第26話 リノの機転
日が沈みかけるころ。
僕とミーニャは街の西のはずれにある四階建ての家に帰った。
一階に入ると、長い部屋の真ん中あたりに布の幕が垂れて仕切られていた。
布をくぐって奥へ入ると、リノが笑顔で駆け寄って来る。
「お帰りなさい、ラースさんっ。お姉ちゃん」
「ただいま、リノ」「ん、ただいま」
「店内を布で仕切ったんだね」
「はいっ。板で仕切ろうかと思ったんですけど、壁の色に合わせて色を塗ってもらったので、届くのは明日になってしまって。それで応急処置的に布で仕切りましたっ」
「うん、賢い。ありがと」
「はいっ」
リノは目を細めて頷いた。とても可愛らしい笑顔だった。
僕はダイニングのテーブル――といっても、元の食堂にあったテーブルをいくつか寄せ集めて一つにしたもの――に近寄って、今日の拾ったゴミを広げた。
武器が41本に、防具と道具が24個。
すぐに手を当てて、呪文を唱える。
「ヒールヒール、ヒール……」
唱えていると、隣にリノが小走りで駆けよってきた。
「うわぁ……今日もすごいですね……」
リノは感嘆の声を上げながら、ヒールで治った武器を手に取っていく。
「これは3万、こっちは25万……これはなんだろ、300万はしそうな剣ですね」
「そうなんだ?」
僕は価値がわからないので、あいまいに頷く。
「はい、特殊効果がよさそうですよ? ラースさんやお姉ちゃんは使わないんですか?」
「ん~、僕はナイフ一本あればいいかな」
「私も使い慣れた武器があるからいい」
「はーい。では、じゃんじゃん、店売り用に回しちゃいますね~」
リノは小さな紙片に数字を書き込むと、武器や防具にペタッと張り付けていく。
拾ってきたゴミは、最終的に1200万カルスぶんの武器防具になった。
僕とリノが服を一着、自分用に回しただけ。
残り全部、店売り用となった。
続いて、リノが笑顔になると元気に手を上げる。
「はーい! ――じゃあ次に、あたしが買ってきたものを見てくださいなっ」
リノは斜め掛けのショルダーバックから、次々と品物を取り出して並べた。
驚くことに1000個ぐらいあった。
――ん?
僕は首をひねった。品物のジャンルに偏りがあった。
「なんだか、壊れた眼鏡やルーペばっかりだね?」
「はいっ! ちょっと思うところがありまして! 町中どころか近隣の町や村を含めて買い占めてきました! ――さあ、さあ! ヒールしてくださいっ」
「う、うん――ヒールヒール……」
リノの元気な勢いに気おされつつ、ヒールを唱えた。
眼鏡ばかり集めてどうするんだろうと、疑問に思いながら。
次々と新品同様に戻っていく眼鏡やルーペ。
数が多いので、なかなか終わらない。
一方リノは、治した端から小さな手で取って真剣な眼差しで見ていく。
「違う……ダメ……これは? ――惜しいけど違う。うーん、違う……ダメ、ダメ、違う……ダメ」
なぜか、眉間にしわを寄せて、険しい顔で見ていく。
数が多いので、時間がかかる。
リノは真剣な表情で、可愛い顔を探偵のようにしかめて眼鏡を見ていく。
でも、なかなか終わらなかった。
――と。
970個目辺りの、取っ手の付いた拡大鏡――虫眼鏡を手にしたとき、リノが弾ける笑顔で叫んだ。
「あったぁぁぁぁ――っ!」
僕はびっくりして一歩下がりつつ尋ねる。
「ど、どうしたの、リノ?」
「これですよ、これ! ――ラースさんの欲しかった【鑑定眼】ですっ!」
「マジで!?」
「はいっ! だってこれ、2億カルスはしますよ!? ――はい!」
僕は受け取って、虫眼鏡を通して周囲を見た。
その瞬間、世界の光景が違って見えた。
――物品の【名称】【数値】【性能】【スキル】【金額】がすべてわかった。
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次話は夕方更新
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