「君へ、想いを伝えたくて ~夢より~ 」
実際に私の見た夢から、細かい部分を繋げて創作をして、書きあげました。
女性が俯いて、街を歩いている。その手には大きなスーツケース。
都会の大通りのモニターを前に、信号を待つ女性。
突然モニターが、広告から今、売れている青年グループを映し出す。
彼らの名前は、【echo harmony Boy`s7】。
略して、【エハモ7】。
女性はそれを観て、痛々しい顔をする。
一人の青年を顔を見つけて、特に。
彼らは、地方の田舎から、ある日突然デビューをした、期待のシンデレラボーイズ。とすら言われていた。
女性は、その地方の田舎の出身だった。
だから、女性は、彼らをよくよく見知っていた。
同じ学校、同じ学年、同じクラス……。
知り過ぎているくらいの仲だった。
「キャー!」
「キャー、【エハモ7】よ‼」
「わたし、サムくん好きー!」
「キャ~!ヤシンく~ん!」
ハッと歓声に、我に返る女性。
彼らの存在は、女性にとって、夢の欠片が胸を刺すような存在だった。
女性は踵を返して、スーツケースを転がして、別の道から駅を目指すことにした。
新幹線に乗った女性は、ぼんやりと外の流れる景色を眺めている。
ピロン♪
携帯の着信が鳴る。
女性はスマートホンを見る。
【エハモ7】のヤシンこと○○○だった。
みんな、本名などは伏せて活動していた。
動画メッセージだった。
『○○○さん……。君が、夢破れたことは僕等7人全員が、実は知っている』
「…○○○くん…」
『だが、俺等のことは嫌いになっても、アイツのことだけは、嫌いにならないでくれ!』
「○○くん……」
“アイツ”が、誰かを示しているかを理解して、女性は先程の痛々しい顔を、もう一度する。
胸が、ずきりと痛む。
『地元の駅に着いたら、この動画を、』
「?」
『見てくれ!』
そして、エハモ7のあの人を除いた6人が映る。
『『『お願いします‼』』』
女性は、ピッ、と動画を止め、下を向く。
その目から、涙が一滴流れ落ちた。
地元の駅前の商店街は、もう夜の賑わいを見せていた。
スマートホンを気にしていた女性は、あるデパートの前の像の所のベンチに座ると、我慢しきれなくなったかのように、○○○から送られた動画を見始めた。
それは、再現VTRのようだった。
エハモ7の彼らが、放課後、一人の少女が見守る先で、ダンスと歌を踊っている。
そのズームが一人の少年に絞られる。
やがて、物語は始まった。
男の人の、懐かしい優しい声が、ゆっくりと流れ始める。
俺は、そもそもこの道を目指してなかったんだ。
スポーツ科学を学びたかったんだ。
だから、大学生になる前に、このグループを一度は抜けたんだ。
大学生になって、さらに地方の県にある大学に合格して、念願のスポーツ科学を学び始めたんだ。
だが、ゼミの教授と馴染めなかった。
すぐに、大学を辞めた。
他の大学に編入したけれど、そこも……同じような理由で、駄目だった。
俺には、向いてなかったのかもな。
何かが、欠けたような毎日を過ごし、俺は、地元に戻って、アルバイト生活を始めたんだ。
ある時だった。
バイトの休憩時間になって、店の外に出た俺は、懐かしい声を聴いて、思わず振り返った。
君だった。
君は、地元の大学に進んだんだったな。
「スーちゃん、久しぶり!」
「○○ちゃんも、久しぶりー!」
君、○○○と、その友達のようだった。
さらに、回想は続いてゆく……。
あの時も、僕はバイトをしていたね。
君が、僕の休憩時間を待っていて……
「○○○!終わったよ……」
「久しぶりだねー」
「○○先輩も、お久しぶりです」
君が、知らない男と話をしていた。
そして手を繋いだ。
「!」
「!」
君がハッとして振り返り、驚いた表情をする。
「違うの!○○○○くん!」
「何が、……止めてくれ!別れよう!」
僕は叫んだ後、別の店と店の路地裏をでたらめに走り抜けて、あるモニュメント広場に行き着いた。
雨が降ってきた。
雨に打たれていた俺に、ヤシンこと○○○が、同じく傘も差さずに、現れた。
一部始終を見ていたらしい。
「……○○○○、悪い、アイツ、俺の後輩なんだが、○○○さんに好意を持っていたらしくて。紹介するんじゃなかったよ……」
「もう……いいよ…いいんだ……」
俺は、涙とともに、恋心全てをも、洗い流してしまった。
そこまでの回想に、女性は涙して、立ち上がる。
確かにあれは誤解だった。
いきなり手を握られたのだ。
……誤解は解けなかった。
ベンチから、ふらふらと離れ、女性は、○○○○との想い出の場所を、自然と歩き出していた。
公園、アルバイト先の店の前、商店街……
スマートホンの動画は流れたまま、
涙も流したまま、
泣きながら歩く女性に、すれ違う人や見かけた人々が不審な目を向けるが、気にしている余裕はなかった。
……俺は、君を久しぶりに、見た。
笑顔も、話し方も、昔のまんま。
そこに、成長したあの男も、また現れた。
俺は、悪夢の再来かと思った。
「昔は、ごめんなさい!」
男が謝った。
俺は全てを、やっと理解した。
「私、まだ、あの人のこと……。あの人の歌っている声が、聞きたいの……!」
君の言葉に、僕は、俺は、ハッとした。
そこで俺は、もう一度○○○たちと連絡を取って合流し、夢をもう一度、追いかけ始めた。
夢を追いかけて、がむしゃらに、
頑張って、頑張って、
君に、この動画を、贈ろうと決めた。
だから……
『「ここに来て欲しい」』
ピタリ。
女性は、とあるモニュメントの前で、足を止める。
声を、重ねる。
しかし、誰も、いない。
真っ暗な、モニュメント前広場には、誰も。
女性は、へたりと座り込んで、目を閉じる。
しばらくして、
隣に、
誰かが座った様だ。
ハッとする。
顔を上げて、目を見開く。
彼、○○○○だった。
「……ずっと、私のこと、想ってて、くれたの……?」
「ずっと、君のこと、想ってた」
「ここね」
「え?」
「俺らの、デビュー曲のPV撮った場所だよ」
「うん……」
涙でくしゃくしゃの顔で、女性は頷く。
そして、
「好き‼」
「ああ……」
二人は、固く抱き合った。
どこからか、優しいハーモニーが流れてきたのでした……。
切ない恋物語となっていれば、嬉しいです。
個人的に、【エハモ7】気に入っています。