「思いつき」
世界のどこかの、小さな国。そこでは、二つの民族の確執の歴史が続いていた。片方が権力を掌握するともう片方は差別され、その一方が盛り返すと片方の待遇が悪くなる。それぞれ海峡を越えた先の大国にルーツを持ち、そちらもいがみ合っているため、数百年ものあいだ、戦乱は絶えなかった。
危険には、ある特定の人々を引きつける魅力がある。どうやら取材に訪れたらしい二人の若者が、周囲を慎重に伺いながら、刹那的な活気に満ちた街を歩いていた。
「‥‥と、いうのがこの小さな国の歴史だ」
「こうやって双方の主張を聞いて集めてみたが、埒があかないなあ」
「解決の仕様があるのかね」
「先に、どちらかがまず恨みを捨てて歩み寄る、とか」
「どっちが? どっちも、出来ないだろう、そんなこと」
互いに差別と被差別を繰り返してきた歴史だ、そう簡単に解決策が見つかるはずもない。
「国連やアメリカが調停に乗り出しているようだが、何の役にも立たん」
数百年にも渡るいがみ合いが、設立数十年の国際機関に解決できるものか。
解決の手段があるとすれば‥‥。
「こんな小さな島の中で何百年も憎み合っているなんて。いっそのこと、こんな島、核ミサイルでも撃ち込んで‥‥」
「おいおい、滅多なことをいうなよ」
「却って清々するんじゃないか」
次の瞬間。街中に鳴り響く警報。
「え、何だ、緊急地震速報か?」
日本人ならまずそれを疑うのだが‥‥これは!
「ミサイル‥‥弾道ミサイル警報だ!」
数百年の確執を一気に解決‥‥誰か、どこかの軍事大国の偉い人がしびれを切らせて、同じことを思いついたようだ。
街は、いやその小さな国中が、眩い光と轟音に包まれた。
おわり