第18話 リノの感激
本日2話目。
宿屋の二階。
僕の泊まってる部屋でベッドの上に拾ってきたゴミを広げた。
壊れた武器や防具にヒールを唱えていく。
「ヒールヒールヒール……」
今日の収穫は 武器が23本。防具と道具が15個。
リノは治した武器を手に取っては、指先で刀身をなぞってはコンコンと叩いていく。
「今日もまた……すごいのばかりですね……」
「そうなんだ。いくらぐらいになりそう?」
「これが4……20……53……115……141……うーん、300、450……全部でだいたい1920万カルスでしょうか」
「1920万!? なんで!?」
リノが大きな背負い袋を、ひょいっと手に取って掲げた。
「このマジックバッグが1400万します。たぶん」
「それ一つで!?」
リノがバッグの中に細い腕を突っ込んで、ぐるぐる回す。
「これ、全種類のアイテムが馬車2台ぶん入って、中の時間が流れないので、やばいぐらい高いです」
「なんで……あ、新鮮な魚を買って、奥地まで持っていけば儲かる?」
「はい。ほかにも香辛料でも、日持ちのしない名物菓子や特産物でも、なんでも。鞄一つであっちの国からこっちの国へ持っていけば、たぶんすごいお金儲けになると思います。馬車2台ぶんの量ってのが、またやばいです」
「商人が欲しがるね」
「はい。高くても、相場がわかってる商人なら、すぐに取り返せるでしょうね」
「これってマジックバッグの最高級品?」
「ん~、これよりすごいのは荷馬車10台や20台ぶん入るバッグがあるって聞いたことがあります。それはもう、億いくと思います。一人でキャラバン状態ですから」
「すごい……でも1400万かぁ……破れちゃってたけど、冒険者でこんな高級品使ってたなんて……きっと名のある冒険者の持ち物だったんだろうね」
僕は感心して、素直な気持ちを口にする。
それなのにリノがジトっとした半目で呆れ返った。
「これほんと、どう信じさせたらいいんだろ……」
「え?」
「いや、いいです。こっちの話です。でもこれ、買い取れる人、なかなかいないかと。王都でオークションに出すほうがいいかもです」
「あー、そりゃそうだよね。そんな大金、すぐには用意できないか。じゃあ、しばらく僕が使おうかな」
――ゴミ拾いに使えそうだ。
中身より、外の方が高くなってしまうけど。
リノが金髪を揺らして大きくうなずいた。
「それがいいかもしれません。あまり人には言わないようにしたほうがいいです」
「わかった。……あとはみんな、使いたいものある?」
「ん~。お姉ちゃんは、このチェインメイルとかどうかな? 青くてきれいですよ?」
「音がするのは嫌い」
「そっかー。ラースさんは? 深いところまで潜ってますよね? 防御力上げたらどうですか?」
「確かになぁ……ミーニャがいつも守ってくれてるけど。まだダンジョンが壊れないなら、明日は地下八階に潜りたいし」
「じゃあ、着ちゃいましょう。たぶん堅くなるやつです、これ。見た目より軽いですし――あとお姉ちゃんは、こっちの……なんか、変わった服ですね。どうかな?」
リノがベッドの上に服を広げた。
赤い布の服だけどもボタンではなく、帯で縛って止めるタイプだった。
指先で模様をなぞり、または生地の摘まんで厚みを調べる。
横からミーニャがしなやかな手つきで服を撫でた。
「着物っぽい。――高い?」
「何かわかりませんけど、280万カルスはしそうです」
「ふぅん。音はしなさそう……でも」
悩んでいる様子。
僕は後押しするつもりで気軽に言った。
「色的にも、ミーニャは色白で黒髪だから、赤色が似合いそう」
「着る。使う」
「あっ、決断早い」
ミーニャが服を手にとって胸に当てた。裾が少し短いかなと思ったけど、似合いそうだった。
「ん、よさそう」
着こなし方の確認のためか、テーブルに座ると広げていろいろ触っていた。
あとは適当にいくつか装備を分配した。全員が上から下まで迷宮産のゴミ品になった。
余った武器防具を背負い袋式のマジックバッグにしまう。
「すごい。全部入った」
「大容量です! ――じゃあ、次はあたしの拾ってきたもの、お願いします」
続いて、リノがショルダーバッグから布切れや人形、ガラス片などのゴミを広げた。
