第12話 初売却
本日2話目
夕暮れの街。
僕らは余った武器防具を持って、武器屋に向かった。
大通りに面したそこそこ大きな店。
店内は、様々な武器が置かれていた。壁には高そうな剣が掛けられている。
店の奥にあるカウンターには髭面の親父が座っていた。
「いらっしゃい。何にするかい?」
「買取希望なんだけど……」
「あいよっ、いいものバンバン買い取らせてもらうぜ!」
ついっとミーニャがすました顔で前に出た。
「できれば、これからも懇意にしたい。……誠実に対応してくれるなら」
「おうよっ! 任せておきなっ」
「じゃあ……」
ミーニャが黒髪を揺らして僕を見た。
僕は答えるかのように、店のカウンターへ持ってきた武器と道具を並べた。20品ほど。
親父が目を見張る。
「な、なんじゃぁ、こりゃあ! ――名のある逸品ぞろいじゃねぇか!」
「えっ、そうなんだ……」
さすがダンジョンで拾った武器防具。
やはり冒険者たちは良い装備をして探検してたんだと思った。
僕の治した武器が、次々と鑑定されていく。
「こいつぁ、投擲ダガーだな! 【命中上昇】がついてる。5本セットで4万カルスになるな。こっちはスティングレイピアか。【即死攻撃】付き? 11万カルスでなら買い取らせてもらう……こっちは……」
親父は次々と鑑定して、買取金額を告げていった。
なんだか、驚くほどの金額が述べられて本当なのか疑うぐらいだった。
最後に親父は言った。
「全部で、色も付けて80万カルスってところだ。これで、いいかい?」
すっご。
大金に眼がくらみそうになった。
ところがリノが横から口を挟んできた。金髪が怒ったように揺れている。
「おじさん。だいたいの金額は良かったですけど、この剣が20万カルスってのは納得できません。買取金額は譲れないって言うのなら、この剣は抜いて再計算してください」
リノが指さすのは、素人目に見ても威圧感のある、あの虹色の光を放つ直刀だった。
ミーニャも黒い瞳に冷たい光を宿して親父を射る。
「言ったはず。これからも懇意にしたいなら誠実に対応して、と」
親父が、うっと息をのむ。
「い、いいぜ……もう一度見てやらぁ……おっ! おお! こいつあ【聖撃付与】【切れ味永続】【追加斬撃】【攻撃力上昇:大】【速度上昇:中】【英雄視:小】が付与された逸品だな! すまねぇ、見落としてたようだ。こいつだけで120万カルスで買い取らせてもらう」
――えっ! 高すぎない……!? 小さい家を買える金額だよ!?
僕は驚きすぎて何も言えなかった。
けれどリノは細い顎で、こくっと頷く。
「それなら、よいと思います」
「ん。許す」
ミーニャも尻尾を揺らして淡々と答えた。
僕が戸惑っているうちに、親父さんは180万カルスぶんの金貨を持ってきた。
「手持ちが少ないんで、細かくなっちまうが」
青い光を放つ手のひらぐらいの大きな金貨――100万カルスの価値がある大聖金貨と。
20万カルスの価値がある聖金貨3枚。
そして大金貨9枚に普通の金貨20枚。
それらがカウンターにじゃらっと並べられた。
僕は初めて見る金貨ばかりだった。
そして店を後にした。
夜の街を僕らは歩く。
けれど地に足がついていない。
なんだか夢見心地だった。
一気に大金持ちになってしまった。
――でも、と思う。
いきなり騙されそうになった。
物品を売買する商売をするには、鑑定スキルか鑑定眼が付与された魔道具が必要だなと痛感した。
僕は隣を歩くリノを見る。
「リノ、助けてくれてありがとう」
「いえ! ラースさんの役に立ててうれしいですっ」
「……これからもお願いしてもいいかな?」
「はいっ、もちろんです! ラースさんの力になれるだけで、あたしは嬉しいですからっ」
リノは金髪を跳ねさせて笑顔で言った。僕を見上げる青い瞳が、どこまでも実直で可愛い。
――ミーニャがいなかったら、抱きしめたいぐらい、可愛い。
さすがに自重した僕は、リノの金髪を撫でる程度にして宿へと帰った。
ブクマありがとうございます。
次話は明日更新
→第13話 リノとミーニャ