それでも彼女は彼女なので
いまさらですが「それでも彼が好きなので」番外編です。これ以上おまけを作る予定はないです。
一応、これだけでも読めなくもないとは思うのですが、あくまで私基準なので、本編の方を呼んでいただくことをオススメします。
誤字報告ありがとうございました
困るわ。困惑よ。
今、私が扉を開けた部屋の中には九人の殿方がいるわ。そして、その全員が気が抜けたような顔をしておられる。何かあったことは間違いないわ。衝撃のあまり、私達が来たことにも気づいていない様子。
さて、突然こんな場面を紹介されても困惑のお裾分けなだけですから説明をするわ。
まず、私の名前はマライアというわ。そして恐れ多くもエミール王子殿下の婚約者をさせていただいてますの。いわゆる政略結婚とか言うやつね。
殿下とはそれなりに仲良くしていましたのよ。しかし、学園に入ってからそれ変わってしまったわ。殿下は男爵令嬢のフローレンさんに夢中になってしまったの。
でも、まぁ、身分の問題は置いておきましょう。平等を謳う学園ですもの。
問題は、殿下がフローレンさんに夢中のあまり私のことを目に入れようとしなくなってしまったこと。これが恋は盲目というやつですのね。そして、それどころか私をフローレンさんを奪おうとする悪役だと、勝手に決めつけるようになられたわ。誤解を解こうとしても聞く耳を持ってくれませんの。
これが第三者であれば無視できますけれど、そうもいきませんの。これは政略結婚、お互いの為に結んだ約束ですから、無下には出来ないわ。
フローレンさんは無自覚に殿方を魅了するものだから、殿下と同じ様に彼女を恋慕う方が何人も出たわ。そしてその方々にも婚約者のご令嬢がいて、私と同じ様な悩みを抱えていたの。彼女は私を頼って集まってくれたわ。
しかし、いつまでも経っても問題が解決するわけもなく、ズルズルと状況は悪くなって行ったわ。そんな中、フローレンさんを取り巻く殿方のうちの一人であるジュリアーク様の婚約者であるオレノア様が隣国への留学から戻られたの。
彼女は以前から不思議な雰囲気を持つ方でしたわ。そんな彼女も今回のことに心を痛めていたそうなの。そして、留学から戻られるなり、途中参加の力を活かして状況を少しずつ変えてくださったわ。わたくし達に出来なかったことを彼女らしい方法で成し遂げたのよ。
そして、先ほど廊下で挨拶をした際、オレノア様が、
「……サロンの、回収、お願い。」
と言ったので、そのサロンに来てみればこの有り様。
さて、そこで魂を飛ばしているのはわたくしと、私と一緒にいるご令嬢の婚約者殿達ですわ。
どうしたものかと思いつつ、私は我が婚約者に声をかけることにしました。
「殿下、フローレンさんにフラれて辛いのはわかりますが、いつまでもここにいる訳にはいきませんわ。動いてくださいませ。」
「っは!マライア!何故ここに!また説教か!というかなんでフローレンにフラれてたと!」
「今は傷付いた殿下の心をえぐるだけですから説教は後にいたしましょう。フローレンさんにフラれてたと思ったのは今までのこととこの状況を見ての推理ですわ。」
「そうか、だがフローレンにはフラれていないぞ!」
「あら、ではフラれることに近いことですの?プライドをボキボキにされましたの?」
殿下、目をそらさないでくださいませ。
「とっ、ところでだ。何故ここに?」
「オレノア様に回収を頼まれたのですわ。そして、殿下、なんか私に言うことございません?」
殿下はハッとした顔をすると、姿勢をただして、座り直し、そのまま、
「ご迷惑をお掛け致しましたーーーーーー。」
美しい土下座をしてくださいました。
うん、きれいな土下座ですわ。周りの男性陣も各々のパートナーに土下座していましたわ。
「本当ですわ!なんのための政略か覚えてます??」
