第17話 崩壊の余波
夕暮れ時。
僕とミーニャはダンジョンから戻ってきた。
街を歩いているとリノが首元で止めた外套をはためかせて駆け寄ってきた。フードで顔を隠している。
「ラースさんっ、お姉ちゃん! お帰りなさいっ」
「ただいま、リノ」「ん」
リノが僕に抱き着いて、青い瞳で見上げてくる。ただし、可愛い顔は曇っていた。
「ごめんなさい、ラースさん」
「ん? どうかした?」
「あんまりいいの拾えなかったです」
「それは残念。でもこっちは昨日よりも拾えたから、また助言お願いね」
「はいっ、任せてくださいっ」
リノが細い腕でぎゅっと抱き着いて、見上げる顔を輝かせた。
そんな仕草がまた可愛らしかった。
僕は心を抑えつつ、優しく金髪を撫でた。彼女の髪の毛が指に柔らかく絡んだ。
その後、ギルドに寄って魔核や素材を売り払った後、ステラの宿屋に向かった。
◇ ◇ ◇
街の裏通りにあるステラの宿屋に入った。
すると、カウンターにいる緑髪のステラが声をかけてきた。
「ああ、ラース。いいところに。空き物件が出そうだよ」
「えっ、本当ですか!? どこです?」
「あちこちたくさん、だねぇ」
「たくさん……急にですか?」
「ダンジョンが壊れるって噂がもう広まってるのさ。そうなったら冒険者相手の商売は閑古鳥確実じゃないか」
「ああ、そうかぁ」
「ダンジョンマスターが消えても維持されてるってことで、穴場的な稼ぎ場になって商売繁盛させてもらったけど。それも終わりだねぇ」
ステラは肩をすくめた。緑髪がふわりと揺れる。
僕はリノとミーニャを見た。
「どうしよう……」
「ん。ラースが決めること」
「う~ん……難しいですね」
リノも眉間に深いしわを寄せて唸っていた。
ステラが言う。
「店を出す場所、もっと考えたらどうだい? 住人相手なのか、冒険者相手なのか。この街じゃなくても王都ならダンジョンあるし冒険者も多いけどねぇ」
「確かにそうかも」
「でしょう。王都のいい物件紹介できるんだよ、うちは」
僕は考える。
――ダンジョンが使えなくなったら冒険者はいなくなる。
ゴミが拾えなくなるし、治した武器防具を売る相手もいなくなる。
いや、まてよ?
この状況、使えるんじゃないかな?
今欲しいものは、店と鑑定眼。
うまくやれば手にはいるかもしれないと考えた。
僕はリノに尋ねる。
「リノはどう思う? この街と王都、どっちがいい?」
リノは細い顎に手を当てて、ますます深く考えていた。ぶつぶつと独り言をつぶやく。
「確かに、王都がいいかも。でもラースさんの中古品はすごい……仕入れ値がタダ同然だから、一つ売れただけで月の売り上げはクリアできるはずだし……むしろ物件が安く手に入るなら、あり? ――ステラさん、物件の相場は安くなってますよね?」
「そうさね。半額の投げ売り状態だよ」
「ラースさん、買っちゃいましょう! ラースさんの扱う物品は価値が高いですし、それだけで人を呼べます! 場所は関係ないです!」
リノは金髪を乱すように揺らして勢いよく言った。青い瞳が真剣だ。
――僕としてはどっちでもいいんだけど。
失敗しても、いい経験になるかな?
ここのダンジョンに潜れなくなっても、王都のダンジョンでゴミ拾いすればいいわけだし。
僕は笑顔で頷いた。
「うん、わかった。リノのためにも店を買おう」
「はいっ! 絶対損させませんからっ!」
ステラさんが言う。
「じゃあ、物件をまとめとくよ。いつ見に行くんだい?」
「できるだけ早いうちがいいですね。明日はどうですか?」
「あいよ、わかったさ」
僕らはカウンターを離れて、二階へと昇る階段へ向かった。
ブクマと★評価ありがとうございます!
ジャンル別日間5位、総合10位に入ってました! 応援ありがとうございます!
面白いと思ったかたは↓にある★評価を入れてくれると嬉しいです!
次話は夜更新
→第18話 リノの感激