僕は手を当ててヒールしていく。
「ヒールヒールヒール――っと」
「あぁ……やっぱり安いですねぇ……ラースさんの収穫と比べると、ですけど」
リノが悲しそうに眉を寄せた。
気になったので尋ねる。
「いくらぐらい?」
「6000カルス、ぐらいでしょうか?」
「でもぶっちゃけゴミ漁りで金貨6枚ってすごいよね」
「ほんとそうです。ラースさんのおかげです」
「金銭感覚がおかしくなるね」
「あっ、でも。明日からはもっと減りそうです。そうそういいゴミなんて出ないので」
「そりゃそうだ……あー、だったら、考えてたことがあるんだけど、リノにお願いしていいかな?」
「はい、なんでしょう! なんでもしますよっ」
リノがバッグに小物をしまいつつ元気な笑顔で答えた。
「ゴミ漁りでいいもの拾えそうになかったら、中古品店や古着屋、古物商にジャンク屋を回って治したら売れそうなもの見つけてきて欲しいんだ」
「はい、できますっ。メモ取ってあとで教えますね」
「いや、それは二度手間だし、売れたら困るからリノに任せるよ……はい」
僕は細かい貨幣も含めて、合計20万カルスをリノに渡した。
リノは小さな手で受け取ったものの、青い瞳を丸くして驚いている。
「へっ……なに……」
「そのお金で買い取ってきてね」
「えっ……えっ……」
リノはお金を握りしめたまま、挙動不審になった。落ち着かない様子でおろおろする。金髪が豊かに揺れていた。
「どうしたの、リノ?」
「だって……だってぇ……あたしとラースさん、出会ってまだ三日なんですよぉ……」
「言われてみればそうだったね。――なんだかずっと昔から一緒にいる気になってた。でも、それが?」
リノの目に涙がたまっていく。
「どうして、あたしをそんなに信頼できるんですかぁ……スラムの住人で、孤児で……あたし、あたしっ」
「そんな。リノには助けてもらってるから、信頼するのは当然でしょ。僕だって孤児だし」
「お金を預けるって、しかもこんな大金を……相手をよっぽど信頼してなきゃ、できないのに……」
僕は当たり前なことを聞くなぁと思いつつ答えた。
「リノがいたからお金を稼ぐ方法がわかったんだし。リノと出会えなかったら、今頃山の中で自給自足の生活してたよ。だから泣かないで」
――それにお金を稼ぐ方法がわかったんだから、持ち逃げされてもどうってことなかった。
また稼げばいい!
それなのにリノがお金を胸に抱いて泣き出した。青い瞳からぼろぼろと涙がこぼれる。
「ラースさぁん、あたし、絶対、裏切りませんからっ。一生、裏切りませんからっ」
「大げさだなぁ……でも、ありがと。これからも仲よくしようね」
「ラースさぁんっ!」
リノは僕の胸に飛び込んできた。顔をこすりつけて声を上げて泣く。
僕は華奢な体に手を回して、慰めるように優しく抱きしめた。
リノみたいないい子を信頼しない方がおかしいと思うんだけど。
最下級のヒールしかしてないのに、こんなにも親身になってくれる。
村の人たちは優しかったけど、リノほどじゃない。
それに、なんだろう?
――リノなら裏切らない気がする。信じても良い気がする。
初めて、心から気を許せる人に出会えたのかもしれないなぁ。
……いや、違う。
初めて「この人になら裏切られたってかまわないや」と思える人に出会えたんだ。
きっとリノになら、何されても許せるんじゃないかな?
そう思ったら自然と口から言葉が出ていた。
「リノ、ありがとう。一生裏切らないって言うなら、ずっと僕のそばにいて欲しいな」
「え――はいっ! ラースさん! ラースさんのためにずっといますっ。あたしにできること、なんでもしますからっ!」
青い瞳に涙をためて僕を見上げる。なだらかな頬が喜びで紅潮していた。
僕は腕に力を込めて、小柄で華奢な彼女を抱きしめる。
金髪に頬ずりすると、花のような香りが漂った。
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タイトル案、いろいろありがとうございます。僕は無自覚癒し系とか。
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