「マライアの故郷の辺境伯領が接している隣国が我が国に戦を仕掛けようとしている動きがあって、王家は辺境伯が裏切らないよう、ある意味マライアを人質にし、辺境伯は軍備の援助を王家にしてもらう。そのための政略だ。」
頭を下げたまま、王子は答えてくれましたの。格好良さの欠片もありませんわね。
「わかっているじゃありませんか。私はいつ婚約破棄されるかと、ハラハラしましたわ。」
「ごめんなさい。縁切るつもりはございません。」
「殿下、これでも、殿下のせいで傷付いてますの。」
「すみませんでした。これから精進します。」
「では、とりあえず、送ってくださいまし。」
その後、聞き分けのよくなった殿下は、家まで馬車で送ってくださったわ。
最近疎遠になっていた婚約者に私が送られて来たので、家族は大騒ぎでしたのよ。
翌日のことですわ。
私は一人で廊下を歩いておりましたの。そして、あまり生徒が寄り付かない中庭の側を通った時のことよ。どうしてそんなところを歩いてたのかは聞かないでほしいわ。乙女の秘密だもの。
さて、中庭に差し掛かると、人声が聞こえて来ましたわ。知っている声でしたから、私は立ち止まり、覗いてみたの。
そこには、例の殿下含めた男性陣。その向かいにはジュリアーク様とオレノア様。殿下達がオレノア様にご用があって話しかけているみたいね。ところで、オレノア様が、ジュリアーク様の後ろに隠れているわね。殿下達の勢いに引いて、ジュリアーク様を盾にしているのかしら。
聞こえてくる言葉を拾って、内容を整理してみる。どうやら私達とのよりをもどす良い方法を聞き出そうとしているみたいね。一方、オレノア様は渋い顔をしているわ。
それでも殿下達が必死に食い下がるから、オレノア様はどうもキレたようで、
「……自分の、こと、だから、自分で、なんとか、する、べき。」
鋭い声でそう言ったわ。
「「そこをなんとか!アドバイスを!」」
しつこい殿下達を見た彼女は眉間のシワを深くしていますわね。
「……謝る気、ある?」
「「もちろん!当たり前だ!」」
うーん、と悩むオレノア様。可愛らしいわ。
「……1ヶ月!!!!」
しばらく思考にふけった後、ビシッと、殿下の額に指を突き付けて、オレノア様はそういい放ったわ。
「……1ヶ月、ありったけ、誠意、見せる!」
あまりの迫力に沈黙する面々を置いたまま、オレノア様は続けましたの。
「……わかった?じゃあ、もう、去って。帰り道、アッチ!」
オレノア様が指を向ける向きを変えて、コクコクと首がもげそうなほど首肯する殿下達は、逃げ去るように去って行きました。幸いにも、オレノア様が指した方向が私のいる方とは反対側だったので、殿下達もそちらに行き、私は見つかりませんでしたわ。
去る殿下を見ていた目を元の位置に戻すと、オレノアがこちらを見て、手招きをしていたの。もしかして、見つかっていたのかしら?確認のために自分を指差して、首を傾けると、オレノアがうなずいたので、私は彼女の方にいったの。ジュリアーク様は気づかなかったらしく、驚いていたわ。
「オレノア様、気付いていたのね。私、上手く隠れたつもりだったのに。流石だわ。」
「……ありがとう。ところで、マライア様。お願い、ある。」
「なんでしょう?」
「……話、聞いていた、でしょ?1ヶ月は、あれ、見捨てないで、あげて。必死、みたい、だから。」
あら、そんなの、
「当たり前よ。」
「……そうなの?」
オレノア様の反応まで、少し間があったの。驚かれたかしら。
「私ね、今回のことで気付いたのよ。意外と私、あの王子に愛着があったみたいなのよ。」
政略だからと、心のどこかでその気持ちを覆っていたみたいなのよね。でも、今回のことでそれが外れたの。
オレノア様は私の言葉を聞いたあと、少し間を開けてから、
「……頑張って。」
と、それだけ言ってくれたわ。
「ありがとう。それでは失礼したわ。」
私は校舎に駆け足で戻った。
それから、1ヶ月間、毎日、殿下からの謝罪の嵐でしたわ。
以上、マライア様視点でした。