第20話 店舗見学
街の朝。
ベッドが二つある広い個室で僕は目覚めた。
暖かでよい香りのするベッド。肌が少しくすぐったい。
――ん?
顔を横に向けると、目の前に美少女が目を閉じて寄り添っていた。
白い頬に長いまつげ。顔にかかる金髪が朝日を浴びて美しい。
子供のようにすうすうと可愛い寝息をたてている。
リノだった。
「えっ、なんで!?」
一つのベッドを僕が、もう一つをリノとミーニャが使ったはずだった。
なんで僕のベッドにリノが……!?
ふと部屋を見ると、開いた窓の傍にミーニャが立っていた。
「おはよう、ミーニャ。……なにかした?」
「二人が寝た後で一緒にしてみた」
「な、なんでそんなことっ」
「抱き合ってベッドで寝たら、絶対交尾すると思ったから」
「はぁ……普通に寝てたよ。変に気を利かせなくていいから」
「そう」
感情のこもってない声で答える。
まだミーニャは窓の外を見ていた。
「で、なにしてるの? 何か見える?」
「この部屋、守りにくい」
「え?」
「もっと守りやすい部屋か家がいい」
「警戒してくれてたんだ。ありがと。……そういう状況も考えないといけないか。じゃあ、今日は物件を見て回ろうか」
「ん。了解」
すると、隣で寝ていたリノが「んっ」と声を上げた。
寝ぼけて目をこすりつつ顔を上げる。
僕の顔を見ると青い目が丸くなった。隣のベッドを見てまた僕を見る。
しまいには赤くなった顔を、持ち上げたシーツで半分隠した。
「ふぇぇ……ラースさんと一緒のベッド……」
「おはよう、リノ。ミーニャがいたずらしたみたい。なにもしてないから安心して」
「……なんでなにもしないんですかぁ……そんなに、あたし可愛くないですかぁ……」
リノは自分の胸を見て、はあっとため息をはいた。
「え? いや、リノは可愛いよ。毎日眺めても飽きないぐらい可愛いよ?」
「うぅ……嬉しいです……あ、おはようございます、ラースさん」
「うん、おはよう。さあ、顔洗ったらご飯食べようか」
「はぃ」
リノはまだ恥ずかしいのか、シーツで顔を隠してもじもじしていた。
そんな仕草がまた、いつまでも見ていたいほどに可愛かった。
◇ ◇ ◇
その後、いつものご飯を用意して三人で食べた。
それから一階に降りてカウンターにいるステラさんに話しかける。
「おはようございます。今日は空きそうな物件を見て回りたいんですが」
「おや。この街で商売することにしたんだね。大丈夫かい?」
「心配してくれるんですか」
「いきなり破産されたら、こっちだって困るのさ――まあ、見ていこうかい」
「はい。お願いします」
フードを後ろにずらしたリノが傍へ来る。
「んんー、ラースさん。一緒に見て回っていいですか?」
「そうだね。街に長く住んでる人の意見が聞きたいかも」
「はいっ、任せてくださいっ」
ステラさんは外出中の立て札をカウンターに置くと、鍵の束を持って出てきた。
彼女の後について宿屋の外に出る。
リノは僕の隣に、ミーニャは少し後ろを歩いてついてきた。
まずは裏通りから街の中心を貫く大通りへ出る。
朝から人が出てにぎやかだった。
でも、にぎやかすぎるようにも感じた。
一軒の店の前ではのぼりが立っている。
「売りつくしセール?」
「ダンジョンがなくなりゃ、やってけないからね。さっさと売りきって、身軽に引っ越しする魂胆さ」
「街の暮らし、大きく変わっちゃいそうですね」
「この先どうなるか心配だよ」
ステラは困り顔で笑った。
そして別の店の前に来た。
「さあ、ここだよ」
ステラが手で示した先には、薬屋の看板が出ている。
乾燥した葉っぱやトカゲが天井から吊るされているのが見えた。
「大通りに面した立地。商売するにはもってこいの場所。奥が倉庫兼住居だね。二階と三階は別の店さ」
リノが眉間に可愛いしわを寄せて唸る。
「う~ん。ちょっと狭いですね。奥も狭いです」
「まあ、立地がいいからねぇ」
辺りを見回してさらに唸る。
「人通りも多い……高そうですね」
「まあ、交渉次第だが860万カルスってところかい」
予想以上の金額に、今度は僕が唸った。
「うぐっ、高い……足りるかな」
「えーと、昨日の残りを売ったら……少し足りないですね」
「まあ、大通りだからねぇ」
「一本裏の通りになれば安くなります?」
「そりゃそうさ」
するとリノが言った。
「店に並べる品物は自信がありますし、薄利多売な店ではないですから、奥まったところにあってもいいと思うんです。週に一度、いえ月に一度売れるぐらいでも、たぶんやってけます」
「なるほど。確かにそうかも」
ステラが目を丸くして驚いた。
「あんたたち、何を売る気だい? 犯罪はやめておくれよ」
「大丈夫です。まともな商売ですから」
「じゃあ、大通りから離れたところを紹介しようかね」
ミーニャが尻尾を揺らしつつ手を挙げた。
「待って。裏通りであまりごちゃごちゃしているのは危険。少し周囲から余裕が欲しい」
「ああ、守るためだったね」
「周囲の余裕ってなんだい?」
「隣が公園とか、川とか。逃走路を確保できる立地がいい」
ステラが疑わしそうに半目で見てくる。
「ほんとに犯罪じゃないんだろうねぇ?」
「違いますっ! 言い方が悪いだけで、まっとうな品物を売りますから!」
「あいよ。じゃあ、行ってみるかい」
ステラは肩をすくめつつ先に立って歩き出した。
その後、いくつか見て歩いたが、なかなか全員の納得する物件は見つからなかった。
「じゃあ、次に行ってみようかねぇ」
先頭に立ってステラが緑髪を揺らして歩く。
僕はその背中に話しかける。
「すいません。古い家や、廃屋も見せてもらえますか」
「なんだって? ――いいけどさ、変わってるねぇ」
リノが傍へ来て心配そうに見上げてくる。
「ラースさん。あんまり古いと手直しで余計にお金がかかっちゃう場合もありますよ」
「うん、わかってる。だからだよ」
「はぁ……ラースさんに考えがあるのなら、いいですけど」
「大丈夫だって。僕に任せて」
心配そうなリノの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
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次話は明日更新
→第21話 お買い得物件探し




