第29話 リノの夢
夜の寝室。
僕とリノは月明かりの差す天蓋付きベッドの上で寄り添い、言葉を重ねあった。
「でも、これからどうしよう?」
「これから、ですか? お店を頑張るのでは?」
寄り添いながら首を傾げたので、金髪が流れて僕の首筋に触れた。とてもくすぐったい。
「リノはそれでいいの?」
「んん? どういう意味ですか?」
「いや、リノがしたいことや、夢や目標はないのかなって。僕ばっかり手伝ってもらったから、今度はリノのしたいことを僕が手伝いたいんだ」
――リノと出会えたからこそ、この街で生きる場所を作ることができた。
店はこれからだけど、場所があって商品もある。複数のお金を稼ぐ方法も見つけている。
『絶対生き延びる』という第一段階の目標はクリアしたと考えていいはず。
だったら次はリノの力になってあげたかった。
リノは嬉しそうに目を細めた。
「なるほど……ラースさん、あたしのことをそこまで気にかけてくれるんですね。ありがとうございます……でも、今は特にないかもです」
「そうなの?」
「はい。だってその日一日、生き抜くことで精いっぱいでしたから、将来の夢とかそんなの全然持てませんでした」
「今も? 今は生活にゆとりは出たはずだよ?」
「今は……」
そこまで言うと、リノは恥ずかしそうに頬を染めてうつむいてしまう。金髪が顔を隠した。
僕はリノの頭を撫でつつ微笑みかける。
「今はできたみたいだね」
「はいっ! よくよく考えたら、かなえたい夢、ありましたっ」
「それはなに?」
「えっ、それは……言えません」
「どうして? 教えてもらえないと協力できないよ。ここまでこれたのはリノのおかげなんだ。だからリノを応援したい」
わりと本心からの言葉だったのに、リノは恥ずかしそうに頬を染めると僕の胸に顔をうずめてささやく。
「だってぇ……恥ずかしぃです……」
「えっ!? 夢があるのにここで言えないってことは……人に言えないほどのエッチな夢なんだ? 見かけによらずリノはすごいね」
「エッチな夢じゃありません! あたしはラースさんの、およ――」
「およ?」
僕の問いかけに、リノは火が出そうなほど顔を赤くすると、消え入りそうな声で呟いた。
「うぅ……ぉょ……めさんに……なりたぃです……っ」
火が出そうなほど顔を赤くすると、消え入りそうな声で呟いた。
あまりに可愛くて、僕は思わず抱き締めた。
腕の中でリノが「ひゃっ!?」と可愛い悲鳴を上げる。
そして僕は喜ぶ心を伝えるために、小さな耳元でささやいた。
「ありがとう……僕も同じ気持ちだよ。――リノが大人になったら、結婚しよう。必ずね」
「は、はいっ! ラースさん、嬉しいです――って、あたし、もう大人ですよっ!」
意外な言葉に、驚きの声が出た。
見た目的には、十代前半の小柄な少女にしか見えなかったから。
「えっ!? リノって何歳なの?」
「……11歳?」
「子供じゃん! 15歳以上じゃないと結婚できないよ!っ」
「じゃあ、15歳?」
「じゃあってなに、じゃあって……自分で勝手に決めてどうすんの――って、ああー、そうか! ひょっとして捨て子だから正確な歳がわからないんだ!?」
リノは悲しそうに眉を下げた。
「です。冬を11回越した記憶はあるので、11年以上は確実に生きてるんですけど……」
「じゃあ、鑑定眼――は、無理か。なにか確かめる方法を探さないとね。あっ! 冒険者になるのもありだね。確か年齢が自動的に記載されてたはず」
「そうなんですね……じゃあ、店が一段落して暇ができたら冒険者になってみます――でも、いいんですか?」
「なにが?」
「今の言葉、取り消してくれてもいいんですよ? なんだか流れ的に本当の年齢がわかったら結婚する、みたいになっちゃいましたし……迷惑だったら、取り消しでいいです。――だってラースさんにはもっと素敵な人がお似合いですから……スラム街出身の孤児なんて、そういう女性の扱いでいいんです」
リノが悲し気に微笑んだ。
それだけに本心で言ってるのがわかった。
――それが、もどかしかった。
僕は抱き締める腕に力を込める。華奢な体が柔らかく軋んだ。
「よくないよ。何言ってるの」
「あたしにとってラースさんは、命の恩人で神様なんです。だから迷惑はかけたくないです。――ラースさんには、あたしなんかよりもっと身分の高くて可愛い女性が似合うと思うんです」
「リノ以上に可愛い女性なんていないよ」
「お世辞はいいです。わかってますから」
リノはどれだけ自己評価が低いんだろう。
本気の言葉が伝わらない。
わかってもらおうとして、少し大声になってしまった。
「いやいや、わかってないよ! リノはめちゃくちゃ可愛いよ! 可愛いところだらけだよ!」
――しかし。
僕は本気で言ったのに、腕の中にいるリノはジトっとした半目になった。
疑いの視線で見上げてくる。
「ラースさん、それは言い過ぎです。あたしの可愛いとこなんて百個言えますか? 言えないでしょ――」
「えっ? たったの百個でいいの?」
「えっ!? なにを言って――」
なぜか戸惑うリノを、僕は褒めちぎった。
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