第30話 可愛い大攻勢
この作品一番の問題回。
ラースの長台詞は「リノ可愛い」と言ってるだけなので、読み飛ばしてくれてオッケーです。
夜の寝室。
天蓋付きのベッドで僕らは語り合っていた。
けれど、僕がどれだけリノを可愛いと思ってるかを信じてくれないので、全力で説明することにした。
「まず一つ目は金髪。細いのに豊かで柔らかくて可愛い。まるで朝日を受けて輝く、清らかに流れる小川のよう。二つ目は青い瞳が可愛い。青空のように澄んでいて、吸い込まれそうなほど大きくて。綺麗な二重と長い睫毛も可愛い。目の光に聡明さが感じられて可愛い。しかも少したれ目がちなせいか、理知的な光を優しさが包んでいて可愛い。眉毛も可愛いよね。細いけど形が整ってて、喜怒哀楽がわかりやすくて見てて飽きないぐらい可愛い。耳も小さくて可愛い。形が可愛い上に、左右が少し違うところがすごく可愛い。右からでも左からでも違う可愛さが感じられて、ずっと眺めていたくなる可愛さだよ。鼻筋も高く通っていて可愛い。でも高すぎないところに、控えめな気品があって可愛い。唇は赤くて果実のように可愛い。笑ったときにできるえくぼも可愛い。そう、笑顔が素敵なんだよねリノは。並びの良い小粒な歯が白く光って笑顔が可愛い。首も細くてかわいいし、鎖骨も折れそうなほど細くてかわいい。また左の鎖骨にほくろがあって、服の首元からチラッと覗いた時はとても可愛い。肌は白くてかわいいし、指先も細くてかわいい。深爪をしていない爪は形が良くて、小さな宝石が彩っているみたいに可愛い。体も可愛いし……足も……膝……くるぶし」
僕は延々と褒めたたえた。
褒めるにつれてリノが変になっていく。
最初は顔を赤く染めるだけだったのに、言えば言うほど青い瞳を丸く見開いていって、呼吸困難にでもなったかのように口をぱくぱくさせた。
「ら、ラースさん、いいですっ! もうそんな、無理に褒めなくても……っ」
リノは真っ赤な顔の前で手をパタパタさせて扇いだが、僕は変なこと言うなぁと思いつつ首を傾げた。
「何を言ってるの……? ぜんぜん無理じゃないよ。だって――まだ半分も言ってないし」
「ふぇええ――!?」
寄り添うリノは、青い目が落ちそうなほど見開いて叫んだ。
「そう、それ! リノは声も可愛いし、仕草も可愛いでしょ? 今の褒めたところは全部見た目だけじゃないか。リノは動きも仕草も性格も言動も、全部ぜんぶぜーんぶっ可愛いんだよ?」
「う、嘘です、そんな……」
「嘘じゃないよ。今、泣きそうになりながら指を噛んで堪えてる仕草がすごく可愛いよ。僕を見上げて震える睫毛も可愛い。だいたいリノは小柄だから普通の動きすら可愛いくなるんだ。歩幅が小さくてちょこちょこ歩くところが可愛いし、振り返って信頼の笑顔を見せてくれる瞬間も可愛い。僕を見上げて首をかしげるしぐさが可愛いし、高いところに手を伸ばそうとして背伸びしたところも可愛い。膝の裏辺りがすらっと伸びてほんとうに可愛いよ。すらっと伸びたと言えば、大きなバッグを片手で持ち上げたときの細い腕もすらっとして可愛いかった。物を鑑定する時の真剣な眼差しは知的な青い瞳が可愛いし、誠実さ感じる横顔も可愛いよ――明るくて前向きなところが可愛くて。でも泣き虫なところも可愛い。それって感情豊かってことだから、少しのことで驚いたり悲しんだりして一緒にいて楽しくて可愛い。でも悪いことはしなくて誠実で可愛い。ちゃんとお礼や挨拶を言えるところも可愛い。あとは――」
怒涛の可愛い発言はまだまだ続く。
しまいには顔を真っ赤に染めたリノが、赤い唇をわなわなと震わせた。
そして甘えるような掠れる涙声で言う。
「どんだけ……どんだけ、あたしのこと、見てるんですかぁ……」
「だって可愛いもん。無意味な景色を眺めるよりさ、リノを見てる方が百倍可愛くて有意義だし。姿も仕草も性格も、毎日見つかるリノの可愛さは、僕にとっては全部宝石なんだ。全身が可愛さでできてるよ、ほんとに。リノの可愛さは百個どころじゃないよね」
リノは小さな手のひらで目を覆うと、喘ぐような声を出した。
「も、もぅいぃです、もぅわかりましたっ」
「そお? ――あ、でも。まだ可愛いところ百個言えてないよね。続き言うね」
「ふぇぇぇ!! だからもう、わかりましたってばぁ――っ!!」
顔を手で覆って、いやいやするように首を振る。長い金髪が揺れた。
けれど、そんなリノの細い手首を掴んで可愛い顔を開かせた。
耳まで真っ赤にして、泣きそうなほどに顔をゆがめているリノを、僕はじっと見つめて追い詰める。
「青い瞳を潤ませて見上げてくる仕草も可愛い。――でもね今、一番可愛いリノを見つけたんだ」
「い、一番……? なんですか?」
「可愛いって言われて、めちゃくちゃ照れてるリノが、超一番可愛い」
リノは湯気でも出そうなほど耳まで真っ赤になると、悲鳴のように叫んだ。
「もぉ、むりぃっ! わかったから、わかりましたからぁ! ――これ以上、あたしを可愛くしないでぇ……っ!」
リノは僕の胸にしがみついて、大きな青い瞳を涙で潤ませて訴えてくる。
――死ぬほどかわいい。可愛すぎて、死ぬ。
いや、死んだのは理性か。
リノに対する愛しさが限界を超えた僕は、掴んでいた細い手首をベッドに押さえつけた。
「あっ……」
リノが涙で潤んだ青い瞳で、切なく僕を見る。
「――リノ」
僕は早鐘を打つ鼓動で声を上ずらせつつ、顔を近づけた。
リノが赤く染まる頬に笑みを浮かべる。目の端から喜びの雫がこぼれた。
「ラースさん……っ」
そして彼女はすべてを受け入れるように目を閉じた。長い睫毛がかすかに揺れる。
赤い唇は誘うように小さく開く――。
僕は彼女の華奢な体へ覆いかぶさるように、顔を近づけて――。
――が。
ドォォォン――ッ!
突然、大きな音がして建物が地震のように揺れた。
僕らは、はっと体をこわばらせて身を離した。
「な、なに!? 何の音?」
「厨房の方から聞こえましたっ、ラースさん!」
「まさか火事!? ――急ごう!」
「はいっ!」
寝巻のまま僕らは寝室を飛び出した。
着替えてる暇なんてない。
ただ装備の入ったマジックバッグだけは持っていた。
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あとタイトルのことで、読者の皆様にご相談したいのですが。
『すべてを癒す究極ヒール!~無能扱いされる村から出た僕は、拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~』
は、変更案としてどうでしょうか?
ちょっと変えて『極めたヒールがすべてを癒す!~村で無用になった僕は、……~』とか。
どちらがいいでしょう? それとももっといいタイトルあるでしょうか?
ご意見、ご要望、お待ちしています。
次話は明日更新
→第31話 謎の爆発