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第19話 交尾の波動

 夜。

 宿屋の二階にある部屋で、僕は喜びで泣くリノと抱き合っていた。


 僕を信じてくれる彼女が、華奢な体で抱き着いてくる。

 もう許されるなら、リノをポケットにしまって連れ去りたい。

 それぐらい可愛らしかった。


 ――と。

 目の端で何かが動いた。

 柔らかな金髪に顔を埋めつつチラッと見ると、ミーニャが音もなくイスから立ち上がったところだった。


 しかも床板をいっさい鳴らさずに、扉までしなやかに歩く。

 立て付けの悪い扉も、音を立てずに開けた。

 ――すごい。これが二つ名を持つ、強い冒険者の動きなんだ。



「って、ミーニャ。どこいくの?」


 僕は不思議に思って声をかけた。

 すると、彼女は肩で切り揃えた黒髪を揺らして振り返る。


「ん。私は空気が読める人」


「うん?」


「――交尾の匂いを感じる。だからしばらく出てくる」


「ちょ、ちょっと! なに言ってんの、ミーニャっ!」


 唐突な発言に顔が熱くなる。


 僕の胸に顔を埋めていたリノも、金髪を跳ねて顔を上げた。

 そして涙を散らしながら怒る。


「なんてこと言うんですか、お姉ちゃん!」


「ん? 違った? ――でも……」


 ミーニャが整った鼻で、部屋の匂いをくんくんと嗅ぐ。

 そして、ぐっと握った拳を前に突き出して言い切った。



「この匂い――間違いなく、交尾!」


「断言しなくていいから!」


「そうですよ、お姉ちゃん!」

 

「そんなこと言われたって、リノも困るだろうし」


「えっ――」


 僕を見上げるリノの顔がみるみる赤くなっていく。

 小さな両手で胸にお金を抱いたまま、恥ずかしそうに視線を逸らす。


 ――えっ、なにこの反応!?

 

 なんだか僕まで恥ずかしさが感染して、慌てて体を離した。


「き、気にしないようにしよう」


「は、はい。そうですね、ラースさんっ」


 リノはお金をいそいそとショルダーバッグにしまった。


 ミーニャが「そのまま抱き合ってベッドに倒れ込めば、確実に交尾になるのに」と言っていたが聞こえない振りした。



 僕は熱い顔を手で扇ぎつつ、部屋に置いていた鞄まで行く。


「そうだ、荷物をマジックバッグに移し変えよう……あ、ご飯食べてく?」


「あ、はい。食べますっ」


 リノが少し上ずった可愛い声で答えた。 

 僕は手早く夕食の用意をしていく。

 パンやチーズを切っては、ヒールをかけて元通りにした。


 見ていたミーニャが黒い目をまん丸に見開く。


「ありえない」


「そうかな? 便利だからみんなもすればいいのに」


 そう言うと、なぜかミーニャは無言のまま「ふっ」と鼻で笑った。



 食事の用意ができると、リノが金髪を揺らしてテーブルに座った。


「ラースさんの食事、とってもおいしいんですっ」


「いいパンだからね。ああ、そうだリノ」


「なんですか?」


「よかったら、これから毎日、ご飯を一緒に食べない?」


「えっ」


「リノと一緒に食べると、なんでかわからないけど、とてもおいしくなるんだ」


「まい……にち……それって……」


 またリノがおろおろして泣きそうな顔になる。

 

 ――え、今は変なこと言わなかったよね?


「いやなら、いいけど」


「ううん、あたしもラースさんと一緒に食べるご飯、好きです。とっても嬉しいですっ」


「よかった。じゃあ、そうしよう」


 僕らは見つめあって微笑んだ。

 リノが心から嬉しそうに笑っていた。



 するとミーニャが傍に来てテーブルに座った。

 黒いしっぽを揺らしながら淡々とした声で言う。


「もう、一緒に住んだらいい」


「ええっ!?」


「お、お姉ちゃん! まだ会って三日目なんだから、そういうのは早いですっ」


 僕とリノは顔を真っ赤にして否定した。

 うるさかったのか、ミーニャは頭の上の猫耳をぺたっと伏せる。


「二人とも勘違い。ラースはお金を持ちすぎてる。強盗に襲われたら危ない」


「ああ……確かに」


「そ、そうですね。ボディーガードがいりますね」


「じゃあ……一緒に暮らす?」


 僕が尋ねると、リノは泣きそうな笑顔でうなずいた。


「はいっ! ふつつかものですが、よろしくお願いしますっ」


「なんだか、その言い方……ううん、ありがとう」


 僕はテーブルの向かいに座るリノに手を伸ばした。柔らかな白い手を握る。

 彼女も頬を染めて、ぎゅっと握り返してくれた。



 ――と。

 ミーニャがパンにチーズとソーセージを器用に乗せて食べながら言った。


「また交尾の匂いを感じる」


「ちょっと!」


「お姉ちゃん!」


「交尾の時は、横で手拍子してあげるから、がんばって」


「もう意味わかんないですよぉ、お姉ちゃん……」


 リノが泣きそうに顔をゆがめた。



 ――ひょっとして、からかっているのだろうか。

 パンにかぶりつく無表情なミーニャは、感情が読めなかった。


 その後、三人で泊まれる部屋に交換してもらって移った。

 ステラさんに「若さってすごいわね」と変なことを言われた。

今作品のスターシステムキャラ「猫獣人ミーニャ」は、コメディーリリーフ。


ブクマと★評価ありがとうございます!

日間ジャンル別3位、総合5位になりました。

皆さんの応援のおかげです、ありがとうございます!


もし面白ければ、↓の★評価お願いします!


次話は夕方か夜更新。

→第20話 店舗見学

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作者の別作品もよろしく!
日間1位! 週間1位! 書籍化!
おっさん勇者の劣等生!~勇者をクビになったので自由に生きたらすべてが手に入った~最強だと再確認したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い!
 結果を出してたのに評価されなくて追放されたおっさん勇者が、再評価されるお話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 横で手拍子は草
[一言] 児童ポルノを臭わせる表現はやめてほしい
[一言] これは嫉妬マスク案件ですな。
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