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第34話 店のウリ


 開店準備を終えた後は、店の場所を書いたチラシを大通りで配った。

 親父の武器屋やステラの宿屋にもチラシを張らせてもらう。



 チラシを配り終えて店に戻ると、リノがカウンターに座っていた。少し暇そうだ。


「ただいま。ミーニャとイフリースは?」


「おかえりです、ラースさん。二人はまだ戻ってないです」


「お客さんは来た?」


「ううん、まだです。これはひょっとして、大変かもです……」


 リノがカウンターに両腕で頬杖をついて顎を乗せた。

 はふぅ、と息を吐く。



 僕もカウンターに入って並んだ。

 ぼーっと店内を眺める。

 品揃えはいいし、開店セール品だってあるのに。

 まさか一人も客が来ないとは。この先、どうしよう。


 ――まあ、また親父の店に買い取ってもらえればいいんだけど。

 それはなんだか負けた気がする。

 早く定価よりも高く売れるようにならないと。



 ――と。

 初のお客さんが店にやってきた。

 カウンターの中から僕とリノが笑顔で挨拶する。


「「いらっしゃいませっ!」」


「おうっ」


 片手を上げて入ってきたのは、無精ひげを生やした武器屋の親父だった。

 僕とリノはあからさまに肩を落とす。


「なんですか、いきなり」


「特にめぼしいものはないですよ?」


「別に買いに来たわけじゃねぇよ」


 そう言って、親父は店内の武器防具を全部見ていく。

 僕らは特にすることがないので、親父の徘徊をぼーっと見ていた。



 親父は無精ひげを撫でつつ品物を見ていく。


「ほお……ほほお……いいもん揃えてるじゃねぇか」


「ありがとうございます」


「値段も間違ってねぇやな」


「はいっ」


「でもそれじゃ、いけねぇ」


「えっ」


 カウンターにいる僕らを、親父は鋭い目つきで見てくる。


「損して得を取るって場合も、時には大切だぜ?」


「じゃあ、適当な何かを値下げしたほうがいいんでしょうか?」


「適当じゃダメだ。意味がない」


「どういう……」



 僕の問いかけに親父は腕組みをして唸った。


「う~ん、そうだな。例えば、王都のクラウス防具店って知ってるか?」


「いえ、知らないです」


「普通の防具屋なんだけどよ、透明や半透明の付いた防具を必ず置いてるんだよ。そうなると、どうなる?」


「えっと、透明が欲しい人は必ずその店に行きそうです」


「それだけじゃねえ。『透明が欲しけりゃクラウスに行け』って冒険者の間でも口コミになる。宣伝になるってわけさ」


「なるほど。考えてますね」


「商売ってのは、品揃えだけじゃ難しい。特に立地が悪いとな。その店だけのウリってもんが必要になってくるんだよ」


 僕は納得して頷いた。


「なるほど……勉強になります」


「ちなみに、おじさんのところのウリはなんですか?」


 リノが首をかしげて尋ねた。

 すると親父はニヤリと笑った。



「うちの店に来れば、必ず【英雄】や【英雄視】の効果が付いた武器防具があるって噂だ。駆け出しのひよっこは、いつかうちの店で英雄付きを買って英雄になるのが夢なのさ」


「あっ!」


 確か親父に売った剣、英雄付きだった。

 しかもダンジョンの性質的に、この街の冒険者は初心者が多い。

 ――なんか、ずるい。


 リノが、ぷくっと頬を膨らませた。


「ええ~! じゃあ、絶対売れるものを、捨て値で買い取ろうとしたんですかぁ~!」


「だからお詫びに商売のコツってもんを教えてやっただろ? ああ、あと定休日は決めといたほうがいいぜ。――客に浸透すれば、機会損失が少なくなるからよ」

 

「あ、はい。ありがとうございます!」


「んじゃ、がんばれよ~」


 親父は振り返りもせずに、手を振って帰っていった。



 僕とリノはカウンターの中で考える。


「ウリかぁ……考えてなかったなぁ」


「良い物がある、だけじゃ弱いんですね」


「基本拾ってきたゴミだから、何が並ぶかわからないし」


「いいものがあるかもしれないから寄っておこうと考えるか、欲しいものがあるかわからないから寄らなくていいや、になるかの違いですね」


「うーん、だいたい剣だけど、槍や斧になるときもあるしなぁ。安定供給のために買取もやろうかな? 資金がまだまだ足りないけど」


 僕は首を振りながら唸ると、リノは形の良い眉を寄せて難しそうな顔をした。


「買取をすると倉庫も必要ですよ。汎用品ノーマルも一緒に買い取らなくちゃいけなくなりますから」


「そうなんだ? ユニークだけ買取じゃダメなの?」


「冒険者さんは面倒くさがって一つの店で全部売ろうとしますから。ノーマルを買い取らないと、別の店でまとめ売りされてしまいます」


「あ~、なるほど。確かにダンジョン潜った後で、いろんな店を売り歩くのは面倒だもんなぁ……しかもノーマルだと手入れもしなくちゃいけなさそうだ」



 僕は顔をしかめて考えた。

 リノが隣で、はふぅと小さな息を吐く。


「商売って、難しいですね」


「でも、いい勉強になったよ。うちの店ならではの宣伝方法を考えたりして、こつこつ頑張っていこう」


「ですねっ。ラースさんのお店ですもの、絶対成功させてみせますっ」


 リノはまっすぐ店の外を見つめつつ、真剣な顔で頷いた。決意を秘めたその横顔が美しい。


 その顔を見て、店はリノに任せて大丈夫だろうな、となんとなく直感した。



 その後、ミーニャが帰ってきた。冒険者ギルドにも顔を出してチラシを貼ってきたらしい。

 さすがBランク冒険者。顔が利くみたいだ。


 というわけで午後からはダンジョンでゴミ拾い。


 僕は武器と防具を装備して、マジックバッグの背負い袋を肩にかけた。

 カウンターにいるリノに呼びかける。


「じゃあ、リノ。ダンジョン行ってくるよ」


「はいっ、気を付けていってらっしゃいませっ!」


 リノは金髪を揺らして最高の笑顔で送り出してくれた。

 それだけで足取りが軽くなる。


 ――こんな生活がずっと続けばいいなぁ。

 僕は、リノが与えてくれる幸せを噛みしめつつ、ダンジョンへ向かった。


ブクマと★評価ありがとうございます!


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次話は明日更新

→第35話 ダンジョン活性化

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日間1位! 週間1位! 書籍化!
おっさん勇者の劣等生!~勇者をクビになったので自由に生きたらすべてが手に入った~最強だと再確認したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い!
 結果を出してたのに評価されなくて追放されたおっさん勇者が、再評価されるお話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] パリィをリスペクトしつつも独自性もちゃんとある点。
[一言] 売るのと合わせて修理屋すればいい、 修理代はいくらにするか? そうするとダンジョンに壊れた武器すてなくなる?
[気になる点] >「損して特を取るって場合も、時には大切だぜ?」 これって 「損して得を取るって場合も、時には大切だぜ?」 ではありませんか?
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