐった。

 ごつごつした岩肌の洞窟を歩きながら、ミーニャに小声で話しかける。


「何かあったの、ミーニャ?」


「ん。ダンジョンが活性化してるらしい」


「え、それって危ない?」


「ただの活性化ならみんな儲かる。スタンピードまで行くとモンスターが外にあふれて危険」


「大丈夫なの?」


「それを調べるのが仕事」


「何をするの?」


「深く潜る。敵を倒す。今までと同じ」


 僕は安心するとともに別の不安が脳裏をよぎる。


「ゴミ拾い出来そうで良かった。……けど、その原因って、やっぱり僕だよね?」


「治したんだから当たり前」


「うーん。なんでだろう。治しすぎちゃったのかな」


「リノやイフリースと同じ」


「どういうこと?」



 ミーニャが立ち止まると、黒い瞳で僕をじっと見る。


「ラースのヒールは基本は治す」


「うん」


「でも元の状態に治すのではなく、理想の状態に治している」


「理想の……? でもリノは目が見えない状態を目が見える状態に治しただけだし、イフリースは人の形が取れない状態を人の形が取れる状態に治しただけじゃない? 初級のヒールとしてできる範囲で治しただけだよ」


 僕の言葉に、ミーニャがジト目になった。 


「本人に聞いてみたらいい。あんな人間そっくりの精霊、見たことない」


「そうなんだ……違いがよくわからないや」


「腕が切断された場合、切られた傷口だけ治すか、腕が復活するかの違い。普通のヒールは前者。ラースのヒールは後者」


「うん。腕ぐらい、ってか首だってくっつけられると思う。ヒールでハイヒールやフルヒールぐらいの効果になるまで練習、頑張ったからね……あっ、待って? それじゃあ、このダンジョンがもし理想の状態に治ったら、ダンジョンマスターが復活してる可能性がある……?」



 ミーニャが黒髪を揺らして、こくっと頷いた。


「可能性はある。もし敵が多ければダンジョンマスターが復活してる。上級種までいたら確定」


「マスターがダンジョンにいると機能として強いモンスターを出してくるんだっけ。……困るなぁ。また誰か倒してくれたら……って、ミノタウロスは強い?」


「初心者たちは危険。Cランクレイドモンスター。魔法が効きにくく物理攻撃に特化してる。しかも好戦的で一騎打ちが好き」


「うわぁ。みんなで倒すレイドモンスターなのに一対一が好きなのは怖いね」


「そう。ずるがしこく立ち回って一騎打ちの状態を作るから厄介」


「勝てそう?」


「今の私なら余裕」


 ツンと顎を反らして颯爽と歩きながら言った。なんだか自信に満ちていてかっこいい。


「さすがだね。じゃあマスターが復活してたら、倒してもらえないかな、ミーニャ?」


「ん。りょーかい。むしろ久しぶりに強敵と戦いたい」


「さすがミーニャ……わかった、いるかもしれないからとにかく十階まで行ってみよう」



 ――と。

 ミーニャの猫耳がピクッと動いた。

 しなやかに足を開いて、腰の剣を抜き放つ。


「来た」


 10匹の筋肉質なネズミが砂埃を上げながら襲い掛かって来る。 


「多いっ!」


「ラースは下がってて」


「うん!」


 僕はミーニャの邪魔をしないよう、洞窟の壁に寄った。

 ミーニャはいつも通りの無表情でネズミたちに立ち向かう。

 ネズミは弱かったので、数が増えても一瞬で倒されていた。


 ただ、ダンジョンマスターは復活していそうだと僕は思った。


       ◇  ◇  ◇


 ダンジョン地下九階。

 僕とミーニャは魔物を倒しつつゴミを拾いながら下へと降りた。

 敵の量は増えていたのでダンジョンマスターが復活している可能性が高かった。

 ゴミは通常通り拾えた。


 ぼんやりと明るい石造りの通路を歩いて、部屋から部屋へと移動する。

 さすがに9階まで来ると店用に充分拾えたので、今はミノタウロスのいる地下十階に向かっていた。



 警戒しながら前を歩くミーニャに話しかける。


「でも、一度に戦うモンスターの数が増えただけだったね」


「拍子抜け」


 ミーニャは淡々とした声で答える。


 どうやらダンジョン内のモンスターは、種類が増えたり上級種や進化種が出現したわけではなさそうだった。


「これなら安心、かな?」


「ん。慣れれば初心者でもなんとかなる。マスターもたぶん弱いのが出る」


「ダンジョンマスターを倒せば元通りになるかな?」


「ん……たぶん。ただ、ダンジョンが元気だと再沸きするかも」


「そっかー。これからちょくちょくチェックが必要かもね。でも、よかった――あ、宝箱」



 活性化前と比べて宝箱の出現回数が増えていた。

 前来た時は何もなかった部屋にぽつんと発生してたりする。

 どの宝箱も、高額な品が多かった。


 僕は鑑定スキルの付いた虫眼鏡で見つつ宝箱を開けた。

 薄い鉄製の、十字になった星のような形の品が入っていた。


「これは、なんだろ。変わってる形……手裏剣っていうのかぁ」


「ん。それは遠い東の国の武器」


「そうなんだ……【絶対命中】と【行動遅延】それに【無限弾】がついてる。――すごっ! 650万もする」


「……宝箱にはダンジョンのボスを倒せるアイテムが出やすい。――確かラースは【投擲】のスキルを持ってた。使ったらいい」


「うん、そうする」


 僕はマジックバッグに手裏剣をしまった。



 その後はダンジョン探索を続けた。

 それにしても、拾えた武器や防具のゴミは、昨日よりも激しく壊れていた。


 不思議に思ってミーニャに尋ねる。


「昨日拾った場所でも、壊れたゴミが落ちてるけど。壊れ具合がひどいんだ――なんでだろ?」


「敵が多くて、被弾が増えてる証拠」


「ん~? あ、そっか、なるほど! 今まではパーティーで一匹を囲んで狩ってたのに、多数相手に狩らなくちゃいけなくなったもんね。大変だろうけど……僕としてはおいしいね」


「にゃ。悪徳商店ラース」


「やめてよ、人聞きの悪い……いいじゃないか。ゴミなんだし。ダンジョンもきれいになるよ」


「そういうことにしとく」


 ミーニャは無表情でさっさと先に歩いていった。

 僕は置いていかれないよう、早足で後を追った。


ブクマと★評価ありがとうございます!

ブクマ1万越えてました! 応援ありがとうございます!

今いろいろ大変だけど、すごくやる気出ます、頑張ります!


次話は夜か夕方更新

→第36話 店番リノの心配

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者の別作品もよろしく!
日間1位! 週間1位! 書籍化!
おっさん勇者の劣等生!~勇者をクビになったので自由に生きたらすべてが手に入った~最強だと再確認したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い!
 結果を出してたのに評価されなくて追放されたおっさん勇者が、再評価されるお話です。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 病気の場合はヒールが使えない理由。 気になったけど理由が説明されてスッキリ。
[気になる点] 「そうなんだ……違いがよくわからないや」 わざとバカなフリをしている、思考を放棄した時のセリフに感じられます。 「マスターがダンジョンにいると機能として強いモンスターを出して…
[一言] 首がモゲたら死んでる気がする…… まさか蘇生する?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