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マフラーの彼女

作者: 幻影の夜桜

「……まだ早いな」


 今日は十一月なのにも関わらず、最高気温は九度らしい。たった一桁である。

 もちろん絶賛コート日和。ただ、俺は十二月までコートは着ないと決めていた。

 このマフラーも、同じだ。


「大体な。この時期からマフラーなんてしたら冬の本場に耐えられなくなるだろってんだ」


 別に誰かに言ってるわけじゃない。

 自分に言い聞かせているだけである。

 そう、まだ秋だ。秋にマフラーなんて着けるのが邪道なんだ。





 駅にはコートやマフラーを身につけた人が多く居た。

 くそ、あいつらめ。冬になったらどうするつもりなんだ。

 ……しかし寒いな。


「まったく。女子に至っちゃ脚は出して上はコートにマフラーって何だよ。気が知れないな」


 別に誰かに言ってるわけじゃない。

 実際女子を前にしたらやれオシャレだの、やれ男子もしてみろだの、文句を言うに違いない。


 あの女子高生だってそうだ。生脚は見せるくせにコートを着てマフラーで鼻まで覆って……。


「なんだあの子。あんな子いたっけ」


 白い息を吐いて小さく震えながらとある女子を見ていたら、その可愛さに思わずびっくりした。

 好みドンピシャである。それにマフラーもとても似合っていた。

 もうこの駅を通学に使って二年になるというのに、どうして気付かなかったのだろう。


 そんなことを考えながら思わず見とれていたら、反対側の電車に乗って去ってしまった。





 三月一日。

 マイルールで三月になったらマフラーを付けないという約束がある。春だからだ。


「三月でも着けてるやつはどうせ十一月から着けてるんだ。それみろ」


 別に誰かに言ってるわけじゃない。

 自分に言い聞かせているだけ。


 駅に着くとみんなマフラーをしていた。

 三月とはいえ、今日は寒かった。

 まだ全然冬だった。


 そんなマフラーを着ける人たちを、俺は一人一人見ていった。


 ……居ないな。今日は居ない日か。


 あの女の子を探したが、今日は居ない日らしい。諦めようとすると、ドンと誰かとぶつかった。

 ごめんなさいと頭を下げた女子高生は、件の彼女だった。


 いいよ、と俺の声を聞いた彼女はハッと顔を上げた。やっぱりマフラーをしていて、とても似合っている。


「あ、やっぱり冬しかマフラー着けないんだ」


 多分思わずこぼれた独り言だったんだと思う。

 でも俺は反応してしまった。


「ああ……やっぱり目立ってた?」


 女の子は俺の返事を聞いて口を押さえた。相手に聞こえるほどにこぼれたことに今気付いたらしい。


「あ、ごめんなさい……えっと、すごく寒そうにしてたから……でも、冬しか着けなかったから。そんなルールあるのかな、って考えちゃって……」


 あわわ、と答えた彼女は可愛かった。


「でもすごいなって。私冬に弱くて、すぐ厚着しちゃうし、朝は寝坊しちゃうし。それで冬は遅くなりがちで。……だから、すごいな、って覚えちゃって」


 ……なるほど。冬まで見なかったのはそのせいか。


「今日も寒いもんね」

「は、はい……! あ……電車来たので、失礼します! ……耐寒頑張ってください!」


 そう言った彼女はとてててと走っていった。



 もうちょっと寒い日が続けばいいな。

 あの子がもう少し寝坊するように。

 あの子がマフラーを着けるように。



来週土曜日から恋愛小説連載しますので、そっちもよろしくお願いしますね。

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