第24話 親父の生きざま
店舗兼住居を激安で購入した後、僕とミーニャはダンジョンへ向かうことにした。
その途中、街の武器屋に寄った。
所狭しと武器の並ぶ売り場。
親父が僕を見るなり笑顔で接してくる。
「おう! 兄ちゃん、また来たな!」
「機嫌良さそうですね。どうしたんですか?」
「この間120万で買い取った剣――あの虹色に光るやつだ。あれがよ、168万で売れたんだよ。いやぁ、兄ちゃんさまさまだぜ。これからもよろしくなっ」
「あー、ごめんなさい。これからは武器防具を自分の店で売ることになりそうで、お礼とお詫びに来ました」
「なにっ!? どこでだい?」
「西の外れの、錬兵場のそばです」
親父が目を見開いて叫んだ。
「あんなとこでっ!? しかも、今の時期って! ――おめぇさん、噂聞いてなかったのかよっ」
「ああ、ダンジョンが崩れそうって。逆に買い時かなと思いまして」
「そういう考え方もあるかぁ。別に俺の財布は傷まねぇから、いいけどよぉ……まあ、ぼちぼち頑張んな。礼やお詫びはどうでもいいぜ。今はうちら冒険者相手の店は、それどころじゃないからな」
「はい、ありがとうございます……それで一つお願いがありまして」
「なんだ?」
「鑑定眼付きのアイテムが市場に出たら教えてほしいんですけど。今のどさくさで出てこないかな~と」
う~ん、と親父は腕組みをして顔をしかめた。
「そいつぁ、ちょっと難しいな。商売にも冒険にも役立つアイテムだからな。性能の悪いものでも飛ぶように売れる。なかなか市場には出回らないな」
「そうですか、残念……ちなみにどんな性能がいくらぐらいかわかりますか?」
今後の参考のために知っておきたかった。
親父が顎を撫でつつ話す。
「そうだな。品物の名前がわかるだけで500万、数値や性能がわかると1000万、スキル名までわかれば3000万、値段までわかれば1億、スキルの使用法までわかれば3億ってとこか」
「たっか! 想像以上の値段ですね」
「そらそうよ。名前がわかるだけでも汎用品か稀少品か、だいたい推測できるしな。同じことスキルで習得しようと思ったら、才能あるやつ――例えば俺がだな、6歳から働き始めて独り立ちしたのが十年前の35歳。約30年かかってんだぜ? 必要とする時間考えたら、それだけの価値があるってもんだ」
僕は肩を落として溜息を吐くしかない。
「はぁ……すごいです。諦めるしかないかな……掘り出し物があったら、教えてください。期待せずに待ってます」
「掘り出し物は俺が欲しいぐらいだがよぉ……まあ、ダメ元で知り合いにあたってみらぁ」
「お願いします。――あと、一つだけ。買取金額ってだいたい75%なんですか?」
僕は店を出ようとして、もう一つ気になったことを思い出したので尋ねた。
これから店をやるので買取の方法を知っておきたかった。
すると親父は丁寧に教えてくれた。
「そりゃ激レアユニークの値段だ。安く買い叩くと次から売ってくれなくなるからな。逆にどうでもいいノーマルは半値や25%でも充分だろ。店によっちゃ10%買取もある。まあ、ユニークは高く、ノーマルは安くが売買の基本だな」
「なるほど……ん? じゃあ、どうして僕らの時はあんなに安く買おうとしたんです?」
親父はニヤリと笑った。
「懇意に懇意になんて言ってたけどよ『どうせこいつらは次、うちの店へ売りに来ることはないだろうな』って直感したからだよ。どうだい、俺の勘は当たってたろ?」
――すごい、確かにその通りだ。
自分たちで店を買って商売敵にまでなったんだから。
さすがこの道40年のベテランだと思った。
僕は丁寧に頭を下げた。
「教えてくれてありがとうございます」
「おうよっ、このぐらいならいくらでも教えてやるぜ!」
その威勢の良さが、逆に不安に思えた。
どうしても尋ねずにはいられない。
「あの……おじさんは、ダンジョンがなくなっても、この商売を続けるんですか?」
「ふっ。当たり前だろ? ……俺はよぉ、これ以外の生き方知らねぇんだ。この小さくて賑やかな街が好きだしよ。ここで細々と生きていくさ」
親父は、肩をすくめつつニヒルに笑った。
それがとてもかっこよく見えた。
「そうですか……また来ます。ありがとうでした」
「おう! また何かあったら来てくんなっ――あの、ちっこいお嬢ちゃんとな」
「リノですね。機会があったら連れてきます」
どうやら一度会っただけのリノを気に入ったらしい。
買い叩きに気付いたリノを評価しているのかもしれない。
もう一度、頭を下げて僕らは店を出た。
◇ ◇ ◇
大通りを歩いてダンジョンへ向かう。
途中、家具屋に目が止まった。
店の入り口付近に天蓋付きのベッドが置かれていた。半額の札が出ていて安く売られている。
――リノはお嬢様のように可愛いから、天蓋付きの方が似合いそうだなぁ。
じっと見ていたら横を歩くミーニャが言った。
「さすがラース。繁殖に熱心」
「ちっ、違うって! リノが喜びそうだなって思っただけ!」
「ん。確かに喜ぶ。だったら買えばいい。いいものは早く売れる」
「う、うん。そうするよ」
僕は冷や汗を拭きつつ、店に入った。
手早く店員と交渉してベッドを買う。
夕方に配達してもらうことにして店を出た。
また大通りを歩く。
隣にはミーニャが澄ました顔で歩いている。
――彼女には焦らされてばかりだと、内心辟易した。
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次話は夕方更新。
→第25話 ダンジョン崩壊