第16話 壊れるダンジョンとミーニャの願い
朝食を食べてリノと別れた後。
僕はミーニャと一緒に街の郊外にあるダンジョン入り口に来た。
すると十人ぐらいの冒険者たちが、がやがやと騒いでいた。
爽やかな朝日の降る中、暇そうな一人の男冒険者に尋ねる。
「どうしたんですか?」
「ダンジョンが崩れ始めてるってよ」
「えっ!?」
衛兵が声を上げた。
「ここのダンジョンはもともとダンジョンマスターが倒されて不在だったんだ。それで低活動状態だったんだが、ついに崩壊が始まった。入ってもいいが、命の保証はないぞ!」
――とても困った。
ダンジョンで拾ったゴミだから、品質が良くて高値で売れるのに。
僕は傍にいるミーニャに尋ねる。
「ゴミを拾うだけなら、ささっと行って帰ってこれないかな?」
「戦闘がメインじゃないなら、できる」
「じゃあ、急いで避難場所になってる階段部屋や休憩部屋へ急ごうよ」
「わかった」
僕とミーニャはダンジョンへ入った。
地下五階までは速足で駆け抜けて、地下六階からゴミ漁りを開始した。
地下五階までは階層が下がるにつれて5部屋ずつ増えていたが、地下六階からは倍々に増えていくらしかった。
つまり地下五階が25部屋。地下六階は50部屋。地下七階は100部屋。それらが迷路のような通路でつながっている。
地下十階は理論上800部屋もあるそうで、ダンジョンマスターが倒された後もまだすべては攻略されていなかった。
魔物はミーニャが倒していく。
僕は後ろについていって魔核やゴミを拾いつつ、さらに地下六階の探検を続ける。
それにしても、と思う。
どんなモンスターが出てきても瞬殺するミーニャの強さに疑問を持った。
――どうして初心者向けのダンジョンがあるこの街にいたんだろう?
気になったので、魔物を倒し終えて一息つくミーニャに尋ねた。
「ねえ、ミーニャ。ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
「何から聞こう……そうだね、ミーニャの目的ってなに?」
「ん。それはもう終わった」
「え?」
「自分の身体の回復と、痛めつけた奴らへの復讐。ラースのおかげで終わった」
「あれかぁ。――うん、ミーニャを元気にできて良かったよ」
「ありがと」
ミーニャが黒くて長い尻尾をピーンと立ててお礼を言った。
無表情だけど、なんだか猫みたいで可愛い。猫だけど。
僕は頬を掻きつつも尋ねる。
「どうしてこの街にいたの?」
「ん。探しに来た」
「なにを?」
「なわばり」
「なわばり!?」
ミーニャの口からすごく動物っぽい単語が飛び出したので驚いた。
けれども彼女は、さも当然のように淡々と答える。
「仲間、飼い主、ご主人様、もしくは家」
「んん……? あっ、ひょっとして居場所が欲しいの?」
「人間的にはそうとも言う。あのパーティーは私の居場所じゃなかった」
「そう、だよね。……ひどい奴らだった」
僕の言葉にミーニャがこくっと頷く。
「騙されてた。いいように使われてるだけだった。一番大変な役はいつも私。だから結果的に私が一番強くなった。そしたら逆恨みされて邪魔者扱い」
「……そっか、リノを庇ったうんぬんは、ミーニャを痛めつける口実だったのかな」
「たぶんそう。でも、もう気は済んだ」
「じゃあ、次は新しい居場所だね。新しいパーティーとか」
僕の言葉に、ミーニャの猫耳がピコッと立つ。
まん丸な黒い瞳で僕を見てくる。
「ラースは私のこと嫌い?」
「ううん、嫌いじゃないよ」
「じゃあ、今のままでいい」
ミーニャは穏やかに尻尾を揺らしつつ淡々と答えた。
あまりにも素直な言い方に、僕の方が申し訳なくなってくる。
「う~ん……嬉しいけど。僕なんかと一緒でいいの? パーティーとしては、僕は全く役に立ててないし……ミーニャの強さならもっと強いパーティーで、強いダンジョンに潜ったほうがいいんじゃないかなぁ」
「なぜ?」
「いっぱいお金稼げそうだし」
「ラースにくっついてた方が儲かる」
「そうなの!? ――まあ確かに壊れたアイテム拾って治して売るのって、結構な丸儲けだよね……ほかには冒険者として、難易度の高い試練を攻略する喜びとかは?」
「何もしないラースを守りつつ敵を倒すのは、なかなかの難易度」
「ぐっ。何も言い返せない」
本当にそれでいいのかと悩んでしまう。
でも、人間と猫獣人は考え方も違うようだし、英雄になりたそうなタイプでもないし。
ミーニャ的には今の生活でいいのかな?
考えていると、ミーニャがじーっと獲物を観察するかのように黒い瞳で見つめてきた。
「ラースは私のこと好き?」
「す、好きだよ」
「じゃあ、今のままがいい」
ミーニャはそっけなく答えた。でも長い尻尾は嬉しそうに揺れている。
――なんだか、すごく信頼されているのだけはわかった。
ヒールしかできない役立たずの僕に、そこまで思ってくれるなんて。
その気持ちが嬉しかった。
「わかった。ミーニャにとってもいい場所になるよう、僕は頑張るよ」
「ありがと。――ん、また敵」
ミーニャはスカートを颯爽とひるがえして、魔物へ向かっていった。
それからしばらくして。
地下7階を漁っていた時だった。
周りの石造りの壁が、ミシミシと音を立てて軋み出す。
地震のように揺れていた。
しばらくして音が止まる。
なんだか嫌な気配がしていた。
ミーニャが猫耳をピピっと動かして警戒しながら言う。
「大丈夫だと思う。けど、下に行くのは危険。――どうする?」
「じゃあ、この階だけゴミ拾いして、そして帰ろう」
「わかった」
僕らはダンジョン崩壊に注意しつつ、探索を続けた。
――何か、別の稼ぐ方法を考えないと、まずいかもしれない。
そんなことを考えながら迷宮のゴミ漁りを続けた。
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あとタイトルやっぱりパクリすぎててヤバいでしょうか?
『最弱ヒールで無自覚チート!~村を……以下同じ~』とか。
他にも良いタイトルのアイデアがあれば、お願いします!
次話は明日更新。
→第17話 崩壊の余波